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No.15 愛する人のために

ダージリンとストレートが、街へ急いで駆けつけると、そこには、信じられない光景が広がっていた。


建物は燃え上がり、黒煙が空へと昇っている。


「火事だ!」


「早く逃げろ!」


人々の悲鳴が響き渡っていた。


さらに、街のあちこちでは魔物が暴れている。


ダージリンは目を見開いた。


「どういう事なんだい……」


近くの噴水の前では、紅の騎士団(ルージュ・オルドル)の団員たちが怪我人の手当てをしていた。


血を流している団員が、噴水にもたれかかりながらダージリンを見る。


「ダージリン……さん…………アイツらです……」


苦しそうに言う。


「教会組織の……」


その横で忙しなく治療をしていたアッサムが口を開いた。


「……時計台を燃やした男が、華を寄越せって言ってたらしいよ」


ダージリンは燃える街を見渡すと、


「狙いは華か……」


表情が険しくなる。


「教会組織はどうしても女神を手に入れたいらしい」


その時、後ろから足音が響く。


「派手にやってくれてるじゃねぇか」


振り向くと、そこには黒の騎士団(ノワール・オルドル)が立っていた。


その先頭にはブラックが、周囲の炎を見渡しながら言う。


「今は一時休戦だ。……あの女は?」


その言葉にストレートが前に出た。


怒りを露わにしているようだ。


「お前な!お前の部下のせいで――」


だが、ダージリンが静かに制した。


「ストレート、やめなさい」


ストレートは歯を食いしばりながら下がる。


ダージリンはブラックを見て、


「華は助かったよ」


小さく頷いた。


「ありがとう。……それで、この騒ぎは教会組織(エクレシア・ルミナ)のせいらしいね」


ブラックは舌打ちした。


「……あの狂信者共か」


そして剣を抜くと、鋼の音が響く。


「とりあえず話は後だ」


周囲の魔物を睨む。


「雑魚達を片付けるぞ」


紅の騎士団と黒の騎士団は共に剣を構え、魔物へと突撃した。


炎の街の中で戦いが始まるが、魔物達を次々と倒していく騎士達。


ブラックが、最後の魔物の首を斬り落とすと、魔物は倒れ、動かなくなる。


ブラックは剣を振り、血を払った。


「……これで最後か?」


その時、上から声が降ってきた。


「やあ、皆さんお揃いで」


ダージリン達は一斉に上を見る。


燃えているお菓子屋の屋根の上、そこに立っていたのはディアナだった。


ブラックが刃を屋根へ向ける。


「やっとお出ましか?お前……何がやりたい?」


ディアナは鼻で笑った。


「何って?」


両手を広げ、


「私の理想郷には」


街を見渡す。


「こんな甘ったるい街は要りませんよ」


それは、狂気に満ちた目だった。


「女神様と私だけの楽園を作るんです!」


ディアナは両手を高く上げる。


ダージリンは一歩前へ出て、


「残念だけど」


ディアナを見上げる。


「華は渡さないよ。女神なんかじゃない、普通の女の子さ」


ディアナの顔が歪み、


「黙れ黙れ黙れ!!」


狂ったように怒鳴る。


「お前らなんかに邪魔はさせませんよ!」


ディアナは魔術書を開いた。


「洞窟の魔物でも、連れてきましょうか?」


呪文を唱えようとしたその時、


「待ってください!」


透き通る声が響き、全員が振り向く。


そこに立っていたのは、華だった。


ディアナは魔術書を閉じる。


「おや?女神様が私にわざわざ逢いに来てくださった」


そして屋根から飛び降りた。


華は拳を握り、震える声で叫ぶ。


「貴方が……貴方が街をこんな姿にしたんですね……」


「華!部屋に居なさいって言っただろう!」


「……ごめんなさい」


華はディアナの方へ歩き出す。


「貴方は、私が女神だと信じて、こんな事をしたんですか?」


ディアナは穏やかに微笑むと、


「えぇ。貴女は女神様です」


と、膝をついた。


「貴女は女神様です。100年に一度だけ現れる、伝説の女神様ですよ?」


華に手を差し出す。


「さあ、私と一緒に教会へ行きましょう」


その瞬間、ブラックが華の腕を掴んだ。


「……今すぐ帰れ。お前は戦場に来るべきじゃない」


だが、華は静かにその手を外す。


「……ごめんなさい。分かりました。貴方について行きます」


その場の全員が息を呑むが、華は続ける。


「なので、この街を元通りに出来ますか?」


ダージリンが叫ぶ。


「華!!」


だがディアナは嬉しそうに頷いた。


「えぇ、もちろんですよ。女神様の為に」


華はディアナに近付き、手を差し出した。


ディアナはその手を取り、華の手の甲に口付け、そして立ち上がる。


「行きましょう、女神様」


二人は並んで歩き出し、街の外へ。


華は一度だけ振り返り、ダージリンを見た。


そして小さく唇を動かしたと思うと、


『ありがとう、ダージリンさん』


『大好きでした』


やがて二人の姿は見えなくなった。


その瞬間、燃えていた炎が消えた。


壊れていた街も、まるで幻だったかのように元通りになり、人々の活気が戻る。


だが、紅の騎士団と黒の騎士団の周りだけは、深い沈黙に包まれていた。


誰も言葉を発せない。


ただダージリンだけが、華が消えた方を見つめていた。

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