14.
ショッピングモールに来てる中、サイレンが鳴り響く。
『敵襲警報です。敵襲警報です。ご来場のお客様は速やかに地下5階、避難エリアに移動してください。繰り返します。敵襲警報です。ご来場のお客様は速やかに地下5階、避難エリアに移動してください。これは訓練ではありません』
放送により客の移動が皆地下へと向く。
中には走る者もいるがほとんどが歩いている。
「特A区だったらパニックだろうな」
陽里は歩きながらそう冷静に人の流れを観察しながら呟く。
A区南部は魔獣が特に現れやすいために現在避難のために人がいないが東部などはまだ多くの人が住んでいる。
とは言っても襲撃の可能性がゼロとは言えないので定期的に避難訓練をしているのである。
その成果がこの冷静な避難である。
一部パニックを起こしているのは特A区から来た客なのであろう。
彼らは第参都市で1番安全な地にいるために避難訓練なんてものはない。
そのため、こうした事態にパニックを起こしているのであろう。
しかしそうした人を宥める人はいても力で黙らせる者は誰もいない。
特A区――それは第参都市の中枢であり、この区の陥落は第参都市の陥落を意味し、引いてはヴェスティール神和国が太平洋に手を掛ける事を意味する。
要するに特A区はテオスマキアを左右しかねない程に重要な地であるのだ。
そんな場所に住む人間が只者な訳がなく、権力者であったり資産家であったりする。
彼らを力で黙らせようものなら後がどうなるか考えたくもないものだ。
従って必然的に彼らに関わりたくない思いが一部のパニックを放置する結果になるのだ。
とは言えここは戦線A区だ。パニックが伝染する事はなくこの点在するパニックでさえ平常なものなのであろう。
「で、出現場所はどこ?」
やっとの思いで辿り着いた場所に立って陽里は1人呟く。
『A-8区です』
彼の脳内にすぐさま返答がくる。
「ここから近いな」
白銀色の意匠を凝らしたフォルム――阿羅機ケラウノスの姿がショッピングモールの屋上にあった。
「人の流れに逆らうのがこうも面倒だとは思わなかったな」
特A区では避難などなかったためにそんな事はなかったし、そもそも陽里は特A師団基地からあまり外に出なかった。
「さて、行くか」
陽里は屋上から飛び降りてそのまま地面に落下すると思いきや落下する速度が緩くなり、水平方向に加速が始まる。
遂に落下速度はゼロとなり、そのままマイナス――上昇を始める。
依然として水平方向の加速は収まらず建ち並ぶ高層ビル群を避けながら加速する。
高度は超高層ビルを超えて見通しが良くなる。
『非戦闘区域内における高度が定値を超えたため加速制限が解除されました』
その言葉と同時に陽里はマッハの壁に並ぶ。
陽里から見る景色が歪む。
先まで音速の半分にも満たなかった機体が一瞬にしてマッハに迫ったのだ。
『31秒後に戦闘区域に入ります』
「もう少しスピード上げたいな」
『非戦闘区域内での音速以上の速度は禁止されています』
マッハを超える事はすなわち周りに衝撃を生むと言う事である。
ただでさえケラウノスの急加速で周囲を破壊しかねない衝撃を撒き散らすのに、そんな衝撃波を継続的に撒き散らす事となれば街は壊滅状態になりかねない。
低高度の時は周囲に被害を出さないよう急加速をせずゆっくり加速しなければならないのだ。
高度も十分なため音速を超えても被害は出ないと思われるが、戦闘もないのに爆音を鳴らすのはやはり良くないのだろう。急加速は許されても速度に制限は付くのだ。
『戦闘区域に入りました』
「速度制限の解除を申請」
そう陽里が言うも。
『必要な状況が認められません。解除理由の提言を求めます』
第一兵団はなるべく被害を出さないで防衛するのが目的なのである。やはり音速を超える事は許されないのであった。
「敵数を計測」
『周囲2kmの敵数を計測します。……全10体、内4体が6機の阿羅機士と交戦中。表示します』
そうして表示された敵を示す赤いシルエットと味方を示す青いシルエット。
陽里はスクランブル交差点に着地をして周囲を見渡す。
すると1機の阿羅機が近付く。
「増援か? えらく早いな。いや、1機だけの増援なんて聞いた事ないな」
「今日はたまたま休みで実家に戻っていたのですが近くで敵襲と聞いて来ました」
嘘八百であるがそのような事は気にしない。
「そうか、ここに来るまでに歩きでは大変だったのではないか?」
「いえ、避難区域との境界線が実家だったので割と近かったです」
「そうなのか……」
同情するような声であるがそれも仕方ないものである。
避難区域は既に住居を捨てたようなものでその土地に拘りがない限りそこを去るのに躊躇いはないが、その周辺に住む人達の引っ越しは避難の関係で制限されているため、ある日戦闘で倒壊する可能性もあるために住居を失うリスクを背負わなければならないのだ。
そのような事は陽里には関係なく、また移動も苦労していない。
陸戦型の阿羅機が戦地に移動する時、地上を阿羅機で走行した場合その路面は通常の利用を目的として作られているために阿羅機の走行に耐え得るだけの耐久性がない。
よって移動は徒歩などに限られてしまう。
従って空でも飛ばない限りヘリで移動するのが得策であると言う事だ。
つまりケラウノスは――
『魔性犬――ランクCです』
黒く大きな犬が牙を出して陽里達を睨む。
(また、犬か)
陽里と先の青年阿羅機士は魔性犬に対して構える。
「最近よく湧くな。沿岸部で見つかるが結局は市街地戦になっちまう。なんでだよ」
「それはボク達が考えるものじゃありません。今は目の前の戦闘です」
「そうだったな」
青年の嘆きに陽里が淡々と答えて彼ははっと気付かされる。
お互い見識のない関係であるが味方であり助け合う関係である。
まずは自分が魔性犬を引きつけようと武器を召喚しよう。
そう青年が考えている合間に――
「1」
魔性犬の首と胴は乖離していた。
青い稲妻。
言葉の通り電光石火。
雷刃を構えた陽里が振り返って言う。
「ここはボクがやります。あなたは他の隊員の補助に回ってください」
「りょ、了解」
余裕――否、絶対的な差からの当然の理。
青年は陽里の言葉に従うしかなかった。
「さて、今日は何体討滅出来るかな」
青年が去り、魔性犬はものを言わない骸となった今、彼の呟きを聞くのは機械仕掛けの神しかいない。
次回、ヒロイン登場




