009_ラウルの謝罪
王立遺物管理局。
名前だけ聞くと偉そうだが、俺の中では「古くて面倒な物を持ってくる連中」という分類で落ち着いている。
その局員であるラウルが銀の匙亭に来た。灰色の外套を着て、いつもの薄い顔で、いつものように面倒を連れてきそうな雰囲気だった。
「帰れ、と言いたいところだが、今日は何を壊した?」
「まだ何も言っていません」
「お前が来る時は、だいたい何かが壊れてる」
「今日は謝りに来ました」
「それはそれで怖いな」
ラウルは真面目な顔で頭を下げた。
「北の塔の件、改めて感謝します」
「報酬はもらった」
「それとは別です」
「礼を重ねるな。次に断りにくくなる」
「それは困りますか?」
「困る。俺は断る権利を大事にしてるからな」
「なるほど」
ラウルは納得した顔で席に座った。
「座るな」
「茶だけいただきます」
「自然に常連になるな。茶代は自腹だぞ」
マーサが茶を出した。
「灰色の旦那、今日は何を壊したんだい」
「今日は何も」
「珍しいねえ」
ラウルは少し困った顔をした。こいつも、マーサ相手だと調子が狂うらしい。いいことだ。
「ところでレイさん」
「ほら来た。謝罪だけで帰れない体質か?」
「依頼ではありません」
「じゃあ聞くだけ聞く」
「塔で回収した遺物の処理が終わりました。町に危険はありません」
「それを言いに来たのか」
「はい」
俺は少し黙った。
正直、どうでもいいと言うつもりだった。北の塔は、町の者にとっては少し遠い廃墟でしかない。
だが、子どもの肝試しにはちょうどよく、若い冒険者の小遣い稼ぎにも近すぎる。危ない物が眠っているには、あまりよくない場所だった。
「……そうか。ならよかった」
ラウルが少しだけ笑った。
「気にしていたんですね」
「してない。確認しただけだ」
「では、確認して安心したと」
「言い方を丸めるな。余計に恥ずかしい」
ラウルは茶を飲んだ。
「あなたは、自分から動くのは嫌がるのに、人が危ないかもしれない話には反応が早い」
「分析するな」
「職業柄です」
ラウルは困ったように笑った。
「また来ます」
「依頼なら来るな。茶なら金を払え」
ラウルが出ていくと、マーサが笑った。
「あんた、友達が増えたね」
「違う。面倒の窓口が増えただけだ」
「似たようなもんだよ」
「全然違う。友達は茶代を自分で払う」
「じゃあ、あの旦那は友達候補だね」
「候補にするな」
俺は冷めた茶を飲んだ。
町に危険はない。それならまあ、今日のラウルは許してやってもいい。
茶代は払わせたが。




