堕ちた羽
7月も半ばになってさらに気温が上がった頃
一希とソラが居間でくつろいでいた時、ふとソラは口を開いた。
「ねえ人間くん」
「あ?アイスはもうねえぞ」
「東京行ってみたい」
「は?勝手に行けよ。」
「言うと思ったよ」
「…ちなみに、なんで?」
「……興味」
「あっそ、尚の事1人でどうぞぉ」
「一希、今度僕のアイス2個あげるから」
「具体的に」
「………ガリガ…」
「却下」
「っ……わかった、雪大福……2パック……」
「んじゃ行くか」
「…贅沢な人間だ」
「黙ってろ居候。」
__________
2人は祖母に最寄り駅まで車で送ってもらい、それから約3時間かけて電車を使って東京に向かった。
「で、なんで池袋なんだよ」
「だって、今日コスプレ?のイベントらしくて」
「お前コスプレ興味あんのか?普段からコスプレしてるみてぇなのに」
「だからだよ。紛れられるじゃん?」
「……あそ」
「じゃ僕行くとこあるからあとで集合ね」
「はあ!?」
「なんかあったら公衆電話?使うからよろしく」
「えっ、いや……金は!?」
「奈子さんからテレフォンカードもらった」
「ばあちゃんっ……」
ソラは人混みに紛れてどんどん離れていき、やがて一希は諦めてそこら辺をみて回っていた。
ソラは駅からおおよそ10分程大勢の人とすれ違いながら歩いていた。すると突然、すれ違い際に1人のメガネをかけた男の腕をつかんで立ち止まった。
「見つけたよ。」
男はゆっくりと振り返り、ソラを見た。抵抗することはせず、平然な顔をしていた。
「どなたでしょうか。」
「僕がコスプレじゃないって、君ならわかるだろう?」
「…ふっ、どうやら誤魔化すこともできないようですね。どうですか、近くのファミレスにでも。」
「逃げる気?」
「いいえ、あなたと話をするためにです」
「……そう。」
2人はファミレスに向かい、ソファ席に向かい合わせに座った。そしてドリンクバーを2人分、それとフライドポテトを注文した。
「さて、本題に入ってくれるかな」
「今すぐ人殺しをやめろ」
「はて?」
「とぼけるなよ。あの怪物、君だろう。」
「流石、わかってたんだね。」
「昔から何も変わってない、本当呆れる。」
「あなた、名前は?」
「今はソラで通してる」
「私は平角大我だよ。」
「そ、大我。あの怪物は、人間から作った物だろう。」
「…やっぱり、君はすごいね。そうだよ。あの子たちは皆元人間だ」
「相変わらずの悪趣味だ。人をいじって何が楽しいんだか。堕天してもやり続けるほど楽しい?」
「堕天したからこそ、だ。」
「自由人だね。……君は、また天使になりたいの?」
「なるんだよ。人間は、天使に憧れるものだろう?」
「…もう、十分天使を全うしたろう。何のための堕天だと…」
「私は選んで天使に再び戻る。邪魔はするな。」
しばらく沈黙が続き、その時にタイミング良くフライドポテトを店員が運んできて机に並べられた。
「食べていいよ。」
「言われなくても食べる」
「……あなたは、堕天しないでくれよ?」
「……できないよ」
「あなたには、羽が似合っている」
「お前には羽は似合わない。堕天したんだから。」
「黙れ、その話は許可しない」
ソラはポテトを食べ終え、背もたれに寄りかかって天井を眺めた。そして目線のみを動かして平角を視界に入れて数秒。
「君は、天使に戻って何がしたい。」
平角は窓の外に視線を一瞬やったあと、足を組んでソラを視線で捕らえた。
「天使とは、美しく綺麗であるべき存在だ。だからこそ、私はそれを染めたい。」
「皮肉?」
「さあ、どうだろうね。」
「天使なんて、何もいいことがないのに。」
するとソラの背後から誰かが肩に触れてきた。
「ようやく見つけた…テメェ何してんだよ」
それは一希だった。ソラはゆっくりと振り返り、立ち上がった。
「これ以上、大事にしたら今度こそ君は外の道になる。せいぜい僕に殺されることだね。」
ソラは振り返らずにファミレスを出ていった。
「……は?え…なんかスンマセン。」
一希もそう言い残してソラに続いた。
そして平角は水を一気に飲み干し、大きくため息をついた。




