97.
95話でお伝えした通りこの話は第4章を書き始めてた人が急遽戻って書き加えた話です。
確認したつもりではありますが96話目と98話目で齟齬が生じているかもしれません。出来れば目を瞑っていただけると……(苦笑
デートだと判明したところでそれとは関係なく腹は空くものである。
夕方前には2人共空腹となっていた。
片や錠剤1つ、コーヒー1杯にジェラート1つ。片やフレンチトーストにアイスココアとジェラート1つ。
明らかに陽里の方が空腹感が強い筈なのに言い出したのはルナリアであった。
「お腹空いた。ご飯食べに行きましょ」
八つ当たりに限りなく近い怒りをぶつけ終わったルナリアはいっそ清々しい顔で陽里に言う。
「ここで食べる?」
まだ2人はショッピングモールにおり、何かを買って戻って食べるより外食の方が功利的と判断した陽里が提案する。
「それもそうね。そうするわ」
これもデートの要素であるが陽里は知らずに、ルナリアは触れてなるものかと言った様子で歩き出す。
多くのショッピングモールで見られる事だがここも例に漏れず最上階には飲食店が並んでいた。
「あそこにしましょ」
ルナリアが指差す先は――
「流石にそれは……」
陽里ですら苦笑させるそれは甘煮屋と書かれた店であった。
何故甘煮に拘ったかを除けば特段おかしな要素はない。
しかし思い出して欲しい。
片や錠剤1つ、コーヒー1杯にジェラート1つ。片やフレンチトーストにアイスココアとジェラート1つ。
昼にジェラートを食べており、ルナリアに限っては甘いものしか口にしていないのだ。
陽里は甘いものが苦手な訳ではないが甘いものが好きな訳でもない。
甘いもの以外にも辛かったりしょっぱいものを食べたくなると言うのが人の性であろう。
「何よ。不満なの?」
ジト目で睨むルナリア。
もちろん不満だから陽里は苦笑しているのだ。
「仕方ないわね。じゃあヨーリの驕りならいいわよ」
何が仕方ないかはさて置き、陽里は今日初めての食事にありついた瞬間だった。
「そこでいい?」
取り敢えず甘くないもの、で探して目についた店を差す。
「ふーん」
微妙な表情で見るそれはイタリアンレストランだった。
「……まぁいいんじゃない」
渋々と言った様子で了承したルナリアは店に入っていった。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
営業スタイルを浮かべる店員に陽里は2本指を立てて案内される。
混雑する前だけあって客は少なかった。
「霊界堂財閥ねぇ」
ルナリアはメニュー表に描かれた店のロゴを見ながら呟く。
「どうかしたの?」
陽里が尋ねる。
「別に」
ルナリアは素っ気なく答える。
第参都市には霊界堂財閥と言うものがある。
連合国が誕生してまだ時が経っていない頃、連合歴2年の話である。
原始金属と言う原子番号外の金属原子が霊界堂財閥の創始者にして当時の連合国を代表する研究者であった霊界堂龍蔵博士によって発見された。
78年経った今でも原子核構造も電子数も不明と言う謎の原子の発見は連合国全体を震撼させた。
全ての金属に極微量含まれているが今日まで発見されなかった事から精製は困難に思われた。
しかし翌年には霊界堂博士によって精製法が確立したと発表され、原始金属の解明へ乗り出す。
そしてその半年後には彼によってその性質が明らかとされる。
その性質の1つに質量エネルギーを取り出すのに耐え得るだけの強固さを持つと言うものがあり、原始金属の必要性が高まった。
しかしここで問題が発生した。
霊界堂博士は原始金属の存在と性質だけ公表し精製法を秘匿したのだ。
始めの内は他の研究者も黙していたが、次第に研究の公表を求め始めた。
だが霊界堂博士はこれに反発し研究所を離脱、独自の研究所を構えた。
それは研究所と言うより企業と言えるものだった。
その後、原始金属は霊界堂博士の持つ工場だけで精製され販売された。
神和国と戦うために必要不可欠のそれは大量に購入され、その結果、霊界堂博士の企業は拡大していきいつしか財閥となった。
今では原始金属の精製や阿羅機開発から金融機関、旅行会社まであらゆる方面に進出している。
数年前にクーデターがあった事は有名だが、それを一顧だに値せず乗り越えてみせ、今でも第参都市の経済を支えるこの霊界堂財閥が飲食業界に手を出していてもおかしくはない。
「秘密にしなければ今頃どうなってたのかなって思っただけよ」
「……ルナってそんな感じだったっけ?」
直後陽里が殴られた事や、ルナリアがちゃっかりデザートを注文した事は言うまでもないだろう。




