第7話 頂こう、サンドイッチは二個
働き始めて、すぐに分かったことがある。
この部署は、目が回るほど忙しい。
「エレノアくん、この書類も頼む」
「はい、ただいま」
朝から積み上がった書類の山は、
減るどころか増えていく。
気がつけば、昼食を取る暇もない。
(もう!この忙しさ、絶対、日記に書いてやるんだから!)
心の中で、そっと呟く。
けれど、目の前に積まれた書類の山を見て、
エレノアは小さく拳を握った。
(くそ……!負けないから!)
そして、不思議と不幸を数える余裕すらない
ほどの忙しさに、少しだけ笑えた。
「エレノアくん、もう上がっていいぞ」
帳が近づく頃、グレアムの声が響いた。
「え……でも、まだこんなに」
「今日はここまでだ。続きは明日でいい」
肩を落としながら、エレノアは決意した。
(明日は、一時間早く来てやる。
そして、料理長にお願いしてサンドイッチを
作ってもらって、絶対昼も食べる!)
その日の日記の右端
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◆
翌日、一時間早く出勤したはずのエレノアだったが、
クロードは既に席について仕事を始めていた。
「……おはようございます」
挨拶にも、顔を上げない。
(社会人として、終わっているのではないかしら?
……まあ、関係ないけれど)
気を取り直し、机の隅に山のような
サンドイッチの包みを置く。
『ご自由にお召し上がりください』
小さなカードを添えて置いてみた。
それから小一時間ほどたって、皆が出勤して来た。
「うわ、サンドイッチだ!」
「誰が用意してくれたんだ?」
グレアムたちが喜ぶ中、
クロードだけは、サンドイッチに手をつけなかった。
(……まあ、いいけれど)
期待していたわけではない、
とエレノアは自分に言い聞かせた。
その日の日記の右端
―――――――――――――――750G
◆
翌朝、サンドイッチの隣に、
もう一つ荷物を置いた。
魔術保温器に淹れたコーヒー。
自分がサンドイッチと一緒にコーヒーを
飲みたかったからだ。
飲み物なしでサンドイッチを食べるのは、
正直キツかった……。
この日も目の回る忙しさだったが、
軽く摘めるサンドイッチと、
ホッと息をつけるコーヒーのおかげで、
迫られるような恐怖感を感じることなく、
一つ一つ書類を終わらせることができた。
その日の日記の右端
―――――――――――――――550G
◆
一ヶ月が経ち、エレノアは仕事にも慣れていた。
ある朝、いつもよりまた少しだけ早く出勤した。
クロードが目をぱちぱちさせて、こっちを見ている。
(ぱちぱちする室長!かわいい。
……あっ、ダメダメ、絆されてるわ)
「ゴホンっ。おはようございます、室長」
「あぁ、早いな」
いつものように、サンドイッチとコーヒーを置く。
「えぇ。午前中に終わらせたい書類がありました
もので」
「室長、コーヒー召し上がられますか?」
「あぁ、頼む」
――さらに一ヶ月が過ぎた頃。
「おはようございます、室長」
「あぁ」
「コーヒーどうされます?」
「頂こう。サンドイッチは、二個」
「はい、かしこまりました」
こんな風に、距離は少しずつ、縮まっていった。
その日の日記の右端
―――――――――――――――1220G




