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022_守りたいものは間違える

 昼過ぎ、銀の匙亭には妙な顔ぶれが集まった。


 俺。

 マーサ。

 ラウル。

 サイル。

 ニナ。

 エド。

 ついでに猫。


 会議というほど立派なものではない。

 食堂の一番大きなテーブルに小箱を置き、全員でそれを見ているだけだ。


「何か言えよ」


 俺が言うと、ラウルが紙を広げた。


「では、整理します」

「役人っぽいな」

「役人ですので」

「そうだった」


 ラウルは小箱を指した。


「この箱には、帰り布と思われる古い布が入っています。金具には潮除けの印。祭りの鈴にも似た系統の印がありました。そして港の古い潮止めの石にも、同じ系統の模様があります」

「全部が仲間ってことか」

「大きく言えば」

「小さく言うと?」

「まだ分かりません」


 サイルが申し訳なさそうに言った。


「私が箱を持ち込んだせいですね」

「そうだな」


 俺は言った。サイルの顔がさらに青くなる。


「だが、悪いとは言ってない。古道具屋で箱を買っただけで町に迷惑をかけるなんて、普通は思わん」

「はい……」

「次からは、鳴る箱を買うな」

「はい」

「鳴らない箱でも、変な模様があったら少し疑え」

「分かりました」


 マーサが茶を置いた。


「つまり、今夜までにどうにかするのかい」

「どうにかしたくはない」

「でも、するんだろう?」

「マーサは俺の逃げ道を先に塞ぐな」

「逃げ道を残すと逃げるじゃないか」


 ニナが手を上げた。


「小箱を壊したら駄目なんですか?」

「駄目かどうかは分からない」


 ラウルが答える。


「ただ、守りの道具は壊すと力の向きが乱れることがあります。特に今回は、箱だけでなく港の石とも反応しています」

「壊すと余計に鳴るかもしれないってことか」

「はい」

「面倒な道具だな。壊れても面倒、直しても面倒」


 俺は小箱を見た。

 守りたいものは、たまに守り方を間違える。箱も鈴も石も、たぶん悪さをしたいわけではない。ただ、昔の役目をまだ覚えている。


 帰れ。

 守れ。

 入れるな。


 そういう命令だけが残って、今の町と噛み合わなくなっている。


「レイさんなら、馴染ませられるんじゃないですか?」


 ニナが言った。


「簡単に言うな。俺は鍋と扉と靴が専門だ」

「でも、鈴も止めました」

「あれは鈴が聞き分けよかっただけだ」

「そうでしょうか」

「そういうことにしておけ。俺の心が軽くなる」


 エドが言った。


「今夜、古い船着き場には人を近づけないようにします。水路の方も見張ります」

「助かる。子どもは特に止めろ。トマは二回止めろ」

「分かりました」

「あと、酔っ払いも止めろ」

「それは難しいです」

「衛兵が諦めるな」


 ラウルは小箱の布を見つめていた。


「この布を、潮止めの石に結び直すのが一番自然かもしれません」

「なぜ」

「箱の中にしまわれていることで、布の役目が宙ぶらりんになっている可能性があります。帰り布は、本来どこかに結ばれて機能するものですから」

「つまり、しまわれたまま『帰れ』って言い続けてるのか」

「そう考えています」

「迷惑な独り言だな」


 マーサが言った。


「でも、かわいそうでもあるね」


 食堂が少し静かになる。俺は小箱を見た。


 かわいそう。


 道具に使う言葉ではないかもしれない。だが、マーサが言うと妙にしっくり来た。


「分かった」


 俺は椅子から立ち上がった。


「今夜、潮が上がる前に、布を石に結ぶ」


 ラウルが頷く。


「私も同行します」

「ニナは来るな」

「えっ」

「水辺で動くには疲れてるだろ」

「でも」

「エドと一緒に子どもを止めろ。そっちの方が大事だ」


 ニナは少し不満そうだったが、すぐに頷いた。


「分かりました」

「サイルは」

「私は何をすれば」

「箱を買った責任で、箱を持て」

「はい」

「落とすなよ。落としたら俺が泣く」

「レイさんが?」

「箱のせいにして泣く」


 サイルは少しだけ笑った。


 日が傾き始めていた。今夜、満ち潮。

 守りたいものが、守り方を間違えたまま動き出す前に。


 こっちで少し、直してやるしかない。

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