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証言者は、あなたです  作者: やはぎ・エリンギ


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「アカリの独房」

17日目 午後6時〜23時 ※視点:水野アカリ

留置場の天井は、白かった。

病院の天井と同じ色だった。六年前、睡眠薬を飲んで運ばれた病院の天井も、こんな色だったと思った。白い天井を見て意識を取り戻す場所に、自分はまた来た。

アカリは薄い毛布の上に横になっていた。

体は動いた。痛みはなかった。手錠もなかった。ただ、部屋の外に出られなかった。それだけだった。

弁護士が来たのは午前中だった。

国選の弁護士とは別に、私選の弁護士が来た。若い女性だった。「水野さんの事情を聞いて、担当を引き受けることにしました」と言った。名前は山本といった。三十代後半で、目が鋭かった。

「久我山拓海が逮捕されました」と山本弁護士は言った。

アカリは天井を見たまま、その言葉を受け取った。

「あなたが使われた証拠が出ています。マルウェアによる音声収集、AI合成の全データが拓海のPCから見つかりました。あなたの声は無断で奪われた。それが証明されています」

アカリは何も言わなかった。

「刑事処分については、これから交渉します」と山本弁護士は続けた。「久我山誠一郎が入院先で、五年前のセクハラを認める証言をしています。あなたの告発は正しかった。それも記録されています」

久我山が認めた。

その言葉が、アカリの中で静かに落ちた。

五年間、認められなかったことが、今認められた。遅かった。遅すぎた。しかしそれが今、言葉として存在している。

弁護士が帰った後、アカリはまた天井を見た。

拓海のことを考えた。

三ヶ月前、最初のメッセージが届いた時のことを思い出した。「久我山誠一郎のことを知っている」という言葉。それだけで信じた。信じたかったから信じた。誰かが自分の話を聞いてくれる、自分の側にいてくれると思った。

使われた。

しかし拓海の父への憎悪は、本物だったと思う。アカリへの怒りも、拓海なりに本物だったかもしれない。しかしだからといって、柏木真司が死ぬ理由にはならなかった。

ムギのことを思った。

今頃、ご飯の時間を過ぎているかもしれない。田村さんがちゃんと見ていてくれているだろうか。押し入れの上で丸くなっているだろうか。

「#柏木真司さんへ」というタグが広がっていることを、アカリは知らなかった。

スマートフォンがなかった。ネットが見られなかった。

しかし留置場の外で、三万件の後悔が積み上がっていることを、アカリは感じていた気がした。感じていたわけがなかった。しかし何かが変わったという気配を、壁越しに、空気越しに、感じていた。

23時、消灯になった。

暗くなった部屋で、アカリは目を開けたまま横になっていた。

ムギの温もりがなかった。

それだけが、今夜の確かな不在だった。


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