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証言者は、あなたです  作者: やはぎ・エリンギ


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「デマと人生」

事件から約二年後・秋 午後1時〜午後5時 

講演会場は、四十席だった。

満席だった。NPO法人の主催するセミナーで、参加者のほとんどが福祉や教育の関係者だった。アカリが演台の前に立つと、静かになった。

「水野アカリと申します」と言った。

名前を言うだけで、何人かの顔が動いた。知っている人間がいた。事件のニュースで見た顔だと、思っているのかもしれなかった。アカリはそれを見てから、続けた。

「私は二年前、ある事件の当事者でした。加害者であり、被害者でもありました。今日はその経験から、ネット上の誹謗中傷と、デマが人の人生に何をするかについて話します」

準備した原稿があった。しかし途中から、原稿から目を離した。

「十数年前、ある女性がネット上でデマを流されました」とアカリは言った。「殺人事件に関与したという根拠のない情報が広まり、彼女の実名と顔写真が拡散されました。彼女は身に覚えのないことで、長年にわたって中傷を受け続けました」

会場が静かだった。

「彼女はそのデマに対して、一人で戦い続けました。法的手段を取り、情報の訂正を求め続けました。十年以上かかりました。その間、彼女の日常は何度も壊されました。就職、人間関係、あらゆる場面でデマの影響が出ました」

アカリは一度、言葉を止めた。

「私が拘置所にいた時、同じような構造を持つ事件の記録を弁護士から見せてもらいました。デマで人生を傷つけられた人間の記録でした。その人は今も生きています。戦い続けています。その事実が、私には重かった」

「私の場合は、AIによって声を盗まれました。しかし根っこにある構造は同じです。誰かが誰かについての嘘を流す。それを信じた人間が動く。標的になった人間の人生が壊れる。デマを流した側は、多くの場合、軽い処分で終わるか、処分されない」

会場から手が挙がった。

「デマを見分けるにはどうすればいいですか」という質問だった。

アカリは少し考えた。

「完璧な方法はありません」と答えた。「しかし一つだけ言えることがあります。怒りを感じた時ほど、立ち止まることです。人間は怒りの中では判断が鈍る。怒りを感じた投稿を拡散する前に、一度だけ止まる。それだけで、違う結果になる場面が確実にあります」

講演が終わった。

何人かが話しかけてきた。教師が一人、「生徒に伝えたいと思います」と言った。福祉士が一人、「相談者にも話してみます」と言った。

アカリは一人ずつ、答えた。

会場を出た時、秋の光が斜めに差していた。

デマで傷ついた人間の記録が、頭に残っていた。あの人は今も戦っている。アカリは二年で社会に戻れた。あの人は十年以上かかった。しかし戦い続けた。

戦い続けることと、止まらないことは、同じことだとアカリは思った。

帰り道を歩いた。

ムギが待っていた。


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