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23話『亀裂』

 俺はこれまでの経緯をノクトとエリシアに伝えた。

 国に訪れる厄災。一人では絶対に止めることはできない。

 だから俺には一人でも多くの仲間が必要だ。


 ……ただ、父さんにはこのことを話していない。


 ――リェンツェ(国王陛下)を敵と考えるのなら、その忠臣であるノーム(貴方の父親 )もまた同様の存在と考えなさい。


 クローゼさんに言われた言葉だ。

 父さんはリェンツェとの距離が近過ぎる。

 客観的に見れば、仮想敵として見なすのが妥当である。


 勿論、俺は父さんが破滅する国を望んでいるとは思ってはいない。

 だけど、王女(クラリス)に対して、国王(実の父親)が自国を滅ぼそうとしていると言っておきながら、俺の親だから例外というのは筋が通らない。

 父さんは正しい人の味方、そのことが俺の中で確認できただけで今は十分だ。


 そして今目の前にいる友人二人は、俺が夢の世界に入って未来を見てきたという話を、果たしてどこまで信じてくれるのだろうか。


 一通り話し終えると静寂が流れた。

 俺も二人の立場なら、真面目な顔で何を言ってるんだって思うかもしれない。

 簡単には信じてもらえないだろう、そう思ったら、いつの間にか俺の顔は下を向いていた。


 そんな俺にとって張り詰めた空気を切り裂いたのは、エリシアの明るく短い言葉だった。


「私は信じるわ!」

「エリシア……! 信じてくれるのか!?」


 信じる。短い言葉はどんなに繕った言葉よりも深く俺の心に染み渡った。

 持つべき者はやはり友だちだ。

 内心でガッツポーズを浮かべながら、俺は拝むようにエリシアの方を見る。

 俺の目の前にいるエリシアは、今は正しく天女に思えた!


 ……勿論、そんなことを決して口にはしないけど。


「何年友だちやってると思ってるの? さっきのアンタはウソをついている顔じゃないわ!」


 ちょっと勝ち気で喧嘩をすることはあるけど、こういう時に親身になってくれるのがエリシアだ。

 そして、俺の手を取り話を続ける。


「そうと決まれば、もっとたくさんの情報が必要ね! 店のお客さんの中には魔法に詳しい人とかがいるし、その地獄の未来を防ぐ手立てがあるかもしれないわ!」


 エリシアの家が経営する薬屋には様々な人が来る。

 遠方に住む亜人種や異国からの旅人などが集まる関係で、ちょっとした異文化交流がある。

 もしかしたら、その人たちとの雑談の中で未来のリェンツェに対抗できる術が見つかるかもしれない。


 予知夢なんていう突拍子もない話でも、信頼を寄せる友だちならわかってくれる。

 そんな考えが俺に湧き、最悪の未来を打開する一縷の希望となった。


 ……だけど、その拙い希望は簡単にもう一人の友によって砕かれた。


「――そんな荒唐無稽な話、信じられるわけないだろっ!?」


 明確な不快感を示す声が、俺たちの会話を遮った。

 ノクトが、いつになく感情的な態度を見せながら俺を睨む。


「ジークがこんなに真剣に話してるのに、ノクトは、ジークを――友だちを信じてあげられないの!?」


 エリシアはノクトに詰め寄った。しかし、それは売り言葉に買い言葉だ。

 ノクトの語気は更に勢いを増した。


「現実的な話、国王陛下がそんなことをするとは思えない。いや、絶対にするはずがない! 二人はあの方がどれだけこの国に貢献してきたか知らないから、そんな馬鹿馬鹿しい妄想ができるんだ! 不敬にも程があるっ!」


 ノクトがエリシアに食い掛かった。いつも一歩引いて物事を考えるノクトではない。

 言うまでもなく、明確に激昂している。


「二人とも落ちついてくれ! エリシアが信じてくれたことはたしかに嬉しい。でも、ノクトが信じられない気持ちもわかる。不快な思いをさせたのなら、悪かったよ……」


 俺の仲裁によって、ノクトはほんの少し落ち着きを取り戻した。

 だけど、怒りが鎮火したわけではない。一時的に体裁を取り繕っただけだ。


 ノクトはリェンツェを心の底から尊敬している。

 俺は未来の破滅をもたらすリェンツェ(最低の王 )を知っているけど、ノクトは今の国を想うリェンツェ(最高の王 )しか知らない。

 それに、貴族であるノクトは、俺たち庶民よりも深い部分で今の王様に関わっている。

 だから、食い違いが起きても仕方がないことなのかもしれない。


 ……ただ、それでもノクトは俺の話を信じてくれると思っていた。


「……とにかく、こんな話を続けるようなら、二人とは絶交だからな! もし信じて欲しいのなら、信じるに値する証拠でも集めて持ってこい! それまで、君たちとは二度と口なんて聞くつもりはない!」


 そう言い残してノクトは去っていった。

 そんなノクトの消えゆく背を眺めていると、エリシアは小さな声でぽつりと、珍しく寂しそうに俺に問いかけた。


「ねえ、私たちってこのままバラバラにならないよね……?」


 正直、こんな拗れ方をしたのは初めてだ。

 だけど、俺たちの間で喧嘩は珍しくはない。

 なんでも素直に自分の想いを話せるからこそ、この関係は続いていると俺は思っている。


「心配ないさ、俺たちは友だちだろ? なら、絶対またいつもみたいな関係に戻れるさ!」


 根拠はない。

 ただ、こんな程度で無くなるような脆い友情でもないのはたしかだ。

 いつかきっと仲直りできる日は来る、俺はそう信じている。



 ……しかしそれ以来、ジークとノクトは一度も話す機会がないまま時は流れる。

 そして、初めて夢の世界に入ってから1年が過ぎ、ジークが11歳になって暫くした頃だ。

 久々に見た悪夢――可能性の世界と呼ばれる予知夢が、再びジークの目の前に姿を現した。


 アンデッドたちが闊歩した国で、クラリス――王女を、黒い甲冑を着た剣士――死神が追いかけ、その命を奪って終わる見慣れた内容だ。

 ジークが介入し、王である父に殺される哀れな王女が存在する世界は、巻き戻ったかのように無くなり、久々に見た夢は変わらぬ絶望を伝える。


 ……そう、変わっていない。


 破滅の未来に抗おうとした少年の行動は、何一つ功を奏さなかった。

 予知夢はそんな絶望的な未来を、事実として淡々と投影し続けていた――。

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