「アカリと拓海」
事件から約二年後・夏の終わり 午後1時〜午後4時
面会に行くと決めたのは、前日の夜だった。
理由はうまく説明できなかった。山本弁護士に「会いますか」と聞かれて以来、ずっと考えていた。会う理由も、会わない理由も、両方あった。
しかし前日の夜、ムギが膝の上で眠っていた時、ふと思った。
聞きたいことがある。
それだけだった。怒りでも許しでもなかった。ただ、直接聞きたいことがあった。
刑務所の面会室は、アクリル板で仕切られていた。
アカリは椅子に座り、向こう側を待った。
扉が開いた。拓海が入ってきた。
刑務所の服を着ていた。アカリを見た。一秒、動かなかった。それからゆっくりと歩いてきて、アクリル板の前に座った。
二人は向き合った。
「来てくれると思っていませんでした」と拓海は言った。
「私も来るとは思っていませんでした」とアカリは答えた。
しばらく沈黙があった。
「一つだけ聞かせてください」とアカリは言った。「私に最初にメッセージを送った時、私のことをどう思っていましたか」
拓海は答えを考えた。
「道具だと思っていた部分がありました」と言った。「しかしそれだけではなかった。あなたの経験を読んで、本当のことだと思った。怒りは正当だと思った。それも本当のことです」
「道具と正当な怒り、両方だった」
「はい」と拓海は答えた。「今は道具だと思っていたことを、恥ずかしいと思っています。しかしその時の自分を消すことはできない」
アカリは拓海を見た。
「柏木さんが死んだことを、どう思っていますか」と聞いた。
「毎日思います」と拓海は言った。「夢に出てきます。柏木さんの娘さんの夢です。泣いている。私には止められた場面があった。止めなかった。それは変わらない事実です」
「あなたがいなければ」とアカリは言った。「久我山のセクハラは認められなかった。でも柏木さんも死ななかった」
「はい」と拓海は言った。
「その両方が本当のことです」とアカリは言った。「私もそれを、二年間抱えてきました」
拓海は黙った。
アカリも黙った。
アクリル板の向こうとこちらで、二人は同じ沈黙の中にいた。
「私はあなたを許すかどうか、まだ分かりません」とアカリは言った。「でも今日来たのは、許すためでも、怒るためでもなかった。ただ聞きたかった。聞けました」
「ありがとうございます」と拓海は言った。
——拓海はアカリが帰った後、面会室に一人残された。
扉が閉まった。
アクリル板の向こうが空になった。
水野アカリが来た。来て、話して、帰った。「許すかどうかまだ分からない」と言った。それが今の答えだった。それでよかった。許されることを求めて会いに来てもらおうとしたわけではなかった。
ただ、顔を見て話したかった。
できた。
母の写真を思い浮かべた。
「見てたか」と頭の中で言った。
返事はなかった。
しかし今日は、それでよかった。
夏の終わりの光が、小さい窓から差し込んでいた。




