いたわり
去年の冬の事だった。俺の親友が死んだのは。
中学から仲良くなって、同じ高校を受験して、合格して、運よく同じクラスになった。
下田楓也。明るくて、いい奴っていう言葉が一番似合う性格をしていた。
そんな奴が、自殺をした。
楓也が死ぬ1時間前、一緒に普通に帰る支度をして、校門を出た。けれど楓也は忘れ物をしたらしく、俺だけ先に帰ることになった。
「あ、やっべ教室にモバ充忘れた!」
「何やってんだ…早く取ってこいよ」
「悪ぃ、先帰ってて!」
「別に俺待つけど?」
「いいよ別に、また明日な!」
「わかった、またな」
翌日、登校すると楓也の机には花瓶があった。真っ白な花だった。俺が花瓶を見つめて固まっているとクラスの話したことない道川さんが話しかけてきた。
「これ、クリスマスローズだね」
「え?あぁ……そう、なんだ」
「……下田くん、いじめられてるの?」
「いや…まさか」
ガラガラと音がなり、教室に担任が入ってきてクラスのやつが皆席についた。担任は、何ともいえない顔をしながら床を見つめて、教壇に手をついた。第一声で皆黙った。
「……下田楓也くんは、昨日の放課後、学校の屋上から飛び降りました」
「…………は」
酷く落ち込んだ。今までの記憶が駆け巡った。
ずっと一緒にいて、ずっと隣でバカ話して、ずっとずっとずっとずっとずっと―――
「野口くん」
後ろの席から道川さんが指で背中をつついて、話しかけてきた。俺はゆっくり振り返って、道川さんの顔を見た。道川さんは、心配そうな顔をして、今にも泣きそうな顔をしていた。
「大丈、夫?」
その一言で、俺はなんとなく、光の方向から外れた気がした。気がつくと、早退して自分の部屋で枕を濡らしていた。
もうどうでもよかった。今までのこと、これからのこと、全部、投げ捨てたかった。
それから俺は、引きこもるようになった。こんなに落ち込むなんて自分でも引くぐらい。
次に学校に登校したのは、5月23日、2年の一学期中間テストの日だった。テストが終わって、帰ろうとした時、再び道川さんが話しかけてきた。
「ねえ野口くん、その……このあと話せる?」
テストは空欄だらけで、多分赤点確定なのに、何も考えたくなかった。道川さんは、とても真っすぐな目で俺を見ていて、とても目を合わせられなかった。眩しかった。なんだかあいつに似ている気がした。
「……なに?」
気づいたら聞く返事をしていた。
「あの……えっと……」
「…同情の言葉なら、いやだ」
「えっ、あ…違うの…!その……今年も同じクラスになったし…まあ…去年色々あって大変だったろうけど…仲良くできたらなって…」
「………ふっ…ふはっ……そんなこと…?そんなこと言うために?俺に?ふはっ…!」
笑いが込み上げてきた。理由はわからないが、とてもおかしくて面白かった。
「え、ちょ……そんなに笑わないでよ!」
笑いが止まらなくて、涙が目尻に溜まった。こんな単純な言葉をかけられたのは久しぶりだった。親でさえずっと気遣って、同情と心配の言葉だけだったのに。今までの空白期間を埋めるぐらい、俺は笑い続けた。
それがきっかけで、俺と恵美は仲良くなった。恵美は無邪気で、それがなんだか堪らなく大切に思えた。でもそんな時間が続くにつれて、俺は死にたい気持ちが強くなっていった。なんだか、俺が勝手に恵美を楓也に重ねているようで、自分に腹が立った。それを察したのかわからないが、恵美は放課後の2人きりの教室で一言、ただ一言言ってきた。
「ルオ、一緒に死なない?」
何を言っているのかわからない、というのが普通なんだろうけど、俺には救いの言葉にしか聞こえなかった。それから死に方を話し合った。
「………どこでもいいから飛び降りたい。」
そう小さく呟くと、恵美は笑顔で答えた。
「私も同じ事思ってた!」
その表情が、どうしようもなく可愛く思えた。
こんな感情を持つ日が来るなんて、思っても見なかった。




