12話『悪夢ー2』
モンスターと戦いながら、俺たちは空き家に逃げ込んだ。
やはり中に人はいない。長年使われていないらしい。
散乱した形跡がある。モンスターが暴れたのだろうか?
そんな事を考えながら、比較的綺麗なところに腰掛け、刀を鏡にする。
髪色は父さん似、顔は母さん似の、正に成長した俺と思わしき姿が映る。
まるで、未来の俺の姿を彷彿させるものだ。
戦いの最中に感じた疑問が再び俺に問う。
……本当にこれは夢なのか、と。
「――あっ、あの……!」
「……ん?」
「そっ、そろそろ大丈夫かと……?」
女性の困惑は俺が手を握り続けていることだった。
「ああ、いや、悪い……」
普段の俺ならもう少し緊張したかもしれない。
女性はクラリスに似ているし、すごく綺麗な人だ。
だけど、今はそんなことに思考が向かない。
ただ目の前に広がる異常事態で上手く頭が働かないのだ。
「いえ、先程はありがとうございました。何とお礼を言うべきか――」
「俺が勝手にやっただけだから気にしなくていいよ……」
そういえば、未だ彼女の名前を聞いていない。
あんな戦いの最中にそんな事まで頭は回らないし、話す機会もなかった。
張りつめた重い空気を変えよう、そんな気持ちで俺は名乗った。
「自己紹介がまだだったね。俺はジーク、君は?」
「……ジーク?」
「どうかしたか?」
「失礼しました。懐かしい名前だったものですから、つい……」
懐かしい名前。知り合いに俺に似た誰かがいるのだろうか?
そんな程度で考えていると、彼女の瞳には決意の色が浮かんでいた。
「改めて、私は――私はクラリス・ダイダロス・クーウェンツ・ローブル。この国の王女です」
クラリス? 王女?
二つの意味で面くらい、十分な時間をかけて俺の脳裏にその意味が染み込む。
クラリスという名が指し示す女性は俺の中では一人しかいない。
たしかに面影はある。
長い金色の髪に、藍色の瞳はかつてのクラリスそのものだ。
……しかも王女。
ノクトが言っていた通り、この国の王女の名前もクラリスだ。
夢に――夢にその事が反映されているのか。
いや、そもそも……。
疑問が再び俺に問う。
……これは本当に夢なのだろうか? と。
「――なぁ、クラリス! この国には――君には一体何が起こっているんだ!?」
俺の知っているローブル王国の姿は何処にもない。
骸骨やゾンビが我が物顔で街路樹を闊歩している。
花々は死に果て、さながら死者の国と形容される様な地獄が広がっている。
別の国にしては似過ぎている。そのまま真っ黒に塗りつぶされた場所と捉えた方がしっくりくるくらいには。
そんな俺の勢いのせいか、クラリスは言葉を詰まらせ、苦悶に満ちた顔をさせてしまう。
「ああ……悪い。無理には聞かないよ」
……かくいう自分も混乱している。
夢の世界だと思っていたのはほんの一瞬だった。
切られた傷の痛みやクラリスの手の温もり、モンスターを切ったあのなんとも言えない感覚。
夢にしてはリアル過ぎる。
それらとの心の折り合いが未だできていない。
これがもし夢じゃ無いとしたら、彼女もまた死の淵から助かったばかりで混乱しているのだろうから。
やがて、落ち着きを取り戻したクラリスは徐に口を開いた。
「貴方には知る権利があります。私が何故あの黒い鎧の死神のに狙われているのかを。そして、我が父――リェンツェ・ダイダロス・クーウェンツ・ローブルの誤ちを……」




