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17話『説得』

 言われた言葉と状況が理解できず、しばらくぼうっとしていると、頭に慣れない感覚があることに気づく。

 どうやら俺はクラリスに膝枕をされているらしい。


 状況が呑み込めず、俺はただ呆けたようにクラリスの顔を眺めるだけだ。


 そして、じんわりと先程言われた言葉と状況が頭に浸透していく。主に前者の方が。


 ……俺は好きと言われたのか!?

 っていうか、もしかすると先の話は筒抜け?

 え? どこまで?

 だとしたら、俺は――。


「――うわあああ!?」


 跳ねる様に飛び起き、顔を覆い隠して天を仰ぐ。

 正に夢にまで見たクラリスの姿だが、思えば色々ありすぎて頭と心が追いつかない。

 冷静に考えてみたら、クラリスが俺に言った好きという言葉は、『友だちとして』という意味だったのかもしれない。

 しかし、一度湧いた甘酸っぱい感情は簡単には鎮火しなかった。


 ……ただ、そんな事よりも。


 クラリスが生きている。王に――リェンツェに――実の父に殺された哀れな娘は、俺の夢の中だけで起こった出来事ということだ。


 ……本当に良かった!


「どうしたのですか!? どっ、どこかお怪我でもされたのでしょうか!?」


 クラリスは俺を見て困惑していた。

 突然現れたと思ったら、騒ぎ、喜び、くしゃくしゃに顔を歪めて泣いているやつなんて、俺なら変なやつだと思う。


 この世界で彼女とまともに過ごした時間なんてたかが数時間くらいだ。

 なのに、こんなに心が動いたのは、母さんが死んだとき以来だろうか。

 俺が泣き止むまで、クラリスは手を握り、熱くなった心が鎮まるのをずっと待ってくれた。



「――改めて、私はクラリス・ダイダロス・クーウェンツ・ローブル。この国の王女です」


 王女として話すクラリスは、それに相応しい品のようなものを纏わせている様に思う。

 クラリスが王女だった、そんな事に対して今更驚きはもうない。


「――そして、此方がメイドのクローゼ」


 クラリスの横で一礼し、俺を見るクローゼと呼ばれたメイドは、顔に傷痕こそあるけど、とても美人だと思う。

 ただ、表情は氷ったみたいに動かさず、鉄面皮を維持し続けている。


 この女の人が、未来でクラリスが言っていた城から一緒に逃げたメイド。


 ……そして、未来の世界で死神に殺される人。


 巧妙に隠されているが、クローゼさんが俺に向ける視線には警戒心がある。

 気づけたのは、父さんとの剣術の稽古の成果だろう。

 気配を読む訓練は日頃の練習にも含まれているのだから。


 まぁ俺が警戒されるのは当然のことだ。

 今の俺は転移魔法陣を使ってやってきた部外者。

 クラリスの計らいが無ければ間違いなくここにはいられない。

 摘み出されてそれで終わり、こうやって挨拶する機会すら与えられないだろう。


「ジーク・バトラスです」


 俺の名前を耳にして、変化が起きたのはクローゼさんだ。

 ほんの一瞬眉があがり、警戒が一段階上昇した気がする。


「……ジーク様は、城で働く仕様人のノーム・バトラスの息子でしょうか?」

「はい。国王陛下に仕える騎士の一人、ノーム・バトラスの息子です」


 こんなところでウソをついても調べられたら簡単にバレることだ。

 今回の件で、父さんの立場はもしかしたら悪くなるかもしれない。

 

 迷惑をかける、叱られる、そんなことわかりきっての行動だ。その事に対して、後悔なんてない。


「で……そんなノームの息子である貴方が、何故ここへ来たのでしょうか?」


 荒唐無稽な夢の内容、笑われるだけで終わればまだましかもしれない。


 もしクラリスに嫌われたら、俺は落ち込むだろう。

 ただ、そんなことよりも、あんな未来が起こる方がずっと嫌だと俺は思う。

 だから……意を決して話した。



 

 俺にとっては崩壊する未来の世界の話だけど、二人からすればただの夢の話。

 遮らず真面目に聞いてくれたこと自体が奇跡だと思う。


 暫く時間が過ぎた後、先ず初めに口を開いたのはクラリスだ。


「……私は信じられない――というよりも、受け入れられません」


 クラリスはゆっくりと、備え付けられた椅子へと向かう。

 それは可能性の世界で、王――未来のリェンツェが腰かけていた椅子だ。

 座板を優しく撫でながら、クラリスは懐かしむように話す。


「お父様は厳格な方ですが、お母様と私の前では不器用な笑みを浮かべながら、いつも夢を語ってくださいました。人間だけではなく、亜人種も含めた全ての国民が、平和に暮らせる共同体を――真に一つの国を作りたいと。ただ――」


 クラリスの表情は苦悶へと変わる。


「――そんなお父様もお母様が亡くなってから変わられてしまった。この庭園で父と私が語らう時間は無くなり、時間さえあれば、自室か書斎に篭りながら何かに没頭する日々。それが政治に関することなのか、それとも貴方の言う通り……」


 続く言葉を濁して、クラリスの目線は俺に移動する。

 笑顔の仮面を繕うが、悲しい表情はそれでも十分伝わってくきた。


「おそらく、貴方の話に偽りはないのでしょう。そして、魔法陣を使ってここに侵入してきた時点で、その夢は現実の延長線上に存在する世界の可能性は否定できません。それでも、愚かな私はお父様がこの国を滅ぼすという話を受け入れたくはない……!」


 果たして、俺がクラリスの立場なら、父さんが国を滅ぼすなんてことを聞かされても信じるだろうか?


 絶対無理だ。

 そんなこと言うやつの話なんか、例え真実であろうが途中で遮って掴みかかると思う。


 ……ただ、あの破滅の未来はこのままだと必ずやって来る。


 あのお面の少女が言うように、未来は簡単には変えられないらしい。

 ……わかっていたことだけど。くそっ、どうすれば!?


「その破滅の未来がやって来るとして、ジーク様はどうなされるおつもりですか?」


 今まで黙っていたクローゼさんが口を開いた。


「リェンツェを――国王陛下を止める! そのために、協力してくれる仲間を探して……」

「たかが子どもが見た夢の内容を、真に受ける人間はいないでしょう。また、国王陛下を止めるということは、貴方はローブル王国全ての国民と矛を交えるご覚悟をお持ちということなのでしょうか? 人間だけではなく、亜人種を含めた人と名のつく全ての種と戦うという覚悟を?」


 ……国民全てが敵。

 王と矛を構えるということは、そういうことだ。

 覚悟はしていたけど、いざ言われて見ると恐怖がある。


 というよりも、クローゼさんからはメイドとは思えない威圧感が漂う。

 武器も何も見当たらないのに、刀身をむき出しにした剣士と錯覚するほどの殺気だ。


 ……だけど、答えは変わらない!


「ある! あんなクソッタレな未来なんて、悪夢のうちに終わらせてやるっ!」

「それは、つまり貴方の父――ノーム・バトラスと争うことも視野に入れてのご発言ということでよろしいのでしょうか?」


 言葉に含まれた重みは一番強く感じる。クローゼさんの圧もさることながら、家族を敵に回す覚悟を問われているからだろう。


 ……ただ、その答えはむしろ即答できた。


「父さんはあんな世界を望まないはずだ! あんな未来が来ることを知ってて、何もしなかってたら俺が殺される! いや、むしろ俄然火がついた! あんなクソッタレな未来なんか絶対変えてやる!」


 父さんは正しいことしてんなら、男貫いてこいと檄を飛ばしてくるような人間だ。

 そうだ、最初から答えなんて決まってる。

 立ち向かうしかないんだ!


 ただ、そんな俺の覚悟を見せた時、クローゼさんは――。


「――っははは!」


 ……大爆笑していた。


 そこに鉄面皮は無い。

 その様子はクラリスですら驚かせるほどの大変貌のようだ。


 女豹。そんな感じの獰猛な肉食獣じみた笑みは、上位者特有の余裕のようなものだろうか。

 ある意味父さんと似ている。

 鉄面皮はあくまでクローゼさんの一面に過ぎないらしい。


 やがて、クローゼさんの感情の爆発はゆっくりと鎮火していく。


「――失礼しました。ジーク様の内に眠る覚悟が本物かどうかを試させて頂いた。ご無礼をお許しください」


 たかが、メイド一人に慄いているようでは、国を敵に回すなんてできないと言いたいらしい。

 あの威圧感の正体は、俺の覚悟がどれほどかを測っていたということか。


 ……上等だ!


「謝る必要なんてないよ! 俺もクローゼさんの立場なら同じことをしていると思う」


 それくらい強い人がクラリスのメイドをやっていることは安心できる。

 ……ただそんな強い人も未来では殺されたんだ!

 油断なんてできないな……。


「ありがとうございます。貴方の話、興味深く拝聴させて頂きました。そして、その夢の世界と耳の長い少女の話も真実と私は判断致します」


 クローゼさんの態度は出会った当初と明らかに違い、柔らかい態度になっている。


 ……何より、俺の話を信じてくれた。

 子どもの俺でも、話せばわかってくれる人がいる。

 それは俺にとって大きな収穫だ。


 だけど――。


「――但し、貴方には協力致しかねます」


 はっきりした口調でクローゼさんはそう言い、俺の中に生まれつつあった光明は一瞬で消えた。

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