15.
「残り6体か」
来た時点では10体いた魔性犬がおよそ半分に減ってしまった。
阿羅機士は自分を含めて7人、2人で1体の魔性犬を討滅するのが基本としているようで先の青年阿羅機士は単独行動していたようだ。
まだ交戦中なのが2人いるので計算は合う。
陽里が次の目標を定めながらそのような事を考える。
(あれかな)
ビル3つ向こうに赤いシルエットが獲物を探すように嗅ぎ回っている。
陽里は刹那の間に亜音速に達してビルとビルの合間を縫うように移動する。
その移動時間僅か1.3秒。
しかし魔性犬からしたらそれだけの時間があれば接近に気付くものだ。
陽里が魔性犬の目の前に現れた時には相手は既に迎撃の体勢を取っていた。
魔性犬も陽里に負けず劣らずの加速でもって陽里に突撃する。
それを陽里は剣を持たない方の手で弾き飛ばして雷刃で一閃する。
「2」
すぐさまその騒ぎを嗅ぎつけた魔性犬2体が陽里を挟み撃ちにして待ち構える。
(そっちから来てくれるのは助かるね)
2体はシンクロした動きで陽里に迫る。
「雷槍。フレーム展開」
雷刃が光の粒子に分解されてすぐに形を変えて槍頭の真ん中が抜け落ちた継ぎ目のない白い槍が現れる。
『フレーム展開』
そしてその真ん中が淡い青白色の光を出す高圧大電流の刃が現れる。
そうした一連の動きが陽里の移動中に行われた。
陽里は雷槍を現れるのを待たずに片方の魔性犬に向かっていったのだ。
「3」
最早1体1で陽里に敵う魔性犬は存在しない。
陽里が握る雷槍によって心臓を貫かれた魔性犬はピクリとも動かずに討滅された。
『警告、前方2km先より高速物体飛来。0.8秒後に頸部に衝突する可能性100%。装甲貫通の可能性80%』
MCASSがラグなく阿羅機士に伝達される情報によって陽里は超音速で迫るそれを避ける。
見事にケラウノスの数ある弱点の1つである頸部を狙われたために未知なる何かに対して避けるしか手段がなく、サイドステップで紙一重でそれを避ける。
直後にキンっと高い音が響いてアスファルトが小さく抉れる。
(狙撃かな)
『形状より弾丸と推測されます』
避けた際にケラウノスが感知しMCASSによって解析されて陽里に報告される。
陽里は弾道を遡ってビルの屋上を見る。
『拡大します』
望遠鏡で除いたように約2km先の人影を映す。
「……人?」
逆光のために色は判別出来ないがウェーブのかかった長い髪――おそらく女性がスナイパーライフルと思しきものを向けていた。
『警告、後方より魔性犬』
「戦闘中だったな」
この事がすっかり抜け落ちていた陽里ではあったが焦る事はない。
残った1体が既に喰らいつかんとする状態であったため、一旦槍で防いで距離を取って立て直そうと思考するが――
(あれ……)
その衝撃は予想を大幅に下回るもので陽里は呆気に取られる。
『対象の生命反応がロストしました』
「え?」
『対象の生命反応がロストしました』
陽里の言葉を聞き返しと捉えたMCASSが再度魔性犬の死亡を告げる。
「仮にも魔獣だと言うのに……」
魔性犬は陽里がその槍で討滅する前にその命を落とした事となる。
「目が撃たれてる」
それは以前の戦闘でも目にした魔性犬の死骸と同じものだった。
『対象は先程の同種の銃弾にて目を貫通し脳にまで達したと推測されます』
「2km先で!? そんなバカな」
止まっているものを狙撃するのならば不可能ではないかもしれない。
だが相手は動く――それも高速で移動する魔獣である。
それを目と言う僅かにでもズレたら当たらない場所を撃ち抜いたのだ。
偶然と言うレベルではない。奇跡とも言うべき神業であった。
「MCASSでも使ったのか」
だがそんな奇跡的な事象を可能とする手段はこの現代には存在する。
MCASSを使えばどのタイミングでどの向きで撃てばどこに当たるかがわかる。
莫大且つ複雑な計算によって一種の未来予測を可能とするのだ。
『使用履歴はありません』
だが違うと言う。
(ならばなんだ……?)
正直のところ陽里は消去法で先にMCASSの可能性を潰しただけでその可能性は考えていなかった。
目と言う弱点にしか効果を発揮しないであろう銃弾を撃つためにMCASSを使うくらいなら阿羅機1体を増やした方が効果的であるからだ。
『報告。残存する魔獣が1体となりました』
陽里の思考を遮るようにしてそれは現れた。
通常の魔性犬を2回り大きくした巨大な黒い犬。
目は赤く犬とは形容し難い顔であった。
そして何よりの違いが――
『双頭犬――ランクBです。ご注意ください』
頭が2つある巨大な黒い犬が飛び降りてきた。
ヒロイン登場回でした(しゃべるとは言っていない)




