016_祭りの後は少し静か
祭りの翌朝、町は少しだけ静かだった。
正確には、全員が疲れていた。
市場通りには屋台の骨組みが残り、魚串の串や紙くずが落ちている。
酒を飲みすぎた漁師が、荷箱にもたれて寝ていた。
「死んでるのか?」
俺が言うと、ルドが雑にその男の足を蹴った。
「生きてる」
「確認方法が荒いな」
「漁師はこれで分かる」
「本当に分かってるのか?」
「今うめいた」
「じゃあ生きてるな」
銀の匙亭の前では、マーサが大鍋を洗っていた。
祭りで煮込みはよく売れたらしい。鍋の底には、少しだけ焦げがついている。
「レイ、片付けを頼むよ」
「祭りは終わったんじゃないのか」
「後片付けまでが祭りだよ」
「嫌な教育方針だな」
俺は仕方なく、屋台の板を運び始めた。
祭りの翌日の片付けは、祭り本番より地味に面倒だ。昨日は浮かれていた連中も、今日は動きが鈍い。声だけはまだ大きいが、体は明らかに嫌がっている。
ニナも手伝っていた。
彼女は昨日の疲れが残っているのか、少し眠そうだった。それでも手は止めない。
「ニナ、無理するなよ」
「大丈夫です」
「その返事は、だいたい大丈夫じゃない時のやつだ」
「少し眠いだけです」
「少しで済んでるうちに休め」
「でも、まだ片付けが」
「祭りの片付けは逃げない。残念ながらな」
ニナは苦笑した。
水路の方では、エドが柵を直していた。昨日、子どもたちを止める時に少し緩んだらしい。
「昨日、ちゃんと子どもを離してたな」
「はい。でもトマ君が最後まで船を諦めなくて」
「あいつは船長向きだな。周りが苦労する」
「本人は楽しそうでした」
「船長向きだな」
港の飾り台には、例の鈴がまだ吊られていた。
今日は鳴っていない。ただの古い鈴みたいに、静かに揺れている。
ラウルが布を広げ、慎重にそれを外していた。
「持っていくのか」
「はい。危険は小さいですが、調べておきます」
「普通の守り鈴なんだろ」
「普通の物が、長い間使われると普通でなくなることがあります」
「人間にもありそうな話だな」
ラウルは鈴を布に包んだ。
その手つきは、いつもより丁寧だった。
「昨日は助かりました」
「煮込みを守っただけだ」
「では、煮込みに感謝します」
「そこまで曲げるな。俺の立場が煮込み以下になる」
「違うのですか?」
「お前、祭りが終わって少し冗談がうまくなったな」
ラウルは薄く笑った。
ルドが近づいてきた。
「レイ、昨日の魚串二本な。約束だ」
「覚えてたか」
「俺は魚と借りは忘れねえ」
「もっと他のものも覚えた方がいい」
「例えば?」
「屋台の釘を抜けないようにするとか」
「それは来年覚える」
魚串を受け取って食べる。うまい。少し冷めているが、炭の匂いが残っている。祭りの残り火みたいな味がした。
昼過ぎには、通りもだいぶ片付いた。
子どもたちはまだ祭りの話をしている。大人は疲れた顔で、それでも少し満足そうだ。
俺は銀の匙亭の前に座り、茶を飲んだ。
「疲れたかい」
マーサが聞いた。
「祭りより片付けの方が疲れる」
「来年もあるよ」
「今から嫌なことを言うな」
「来年はもっと手際よくなるさ」
「俺が手伝う前提で話すな」
「違うのかい?」
俺は答えなかった。
その時、猫が足元に来て、鈴が吊られていた飾り台の方をじっと見た。
「どうした」
「にゃ」
猫は短く鳴いただけだった。
祭りは終わった。ただ、何かが完全に終わった感じはしない。
まあ、それを今考えると面倒だ。
俺は魚串をもう一口かじった。
うまいものを食べている時くらい、面倒は明日に回していい。




