「令状執行」
16日目 午前6時〜午後3時
令状が下りたのは、午前6時12分だった。
深夜から動き続けた書類仕事が、夜明けとともに実を結んだ。早瀬は令状を受け取り、コートを着た。桑田と、鑑識の二人を連れて署を出た。
拓海のマンションに着いたのは、7時前だった。
インターホンを押した。すぐに応答があった。眠っていなかったのか、あるいは来ることを待っていたのか、声に寝起きの気配がなかった。
「令状を持っています。開けてください」
ドアが開いた。
拓海は昨夜と同じ服を着ていた。着替えていなかった。部屋に入ると、デスクの上に三台のモニターが並んでいた。電源は落ちていた。しかし電源ケーブルが抜かれていた。
「証拠を消しましたか」と早瀬は聞いた。
「消していません」と拓海は答えた。「消す気はありませんでした」
桑田がデスクに近づき、機材を確認した。ノートPC一台、デスクトップPC一台、外付けハードディスク三本、スマートフォン二台。機材の量が多かった。本格的な環境だった。
「全部持っていきます」と早瀬は言った。
「分かりました」と拓海は言った。
鑑識が作業を始めた。早瀬は部屋を見回した。
六畳ほどの部屋だった。本棚に技術書が並んでいた。プログラミング、セキュリティ、AI。壁には何も貼られていなかった。生活感が薄かった。食事をする場所があるのか分からないほど、デスク以外に何もなかった。
一点だけ、違うものがあった。
本棚の隅に、写真立てが一つあった。
女性の写真だった。五十代に見えた。微笑んでいた。
「お母さんですか」と早瀬は聞いた。
拓海は早瀬を見た。それから写真を見た。
「はい」と言った。それだけだった。
午前11時、署に戻った。
桑田がすぐに解析を始めた。午後2時、最初の報告が来た。
「動画の元データがありました」と桑田は言った。「アカリさんの音声を収集したファイル、AI合成のプロジェクトファイル、完成した動画ファイル。全部残っています。消していない」
「本当に消す気がなかったんだ」と早瀬は言った。
「それだけじゃありません」と桑田は続けた。「フォルダの中に、テキストファイルが一つあります。タイトルが『証言』です」
「内容は」
桑田は画面を早瀬に向けた。
長い文章だった。日付から始まっていた。六年前の日付だった。母が死んだ日だった。
父への手紙だった。
送られなかった手紙が、ファイルの中に残っていた。父への怒りと、母への後悔と、自分がこれから何をするかの宣言が、淡々とした文体で書かれていた。
早瀬はその文章を読んだ。
最後の一行だけ、読んだ後も頭から離れなかった。
「これは復讐ではない。これは証言だ」
部屋の外では、午後の光が廊下に差し込んでいた。




