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証言者は、あなたです  作者: やはぎ・エリンギ


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「ドアノック」

14日目 20時30分〜21時 

久我山のSNSに投稿があったのは、20時22分だった。

「食事終了。今夜はゆっくり休もう」という短い文と、空のグラスの写真だった。レストランを出た。ホテルへ向かっている。アカリは立ち上がった。

鞄を持った。

廊下へ出た。エレベーターホールへ向かった。久我山の部屋番号は、チェックイン時にフロントのモニターを一瞬見て把握していた。十二階の1208号室だった。アカリの部屋は十四階だった。

エレベーターで十二階へ降りた。

廊下は静かだった。ベージュのカーペットが延びていた。等間隔にドアが並んでいた。どのドアの向こうにも人間がいる。それぞれの夜がある。

1208号室の前に立った。

ドアは閉まっていた。まだ戻っていないかもしれなかった。アカリは廊下の端に寄り、壁に背を預けた。待った。

20時44分、エレベーターの音がした。

ドアが開いた。男が出てきた。

久我山誠一郎だった。

スーツを着ていた。少し酔っているのか、歩き方が緩やかだった。スマートフォンを見ながら廊下を歩いてきた。アカリの方を向いていなかった。

アカリは壁から離れた。

久我山が顔を上げた。アカリを見た。一瞬、何も起きなかった。

それから久我山の顔に、困惑が浮かんだ。

「……水野?」

五年ぶりに聞く声だった。覚えていた。低く、自信に満ちた声だった。

「久しぶりです」とアカリは言った。

声が平坦だった。震えなかった。五年間で声から感情が切り離されていた。それが今夜、役に立った。

「なんで、ここに」と久我山が言った。困惑が恐怖に変わりかけていた。

「話がしたくて」とアカリは言った。

「話? こんな場所で?」久我山は周囲を見た。廊下に他の人間はいなかった。「警察に」と言いかけた。

「呼んでいいですよ」とアカリは言った。「でもその前に、少しだけ聞いてください」

久我山は動かなかった。

その時、非常階段のドアが開いた。

——早瀬凌は、エレベーターではなく非常階段を使った。

ホテルに着いたのは20時39分だった。フロントで状況を説明し、十二階へ向かった。エレベーターを使えば目立つと判断し、非常階段を選んだ。

ドアを押し開けた瞬間、廊下の奥に人影が見えた。

二人。向かい合って立っている。一人は女性。一人はスーツの男。

早瀬は走らなかった。走れば相手が動く。ゆっくりと、しかし確実に近づいた。

女性の横顔が見えた。

水野アカリだった。

鞄を持っていた。右手が鞄の中に入っていた。

早瀬は「水野さん」と声をかけた。

アカリが振り返った。

目が合った。


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