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16話『再会』

「――はぁ、はぁ」


 俺の意識は現実に帰還した。やはりいつも通り夢だったということなのだろうか。


 俺が干渉した分の違いはあるけど、女性が――クラリスが殺されて終わる、いつも通りの胸くそ悪い結果には変わりない。


 ただの夢ならそれでいい。

 偶に見るだけの、悪夢以上のものにはならないのだから。


 ……でも、あれが予知夢だとしたら? 


 確証はない。考え過ぎだと言われたらそうなのかもしれない。

 それでも俺は、あの夢はこの国の行く末、崩壊した未来の暗示だと思う。


 しかし、国王がこの国を死者の世界に変える、言葉通り夢物語でしかないそれを、果たして誰が信じるのだろうか。

 鼻で笑い飛ばされて終わるならまだしも、不快に思われることだって十分考えられる。


 ……ただ。

 

「クラリスに伝えないと……」


 そのために、行くべき場所がある。



 夢の中でクラリスに案内されて知った森の中の池は、やはり現実にも存在していた。

 違いがあるとするなら、溜まっている水が透き通るように綺麗なことだ。

 アンデッドがいない世界。平和な今だからこその確かな美しさがここにある。


 この池を見て、ようやく俺は確信した。


 あの夢は間違いなく世界の終わりを告げているもの、今の現実の延長線上にある破滅の未来だ、と。

 もう疑いはない。だとしたら、夢と同じ位置に転移魔法陣もあるはずだ。


 俺は夢の中のクラリスの行動を思い出す。

 魔法の原理はよくわからない。だから、あの時見た方法をただ真似するだけだ。


 ……そして、どうやら魔法の発動には成功したようだ。


 意識が遠のく感覚。前回と同じだ。

 魔法の力に身を委ねて俺は眠りについた――。




 ……目を覚ますと、地平線すらない真っ白な空間が広がっている。

 重力すら働いていないらしい。俺の体は漂うように浮かんでいる。

 そんな不思議な感覚に戸惑っていると、幼い少女の声が俺を呼ぶ。


「こんなところにお客さんが来るなんて珍しいね」


 泳ぐように体勢を変えて、声のする方に目をやる。

 そこにいたのは、キツネのお面を被った少女である。

 人間に似ているが、お面からはみ出して伸びる長い耳が、少女を人間ではない別の存在であることを告げている。


「……キミは? それに……ここはどこなんだ?」


 予定では俺は王城の庭園にいるはずだ。

 こんなところに来る予定は無かった。疑問を口にする前に、その理由は少女の口から語られた。


「ここは精神世界。おおよそ、転移魔法が上手く発動しなくて、キミの精神だけが別の場所に飛ばされて来たってとこかな?」


 ……転移魔法の失敗? ってことは俺――。


「――俺って死んじまったのか!?」


 だとしたら、目の前にいるのは神様か何か?

 もう少し考えて行動するべきだったな……。

 そんなことを考えていると、仮面の少女はくすくすと笑う。


「転移魔法の失敗だったら、精神が一時的に別の場所に飛ばされたんじゃないかな? 肉体が無事なら、その内目が覚めると思うよ」


 まぁ、俺よりもこのよくわからない世界に詳しいであろう少女が言うのだから多分そうなのだろう。


 ……にしても、もうこの子の話を受け入れている。


 まぁ、世の中不思議なことは多い。今回は魔法の失敗なのだから未だ受け入れやすいくらいだ。

 夢のお告げなんかと比べたら、随分と現実的な現象に思える。


 そんなことを考えていると、少女は何かを思いついたらしい。

 片方の手のひらを拳で叩き、頭にはびっくりマークが浮かんでいるような仕草を浮かべて俺に言う。


「まぁこれも何かの縁だ。せっかくだから君が日夜感じている疑問に答えてあげるよ! こう見えても、ボクって結構賢いんだよ!」


 自分で賢いって言うか普通。しかもボクっ娘……。

 まぁ、せっかくだから聞いてみるか。多分わからないだろう、そんなつもりのダメ元で。


「同じ夢を何度も見るんだ。そして昨日、俺はその夢に入って、ローブル王国の未来の世界だということに気づいた。知ってることがあるなら教えてくれ! あれは――あの世界は何なんだ!?」


 少女は少し考えこんだ。そして――。


「……もしかして、『可能性の世界』を見たかい? だとしたら、それは限りなく現実に起こり得る未来だ。だけど、所詮は予知夢。夢は夢だ。目覚めと同時に、干渉した出来事そのものは消える」


 少女は俺の夢のことを知っていた。


「そのことについてもっと詳しく教えてくれ! 知っていること全部!」

「このまま時の流れに身を任せていたら、いずれその未来は必ずやってくる。夢に干渉するには想い人への強い想い。帰還するには夢の世界でキミが死ぬ、もしくは、ただ夢が覚めるのを待つ。こんなところかな!」

「あの未来は変えられるのか?」

「限りなく起こり得る可能性が高い未来だ。抗うよりも、受け入れるための時間だと捉えた方が良いよ」


 少女なりの助言のつもりだろう。それでも受け入れるなんてありえない。

 クラリスも、王国も、何もかもが滅びた世界なんて、俺は絶対受け入れたくない!


「可能性が0じゃないなら、俺が必ず変えてやるよ!」

「おっ、言うね! まぁとりあえずお別れの時間がきたようだ。キミの目覚めは近いらしい」


 言うなり、目の前の少女はみるみる薄くなっていく。

 ちょっ!? まだ聞きたい事は山ほどあるのに!

 頭の中で質問を探す。何か無いかと探した結果、口に出たのは心に蔓延る強い想いだった。


「まっ、待ってよ! 未だ聞きたい事があるんだよ! クラリスは――」


 いよいよ消えゆく少女に思い切って聞いてみた。

 それは今まで口にすら出来なかった言葉を――。


「――くっ、クラリスは俺のこと好きなのか!?」


 くすくすと笑う声が響いた。

 少女の姿はもう見えない。ただ、返答だけが返ってきた。


 ――それはボクにじゃなくて本人に聞いてみな、少年。



 ――ジークさん、ジークさん。


 優しい声と草花のいい香りがする。

 目を開けると、声の主はクラリスだった。


「――私は、貴方の事が好きですよ!」


 頬を赤らめながらちょっぴり恥ずかしそうに笑い、藍色の瞳は優しく俺を覗いた。

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