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証言者は、あなたです  作者: やはぎ・エリンギ


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「村上怜司の再出発」

事件から約二年後・夏 午後1時〜午後6時 

カメラを買ったのは三ヶ月前だった。

中古の小さいカメラだった。チャンネルをやっていた頃に使っていたものとは違う、安い機材だった。買ってから三ヶ月、部屋の棚に置いたままだった。電源も入れなかった。

今日、電源を入れた。

理由は特になかった。朝起きて、コーヒーを飲んで、カメラを見て、電源を入れた。それだけだった。

画面が点いた。

レンズが部屋を映した。自分の部屋だった。散らかっていた。窓から夏の光が入っていた。

村上は三脚にカメラをセットした。

椅子を置いた。カメラの前に座った。

画面に自分の顔が映った。

二十八歳の顔だった。チャンネルをやっていた頃より、少し老けていた。しかし目が変わっていた。あの頃は視聴者の反応を計算する目だった。今は、ただ自分の顔が映っていた。

録画ボタンを押さなかった。

ただ、カメラの前に座っていた。

しばらくして、口を開いた。

「柏木真司さんのことを、考えています」と言った。

誰に向けた言葉でもなかった。録画していないから、誰にも届かない言葉だった。しかし言った。

「あの日、配信を止めなかった。止めるという選択肢が自分になかった。今でも、なぜなかったのか分からない部分がある。カメラの前に立つと、何かが変わっていた。画面の向こうに人間がいることを、忘れていた」

部屋が静かだった。

「映像を続けるかどうか、まだ決めていません。しかし今日、カメラの前に座ることはできた。それだけのことです」

話し終わった。

録画ボタンは押していなかった。どこにも残らない言葉だった。

しかし言えた。

カメラの電源を切った。三脚から外した。棚に戻した。今日はここまでだと思った。

窓の外で夏の蝉が鳴いていた。

村上はコーヒーを飲んだ。冷めていた。

加奈子への民事訴訟の判決は、一審で確定していた。控訴しなかった。損害賠償を支払った。それがけじめだと思った。

しかし加奈子が「法廷で言わせたい」と言った言葉が、今も頭にあった。

法廷で言わせた。村上は法廷で言わされた。それが、自分のした行為の重さだった。

次にカメラの前に座る日が来るかどうか、分からなかった。

しかし今日は座れた。

それだけのことが、今の村上には十分だった。


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