9.少しでも長く…
―麻琴Side
委員会の仕事内容と自己紹介で顔合わせが終わり、帰ろうとしたとき、颯汰が話しかけてきた。
「あれ結月ちゃん、もう帰ったの?」
桃花と部活見学の約束をしていた結月は、一足先に教室を出ていた。
「うん。部活見学行った」
「そっか。じゃあ、三人はサッカー部行こうか!」
「?(三人って言った?言い間違いか、聞き間違いかな) じゃあ、私帰るね。また明日…」
「待った。麻琴も行くよ~」
帰ろうとした私の手首を颯汰が掴む。
「は?なんで?」
急に掴まれた手首を振り払おうと、腕をブンブンと振るが放そうとしない。
颯汰が掴んだまま歩こうとしたので、動かないよう力を入れたが
「いいから、いいから」と強引に引っ張って行かれた…
(今逃げたら面倒くさいし、とりあえず付いていってグラウンド着いたら帰ろう…)
こうなってしまった兄は面倒くさいと、抵抗は諦めた。
グラウンドに着くと、同じサッカー部の湊が声をかけてくる。
「いらしゃ~い… って、颯汰どんな連れてきかたしてるの… 麻琴ちゃんだよね?大丈夫?」
「大丈夫です。下は見えるので」(こんなメンツと一緒にいるの見られたら、どう思われるか…)
頭からジャージを被り、犯人が連行されている時のようなスタイルで現れた麻琴に、湊は少し驚いていた。
「そういう事じゃないけど… ほら颯汰は着替えておいで~」
そう言われ、颯汰は掴んでいた手を放す。
やっと兄から解放され、そーっと帰ろうとすると…
「あっ! 麻琴が帰らないように見張っといて! 30分は居る約束だから」
颯汰がビシッと指さし、三人に言う。
「そんな約束はしていません」
「じゃ、よろしく~」
私の声は聞こえないとでも言うように、着替えるために部室へ入っていった。
(今なら帰れるけど、そうしたら三人に迷惑かかるし… 家でうるさそうだし…)
「はぁー 兄がすみません。部活始まったら私のこと忘れると思うので、少し見学したら帰ります。」
三人が大変そうだな~という顔で見てくる…
「まあ、抜けるのも自由だから 好きに見学していってね。じゃあ」と湊は練習に戻った。
(さすがに、この二人と一緒って訳にはいかないから、離れたところから見るか…)
「それじゃ、私少し離れたところで見るから。 また明日ね」
そう言って二人とは別れると、後ろから「また明日~」と朝陽の声が聞こえた。
―柊斗Side
(麻琴と一緒の時間もここまでか…)
委員会が終わり帰ろうとする麻琴を見て、朝陽と部活見学に向かおうとしたが、颯汰が話しかけてきて四人でグラウンドに向かうことに。
颯汰に強引に引っ張られる麻琴の後ろを、朝陽と歩く。
麻琴は頭からジャージを被っていて、颯汰が理由を聞くと
「周りの視線を見たくないから」と少し怒ったような声で答えた。
そんな麻琴に対し「よくわかんね~」と颯汰が笑い飛ばす。
「俺ら、どう思われてるんだろうな…」
朝陽がボソッと呟くが、俺は周りの視線より、麻琴が転ばないかだけが心配だった。
「あんな無理矢理連れてこられたのに、ちゃんと見学するんだから偉いよな~」
そう言う朝陽の言葉で反対側の石段に腰掛け見学している麻琴を見る。
(少ししたら帰るって言ってたけど、ちゃんと30分はいるんだろうな…)
予想通り見学して30分が経った頃、帰ろうと腰を上げる麻琴の姿が目に入った。
「帰るみたいだな… 一緒に帰ったら?」
「―…は?何言ってんだよ。」
(急に何言い出すんだ)
「ほら、部活入らない代わりに歩いて帰るって言ってただろ~ 自転車でサーっと通ればいいじゃん」
「いや、でも…」
「部活はじまったら、こんなチャンスないぞ。早めに見学終えたら、たまたま会ってしまった…という設定で、ほら頑張れ~」
朝陽にグイグイ背中を押されながら、門に向かって歩く麻琴の姿を見る。
(確かに、朝陽の言うとおりかもしれない)「―…ありがと。行ってくる…」
と朝陽に手を振り走り出す。
物理と精神の両方の意味で背中を押され、追いかけることにしたけど…
自転車だからすぐに追いつくかもしれない、見かけたらどうする?
今まで話してこなかったのに、急に話しかけてきたら変に思われるかもしれない…
でも……少しでも多く、長く見られたら…
そう思い自転車を走らせた―…
…
颯汰は案の定、部活が始まると麻琴が30分いたかどうかも気にしていなかった。
湊は覚えていて、しっかり見学していた麻琴を偉いなと思った。




