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神の居ない世界にて  作者: アウラ
1.He interacts with her
18/249

17.

大変長らくお待たせしました。

ヒロインの登場です。

 陽里達が戦っている場所から距離にして約2km先、複雑な高層ビルのジャングルを掻い潜った先に位置する一際高いビルの屋上にて少女がスコープを覗いて狙いを定める。


「すぅー……はぁー」


 敵の弱点は知っている。


 白銀色の阿羅機(アルハード)の弱点は関節部。それも多数の関節が密集している首や手首足首の装甲は薄い。


 双頭犬(オルトロス)の弱点は目と口だ。特に口は火炎放射を放つために口を撃ち抜けば攻撃手段を潰す事につながる。


「って、もう! 止まってよ!」


 普段の少女ならばとっくに撃っていると言うのに未だ撃てずにいた。


 と言うのも白銀の阿羅機も双頭犬も常人が理解出来る速度を超えて動くためである。


 直線運動ならばまだ撃てる自信がある。


 だが1人と1体はジグザグやら円運動やら曲芸のような動きをするのだ。


 そのような狙いを狂わせる動きをされてしまえば狙撃の腕に自信がある少女も撃てる気がしなくなると言うものだ。

 かと言って距離を詰める事は出来ない。


 通常、阿羅機の感知範囲は2kmである。

 ちなみに5kmまで感知する事も可能であるが非戦闘区域まで感知しかねないために人の感知は無視される事から危惧する必要はない。


 つまり2km以上離れていれば阿羅機士(アルハーダー)に気付かれる恐れは低い。

 逆に言えば2km圏内であると気付かれてしまう。


 魔獣(ホレット)についてはさらに感知範囲は狭い――それでも十分に広いのだが――ため距離について警戒するべきは阿羅機の方である。


 今いるところは彼らから2kmより僅かに遠いビルの屋上。場所を移す事は不可能だ。


(潰し合った後に油断したところでもいいかしらね)


 諦めて漁夫の利作戦にしようかと思ったところで動きが出た。


 双頭犬が直進して阿羅機にタックルしようとしたのだ。


 少女は好機と思いスナイパーライフルの引き金を引く。


(あの阿羅機はびっくりするくらい速い。これくらい避けてね。……って、ええ!?)


 陽里を抜けたその先の双頭犬の口に狙いを定めて撃たれた銃弾はアスファルトに直撃する事で止まった。


 両者における少女の想像を超えた反射速度でもって躱されたのだ。


(やばっ、気付かれた!)


 双頭犬は陽里を標的から外して少女に迫る。


 マッハを超えた速度は複雑なコンクリートジャングルを掻い潜ったとしてもものの数秒で辿り着くだろう。


「来なさい、化け物!」


 重さ12kgのスナイパーライフルを双頭犬がどこから現れるかもわからず構える。


 そして少女の視界が少し暗くなる。


(影?)


 少女の後ろには巨大な黒い2つ頭の犬が飛び上がっていた。






 陽里の頭上を飛び越した双頭犬。


『対象が特定方向に向かって走行中。……割り出し完了』


(そんなものはわかっている)


『対象は音速を超えて走行しています。到着予想時間は残り5秒です』


 次々と報告するMCASS(バックアップシステム)に耳は傾けない。


 陽里は既に双頭犬の狙いがわかっていた。


(そりゃ水をさされたら腹を立てるよね)


「速度制限を解除」


『了解。速度制限を解除しました』


 MCASSが状況を理解してくれたおかげで遂にケラウノスの制限が全て解除された。


「さて行こう。水をさされたからって敵に背を向けるとはいい度胸だね」


 途端、急加速。


 一瞬にして音速の3倍へと速度を引き上げる。


 ケラウノスは地上を走らない。


 2機のブースターによって目の前のビルを飛び越えて高度を上げていきそのまた奥にそびえ立つ超高層ビルに向かう。


 その跡には2つの衝撃波が残った。


 1つは双頭犬による衝撃波。

 その通過跡は地面が抉れ、道路に面するビル下層部の窓はほとんどが割れていく。


 もう1つは陽里による衝撃波。

 斜め上に飛び上がったために一部のビルは半壊、窓は残っていなかった。


 災害は広がっていき、やがて1ヶ所に集中する。


『目的地上空に着きました』


 陽里は急減速によって上空1200mから自由落下が始まる。


 双頭犬も着いたようでビルを駆け登っている。


「ビルに激突した方が効率的だと思うけど?」


『その場合、双頭犬の自滅の可能性があります』


 陽里のふとした疑問にすぐさま答えを出すMCASS。


 双頭犬はビルを登り切って少女に狙いを付ける。


 この時になってようやく少女は後ろから迫られた事に気付いたのだ。


(嘘……。動いてよ!)


 知覚はできていても体が動かなかった。


 12kgもあるスナイパーライフルを一瞬で180°回転させて口や目に正確に撃つのは無理な話である。


 少女が目を瞑ったその時――


「ギャンっ!!」


 少女が再び目を開けた時には双頭犬の姿はなかった。


観測手(スポッター)って狙撃ではいるものじゃないの?」


 彼女の目の前には双頭犬の代わりに白銀色の阿羅機――陽里が背を向けて立っていた。


 一昔前の兵法では常識のツーマンセルではないのは珍しい。尤も、この時代で狙撃銃を使ってる時点で既に珍しいのだが。


 そう陽里が以前読んだ資料を思い返しながら少女に問うた。


「わ、悪い?」


 悪態を付ける辺りまだ余裕は残っていたようだ。仮にも音速で迫る相手に殺されかけたと言うのに。


 陽里は少女の返答に問題はないと思って真下を見つめる。


 その真下――地面に叩き落とされた双頭犬は立ち上がった。


「マジか……。片方頭を潰しても討滅出来ないのか」


 自由落下の時に雷槍を投げ放ち、見事に双頭犬の頭を貫いたのだ。


 少女からしたら間一髪だが陽里からしたら双頭犬が油断する瞬間を狙ったまでである。


 そうでなければ片腕ならぬ片頭を潰せなかっただろう。


 激昂した双頭犬は再度ビルを駆け登る。


「冷静だったらもう少し張り合えたかもね。……雷銃」


『雷銃のチャージを開始します』


 現れたのはマスケット銃のようなライフルのようなケラウノスや雷刃・雷槍と同じ白銀色の小銃。


「そうそう、耳塞いだ方がいいよ」


 陽里は後ろにいるであろう少女に注意する。


「え?」


 少女の呟きと共に双頭犬が飛び出してきた。


「雷霆」


 瞬間、何も音が聞こえなくなる。

 あるのは海の方面に向かって水平に放たれた巨大な青光り。

 遠くでヘリや阿羅機士の動く音、双頭犬の悲痛な叫びや衝撃波よって割れていく窓ガラスの音、そして陽里が放つ雷の音も聞こえない。


 しかし、その直後に衝撃音が轟く。

 辺りには電撃が飛び散ってオゾンの臭いがする。


『対象の生命反応がロストしました。雷銃のクールダウンを開始します』


「4体目、討滅」


 雷銃を降ろして陽里は呟く。


 双頭犬は跡形もなく討滅されたのだった。


 そして再び静けさが戻る。


「なんなのよぉ一体……」


 少女の呟きに陽里は振り返る。


 そうして結城陽里は少女に出会う。

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