「報道の嵐」
17日目 午後2時〜23時 ※視点:SNSの断面
最初の報道は午後2時22分だった。
ネットメディアの速報だった。「殺人予告動画事件、久我山拓海容疑者を逮捕 AI音声で他人を陥れた疑い」という見出しがSNSに流れた。
タイムラインが止まった。
正確には止まったのではなく、流れが変わった。午前中まで続いていた別の話題が、一瞬で押し流された。
「AI音声って何」
「水野アカリは被害者だったってこと?」
「柏木先生は完全に無実だったのか」
その三つの問いが、ほぼ同時に大量に投稿された。
午後3時、大手メディアが続報を出した。
動画の声がAI合成だったこと。アカリのPCにマルウェアが仕込まれていたこと。声を無断収集されていたこと。拓海が父親への憎悪から計画したこと。柏木真司への攻撃は計画外だったこと。
それらが報道されると、SNSの空気が変わった。
変わり方は、柏木が死んだ日の手のひら返しとは違った。あの時は怒りの矛先が変わっただけだった。今回は違った。今回は、沈黙が広がった。
何千件もの投稿が、同じ言葉を繰り返した。
「自分も拡散した」
「特定スレに書き込んだ」
「タグを使った」
「無言電話した」
「出前を送りつけた」
それぞれが自分のした行為を書いた。告白のようだった。誰かに強制されたわけではなかった。ただ書いた。書かずにいられなかった。
午後5時、レイジが動画を投稿した。
謝罪動画ではなかった。チャンネルの活動終了宣言だった。「自分がやったことの重さを、今日初めて理解しました」という言葉があった。「柏木さんのご家族に、直接謝罪したいと思っています」という言葉があった。
コメント欄は静かだった。罵倒もなく、擁護もなく、ただ短い言葉が並んだ。「遅い」「それでいい」「柏木さんには届かない」。
午後7時、新しいタグが生まれた。
「#柏木真司さんへ」というタグだった。
最初に使ったのは、特定スレに書き込んでいたアカウントだった。「あの時、自分が書いたことを謝りたい。届かないけど」という投稿と一緒だった。
タグは広がった。
「信じてしまってごめんなさい」「確認しなかった」「止めるべきだった」「娘さんのことを考えると眠れない」。
怒りではなかった。正義でもなかった。ただの後悔だった。後悔が、夜のタイムラインに静かに広がっていった。
23時、タグの投稿数は三万件を超えた。
「#柏木真司を許すな」が七万八千件で止まったタグの、半分に近い数字だった。
しかし柏木真司はもういない。
三万件の後悔は、誰にも届かなかった。届く場所がなかった。ただ画面の中に積み上がり、夜の深さの中に沈んでいった。




