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証言者は、あなたです  作者: やはぎ・エリンギ


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「アカリのその後」

事件から約二年後・秋 午後3時〜夜 

履歴書を書いた。

正確には、書き直した。NPOに採用されてから、初めて書き直した。職務経歴の欄に、新しい行が加わっていた。「ネット被害者支援NPO法人勤務」という一行だった。

なぜ書き直したのか。

理由は単純だった。来月、別のNPOから講演の依頼が来ていた。自分の経験を話してほしいという内容だった。田所が「行きますか」と聞いた。アカリは「行きます」と答えた。

しかし講演の準備をしながら、自分の経歴を並べると、奇妙な気持ちになった。

五年前まで、広告代理店に勤めていた。セクハラ被害を告発し、退職した。その後の五年間の空白。自殺未遂。ネット中傷。そして逮捕。執行猶予。NPOへの就職。

これが自分の履歴書だった。

隠す気はなかった。隠せるものでもなかった。ネットを検索すれば、アカリの名前と事件がすぐに出てきた。消えなかった。削除申請を繰り返しても、どこかに残り続けた。デジタルタトゥーというものの意味を、アカリは自分の皮膚で理解していた。

夜、ムギが膝に乗ってきた。

アカリは手を止めた。

窓の外が暗くなっていた。秋の日暮れは早かった。去年の秋も、一昨年の秋も、アカリは一人でこの部屋にいた。しかし今年の秋は違った。明日、NPOに行く。来月、講演に行く。やることがあった。

それでも、元には戻らない部分があった。

久我山を刺した手は、今も同じ手だった。消えない事実だった。包丁を持った瞬間の感覚が、時々夢に出てきた。目が覚めると、自分の手を見た。普通の手だった。しかしあの夜も普通の手だった。

さやかが先週、「水野さんがいてくれてよかった」と言った。

アカリはその言葉を受け取れなかった。受け取る資格があるのかどうか、今も分からなかった。しかし受け取れなくても、言葉はそこにあった。消えなかった。

講演の原稿を開いた。

最初の一文を書いた。

「私は加害者であり、被害者でもありました」

書いてから、読み返した。消さなかった。

これが今のアカリの言葉だった。どちらか一方では足りなかった。両方が本当のことだった。

ムギが鳴いた。

ご飯の時間だった。

アカリは立ち上がった。冷蔵庫を開けた。ムギのご飯を用意した。

秋の夜が、静かに続いていた。


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