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証言者は、あなたです  作者: やはぎ・エリンギ


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98/100

「あなたは何を書いた?」

あなたに聞きたいことがある。

この物語を読んできたあなたに、一つだけ聞きたいことがある。

柏木真司という人間が、インターネット上で殺人予告動画の「犯人」として特定された時、あなたはどこにいたか。

もちろん、この物語はフィクションだ。柏木真司は実在しない。しかし似た構造を持つ出来事は、現実に何度も起きている。テレビに出た人間が一夜にして標的になった。告発した人間が逆に潰された。デマで十年以上を奪われた人間がいた。

あなたはその時、何をしたか。

スマートフォンを開いた。トレンドを見た。スレッドを読んだ。そして。

タグを使ったかもしれない。コメントを書いたかもしれない。拡散ボタンを押したかもしれない。何もしなかったかもしれない。スマートフォンを閉じたかもしれない。

どれが正解で、どれが不正解か、この物語は答えを出さない。

しかし一つだけ、確かなことがある。

画面の向こうには、人間がいた。

スマートフォンやパソコンの画面に映るのは、文字と画像だ。しかしその文字を受け取るのは、朝食を食べ、眠り、娘を抱きしめ、手が震える人間だ。コメント欄の一行が、その人間の眠れない夜を作る。タグの一件が、その人間の娘を孤立させる。

あなたはその事実を、知っていたか。知っていたのに、打ったか。知らなかったから、打ったか。

どちらにせよ、打った文字は残った。

消えなかった。

七万八千件のタグは、一人の人間を死に追い込んだ。七万八千分の一は、限りなくゼロに近い数字だ。しかし七万八千が集まれば、ゼロではなくなった。

この物語を読んだあなたは、早瀬凌ではない。水野アカリでもない。柏木加奈子でも、久我山拓海でもない。

しかしあなたは、七万八千人の誰かかもしれない。

あるいは、スマートフォンを閉じた四十二歳の会社員かもしれない。炎上を見て、画面を閉じた名もなきひとりかもしれない。

どちらであっても、あなたはこの物語の外にいない。

あなたはこの物語の中にいた。ずっと、最初から。

柏木彩は今日も学校に行く。水野アカリは今日も相談者の声を聞く。早瀬凌は今日も動き続ける。

そしてどこかで、また新しい動画が投稿される。

その時、あなたは何をするか。

答えは、あなただけが知っている。


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