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16/24

016_祭りの後は少し静か

 祭りの翌朝、町は少しだけ静かだった。


 正確には、全員が疲れていた。


 市場通りには屋台の骨組みが残り、魚串の串や紙くずが落ちている。

 酒を飲みすぎた漁師が、荷箱にもたれて寝ていた。


「死んでるのか?」


 俺が言うと、ルドが雑にその男の足を蹴った。


「生きてる」

「確認方法が荒いな」

「漁師はこれで分かる」

「本当に分かってるのか?」

「今うめいた」

「じゃあ生きてるな」


 銀の匙亭の前では、マーサが大鍋を洗っていた。

 祭りで煮込みはよく売れたらしい。鍋の底には、少しだけ焦げがついている。


「レイ、片付けを頼むよ」

「祭りは終わったんじゃないのか」

「後片付けまでが祭りだよ」

「嫌な教育方針だな」


 俺は仕方なく、屋台の板を運び始めた。

 祭りの翌日の片付けは、祭り本番より地味に面倒だ。昨日は浮かれていた連中も、今日は動きが鈍い。声だけはまだ大きいが、体は明らかに嫌がっている。


 ニナも手伝っていた。

 彼女は昨日の疲れが残っているのか、少し眠そうだった。それでも手は止めない。


「ニナ、無理するなよ」

「大丈夫です」

「その返事は、だいたい大丈夫じゃない時のやつだ」

「少し眠いだけです」

「少しで済んでるうちに休め」

「でも、まだ片付けが」

「祭りの片付けは逃げない。残念ながらな」


 ニナは苦笑した。


 水路の方では、エドが柵を直していた。昨日、子どもたちを止める時に少し緩んだらしい。


「昨日、ちゃんと子どもを離してたな」

「はい。でもトマ君が最後まで船を諦めなくて」

「あいつは船長向きだな。周りが苦労する」

「本人は楽しそうでした」

「船長向きだな」


 港の飾り台には、例の鈴がまだ吊られていた。

 今日は鳴っていない。ただの古い鈴みたいに、静かに揺れている。

 ラウルが布を広げ、慎重にそれを外していた。


「持っていくのか」

「はい。危険は小さいですが、調べておきます」

「普通の守り鈴なんだろ」

「普通の物が、長い間使われると普通でなくなることがあります」

「人間にもありそうな話だな」


 ラウルは鈴を布に包んだ。

 その手つきは、いつもより丁寧だった。


「昨日は助かりました」

「煮込みを守っただけだ」

「では、煮込みに感謝します」

「そこまで曲げるな。俺の立場が煮込み以下になる」

「違うのですか?」

「お前、祭りが終わって少し冗談がうまくなったな」


 ラウルは薄く笑った。

 ルドが近づいてきた。


「レイ、昨日の魚串二本な。約束だ」

「覚えてたか」

「俺は魚と借りは忘れねえ」

「もっと他のものも覚えた方がいい」

「例えば?」

「屋台の釘を抜けないようにするとか」

「それは来年覚える」


 魚串を受け取って食べる。うまい。少し冷めているが、炭の匂いが残っている。祭りの残り火みたいな味がした。


 昼過ぎには、通りもだいぶ片付いた。

 子どもたちはまだ祭りの話をしている。大人は疲れた顔で、それでも少し満足そうだ。



 俺は銀の匙亭の前に座り、茶を飲んだ。


「疲れたかい」


 マーサが聞いた。


「祭りより片付けの方が疲れる」

「来年もあるよ」

「今から嫌なことを言うな」

「来年はもっと手際よくなるさ」

「俺が手伝う前提で話すな」

「違うのかい?」


 俺は答えなかった。


 その時、猫が足元に来て、鈴が吊られていた飾り台の方をじっと見た。


「どうした」

「にゃ」


 猫は短く鳴いただけだった。




 祭りは終わった。ただ、何かが完全に終わった感じはしない。

 まあ、それを今考えると面倒だ。


 俺は魚串をもう一口かじった。

 うまいものを食べている時くらい、面倒は明日に回していい。

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