憑りつかれた卓球少女だった恵ー2
運命の全国中学校卓球大会
そして、全国中学卓球大会の県予選が始まった。
この大会の成績が、強豪校からの推薦を左右する。
ここで全国大会への切符を手にいれれば、卓球選手としての道が開くが、敗退すれば大抵の子は受験勉強に舵を切ることになる。
母は見ていられないほどナーバスになっていた。
私は、ただ静かにラケットを握る。
個人戦、3回戦まで接戦を演出しながら勝ち進んだ。
ついに“魔の準々決勝”へ。
相手は――前回わざと負けた西田さん。
でも西田さんはあの勝利から自信をつけ、連勝を重ね、今や優勝候補。
第1ゲームは探り合いの展開。11対9で私が取る。西田さんはちょっと固くなっていてミスが多い。前回は接戦だったし、西田さんの中では私はまだ強者なのかも知れない。自然な流れで私が取った。
私は第2ゲーム以降の流れを組み立てた。第2,第3ゲームは私が落として第4ゲームで追いつき、最終ゲームは接戦ながら敗退。
第2ゲームは西田さんの土俵に乗った。
台から離れてロングボールの打ち合い。観衆受けする展開。
ギャラリーも増えてきた。
9対11で落とした。
西田さんは強くなっていた。
取りにくいコースに放ったボールが、強烈なドライブで返ってくる。
下位の選手なら支配できる。
でも上級者相手だと、完璧な支配は6割が限界。
支配を組み立てる前に勝敗がついてしまう。
第3ゲームも同じ展開。
7対11で落とした。西田さんはゾーンに入ったみたい。
強打のコース取りが冴えわたってきた。私は何とか返球するのがやっと。
新しいサーブも繰り出してくる。
たぶん、西田さんはこの試合の中でさえ進化している。
まだまだ強くなる選手だ。
休憩タイム。
予想通り「ドライブ戦で付き合うな」という指示。
――これも、私の支配の一部。
試合を組み立てるためには、監督すら支配しなきゃいけない。
第4ゲーム、私はストレスが溜まっていた。西田さんと本気で勝負したい。
前の2ゲーム、3ゲームで西田さんの動きは頭に入った。いろいろな支配パターンが浮かんでくる。
私は前陣速攻に切り替えた。
強打のブロック。意表を突くカットボールの返球。前後への揺さぶり。
ロングドライブも思いっきりスピンをかけて返球した。
1ゲームくらいブレーキを踏まないでプレーしてもいいよね。
11対6で取った。
そして最終ゲーム。
点を取り合う接戦で負ける予定だったが、西田さんのミスが急に増えた。
6対2で私が大きくリードしてしまった。
卓球はナーバスなゲーム。4ゲーム目でちょっとやりすぎたかも。
西田さんから見たら、予想もできないボールが返ってくる前のゲーム展開は相当なプレッシャーだったみたい。
完全に試合の流れは私側・・・
西田さんの監督からタイムが入る。ナイス、監督。
私も西田さんのサーブレシーブを2回ミスしてゲームの流れを変える手伝いをした。
西田さんは息を吹き返してくれた。
強烈なドライブが戻ってきて、私もロングで応戦。
西田さんの得意技を出させながら集まったギャラリーを満足させる接戦を演出する。
8対8まで戻したが、西田さんの返球がだんだん甘くなってきた。
今度は体力の限界らしい。肩で息をしている。3ゲームでゾーンに入って強烈なドライブを打ち続けた反動が来たみたい。
このままでは私が勝ってしまう。いくら何でもこの展開で私も甘いボールを返したら、手加減がばれてしまう。
私は西田さんのボールを渾身の力で強打してネットに引っ掛けた。そしてちょっと蹲って足を押さえた。足がつったことにした。
監督がタイムをとってくれた。ナイス、監督。
足の筋肉を伸ばして冷やす応急処置。
まだ戦えることをアピール。これで西田さんも少し休めたはずだ。
最後は低調な内容になってしまったが、9対11で西田さんが勝った。
西田さんは勝った瞬間、がくっと膝をついたが何とか立ち上がって監督に向かった。
チームメイトが歓声をあげている。
西田さん泣いてる?
まだ準準決勝なのに。でも何だか眩しい・・
私も監督に頭を下げる。
母の姿は、もうどこにもなかった。
ほっとしたような、怖いような、複雑な気持ち。
結果は計画どおりだったが、支配の快感は全くない後味の悪い結末。
吐きそうなくらい。
でも、これで普通の中学生に戻れる。
この時は、普通の中学生って何だ分かってなかったけど。




