「AI音声の発見」
16日目 午後4時〜17日目 午前1時
桑田は六時間、画面から離れなかった。
拓海のデスクトップPCの解析が、中核だった。ノートPCと外付けハードディスクは補助的な証拠だった。本丸はデスクトップだった。
午後4時から始めて、最初の一時間は環境の把握に使った。インストールされているソフトウェアの一覧、フォルダ構造、ファイルの作成日時。全体像を掴んでから、深く潜った。
午後7時、桑田は声を上げた。
「早瀬さん、来てください」
早瀬がデスクに来た。桑田は画面を指した。
「AI音声合成のプロジェクトフォルダです。中身を見てください」
フォルダの構造が画面に展開されていた。
「まず素材フォルダ」と桑田は言った。「中に音声ファイルが三百四十二個あります。ファイル名を見ると、日付と時刻が付いています。最初のファイルは五ヶ月前。マルウェアをインストールした直後から、収集が始まっています」
「すべてアカリさんの声ですか」
「そうです。マイクで収集した生データです。電話での会話、独り言、ムギに話しかける声まで含まれています。三百四十二個を合計すると、約六十時間分になります」
早瀬は画面を見た。
六十時間。アカリが知らないうちに、自分の声が六十時間分収集されていた。
「次に前処理フォルダ」と桑田は続けた。「ノイズ除去、音量の正規化、不要な部分のカット。素材を使いやすい形に整えています。ここに約四十時間の作業ログが残っています」
「拓海が手作業でやったということですか」
「一部は自動化していますが、最終的な調整は手作業です。かなりの手間をかけています」
「次は」
「学習フォルダです」と桑田は言い、別のウィンドウを開いた。「アカリさんの声の特徴をAIに学習させたデータが入っています。音の高さ、話し方のクセ、呼吸のタイミング。これを使って、任意のテキストをアカリさんの声で読み上げさせることができる」
早瀬は椅子に座った。
「そして最後に生成フォルダ」と桑田は言った。「動画に使われた音声ファイルがここにあります。テキストファイルも残っています」
テキストファイルを開いた。
「私は七日後に人を殺します」という一文が、そこにあった。
拓海が書いた台本だった。アカリの声で読み上げさせるために書かれた台本が、ファイルとして残っていた。
「証拠として十分ですか」と早瀬は聞いた。
「十分すぎます」と桑田は答えた。「逮捕状が取れます。電磁的記録不正作出、名誉毀損、威力業務妨害。複数の容疑が成立します」
早瀬は立ち上がった。
「もう一つ確認したい」と言った。「Ep.27で俺が感じた違和感、声に体温がないという感覚。それが今、証明された」
桑田は頷いた。「合成音声は感情の揺らぎがない。人間の声には、無意識の揺れがある。それがなかった。早瀬さんの直感は正しかった」
17日目になろうとしていた。
早瀬は窓の外を見た。深夜の東京が、光の海として広がっていた。
アカリの声が、六十時間分、この画面の中にある。
アカリが知らないうちに奪われた声が、ここにある。
早瀬はそれを静かに、怒っていた。




