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22話『父親』

 最近の息子はえらく剣技に真摯に取り組んでいる、とノームは思う。


 剣術の才能に関しては元から光るものはあった。

 しなやかな身のこなしやその場の状況対応能力に関しては、剣において国内最強と呼ばれる自分よりも既に上かもしれない。

 技術の呑み込みの早さも目を見張るものがある。

 体格差と経験の差が絶対的な壁として存在するが、成長すればいずれ自分を越える大器になるだろう。


 曇りなき眼で評価できているかどうかはわからない。

 これが親バカによる過大評価と言われたら、否定はできない。


 間違いようのない事実は、銀の髪色は自分で、顔は死んだ美人妻譲りの見てくれは我が子ということ。

 以前までは斜めに構える部分が見られたが、今は良い意味で男臭い一面が加わった。

 などと、また思考の続きに耽っていると――。


「――うおっ!? 今のは良い一撃だったぞ!」

「世辞とかは要らないよ! もっと本気で相手してくれ!」


 心からの賛辞だったが、息子には響かなかったらしい。

 本気でほめたんだがな、とノームは心の中でぼやく。

 親の心子知らずとは正にこのことである。しかし、その逆もまた然り。

 今まで剣術を適当にやっていた息子を、ここまでやる気にさせた理由を知らない。


 何となくだが、そのきっかけを、ノームは恋だと邪推する。

 男というのは単純で、やる気の源を辿れば大体そんなものだ。


 かくいう自分もその類。惚れた女に見栄を張りたいからという理由で剣を始めた結果、いつの間にか王国最強と呼ばれる騎士になっていた。


 その剣を振るうきっかけとなった妻はいなくなり、今や王の剣として世のため人のためにその身を捧げているが、その自分の血を引く息子なら、同じ理由で剣の頂を目指しても不思議ではないと考える。


 いずれ、その個人に向けられている強い想いが国にまで根付いてくれたら、などと思うのは流石に自分のわがままか。

 まぁ息子の将来に対してとやかく言うつもりはないが、自衛の力くらいは最低限持ってもらいたいのは確かだ。


 この国には何者かによる魔の手が忍び寄っている。

 王の影に潜むもう一つの人格と、3年前にあった王妃が毒殺。

 それ以上の兆候は今のところ見られないが、国の守り手の一人として、無頓着のままではいられない。


 勿論、どんな存在が襲い掛かってきても、負けるつもりはない。

 それでも、もしものことはあり得る。

 だからこそ、こうやって息子を鍛えているのだ。


 ……それがいつの間にか、趣味になっているところもあるが。


 そんな事に想いを馳せていると、ジークの剣撃が止む。


「どうした?」

「……なぁ、父さん。もし俺が王様を敵に回すって言ったら、どっちの味方になる?」


 珍しく思い詰めた表情を見せながらの息子の質問だ。

 その問いに、ノームははぐらかさず答えた。


「俺は正しい方の味方だ。いつも言ってるだろ?」


 その答えを聞いてジークは安堵した顔を浮かべる。

 息子には、王に潜むもう一つの悪しき人格のことは話してはいない。

 自身が仕える王の秘事を暴露するなど、その場で切腹すべき理由となる。

 忠義の士であるノームは、家族といえどそんなことを許可なく決して口外するつもりはない。

 どんなに強い酒や眠気を帯びていようが絶対に、だ。


 だからこそ、多感な時期特有の悩みだろう、ノームはそう結論づけた。


「じゃあさ、俺が正しい事をしてたら味方になってくれる……?」


 尚も続く問答に、身振りを交えて、努めて明るくノームは述べた。


「ははは、変なやつだな! わかった、わかった。もし父さんの力が必要な状況だったら、たとえ地獄の底からでも駆けつけてやるよ!」


 言葉は軽いが、想いは強い。

 正道を歩んでいる息子。困っているなら、決して傍観などしてはいられない。

 きっと亡くなった母さんも、息子を陰ながら見守っているはずだ、少なくともノームはそう考えている。


 そんな自身の心情が伝わったのか、息子はいつものように太陽のように笑った。

 先の心の陰りが嘘のようだ。切り替えの早さもまた、若さの成せる技か。


「よっしゃあ、もっと頑張るぞー!」

「もう午後だ、遊んで来なさい!」


 尚もやる気を見せる息子に、遊ぶことを強いる親。

 構図はいつの間にか逆転していた。「えー」と以前とは違う趣きの不満を述べる息子は、以前のやる気のなかった頃とはまるで別人だ。

 やる気を見せる息子の気持ちは親としては嬉しいが、剣ばかり振るわせるのも教育上よろしくないとノームは考える。

 それに、こん詰めた分が、そのまま実力になるわけでもない。

 偶には息抜きというのも必要だ。


 何よりも……。


「……追い抜かれたら悔しいしな!」

「何か言った?」

「ははは、気にするな!」


 実の子とはいえ、この国最強の剣士の座を譲り渡すには未だ早い。

 陽気な笑みの裏側に、ジークの父はそんなことを考えていた。

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