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異形の冒険者  作者: まる
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町の人々と

【奴隷編 町の人々と】


ダンジョンの30階と言えば、10階層ごとのエリアボスの鎮座まします階層である。


「フル装備のウォックちゃんと、ズウェイトちゃん・・、とんでもないわね」


既にアイテムと化したエリアボスとの一戦を振り返って、セッチの一言である。


「私たちもそう思います」

「(こくこくこく)」


自分たちの事なのに、二人自身が自分たちの成果に驚いている。

空気の読めないアザゼル一人が、見事とか言って感心しているが。


各階の雑魚は言うに及ばず、ここまでのフロアボス、エリアボスでは相手にならなかった。

30階のエリアボスで、ほぼほぼ互角である。


「どのダンジョンも共通で、9階までがランクEで、19階までがランクD・・」

「エリアボスは、別名昇格試験とも言われていて、先の階に進める実力を測るとされています」

「31階から39階は・・ランクBか」

「私たち、もっと上層階の無限湧きトラップで死にかけたのに・・」


アザゼルに出会い助けられた時の事を思い起こす。


「ああ、あれば別ね。物量戦ってのは馬鹿に出来ないわ。今の装備でも無理だと思う」

「そうでしょうか?」

「何時終わるともしれない戦いは、肉体的にも精神的にも、装備にも負担を強いるから」

「アザゼル様、全く問題ありませんでしたけど?」

「あれも別格。一緒に考える方が愚かよ、馬鹿よ、間抜けよ?」

「「・・・・・」」


仮にも仲間なのに、あまりの言いようであるが事実である事に二の句が接げない。


「では、一旦ダンジョンを出るとするか」


二人のだいたいランクが分かった所で、アザゼルがポツリと呟く。


出る? 普通の人たちは上の階に戻るか、脱出アイテムを使う。


「「「・・・・」」」


三人は自分たちの頬がひくつくのが分かる。


「任せるわ・・」

「うむ。ウォック殿とズウェイト殿も、やれるところまでやって見ると良い」

「「・・はい」」


自分たちを気にかけてくれる優しい言葉なのに、やっている事は結構スパルタである。


40階までは良い意味でも悪い意味でも、二人にとって訓練となった。

流石に40階のエリアボスに関しては、歯が立たずアザゼルの登場である。






ダンジョンクリア、そして地上に戻ると、セッチはにこやかに話しかける。


「ウォックちゃん、ズウェイトちゃん、感想はどう?」

「信じられません」

「凄かったです」


自分たちの装備を見ながら、興奮冷めやらぬ2人。


「そうよ・・ね」

「何か気になる事があるのか?」


セッチが急に深刻そうな顔に変わる。


「アザゼルさんは装備じゃなくて実力、2人は装備による結果よね?」

「そうだな」

「はい」

「じゃあ、装備が壊れたらどうなるのかしら?」


セッチの言わんとしている事を、ウォックとズウェイトは瞬時に理解する。


「「所詮は、借り物の力と言う事ですね・・」」

「一つ思うのだが」


彼女の言葉を遮って、アザゼルが語る。


「何かしら?」

「装備を飾っておいたり、マジックバックにしまって眠らせる意味はあるのか?」


壊れるまで使って引退と考えれば、残りの人生を安泰に暮らせるだけは稼げるだろう。


「言いたい事は分かるけど、いざという時の彼女達が心配なだけ」

「そうか」


自分のなかなか壊れず、『倉庫』で埋もれたままの装備の事を相談したかっただけだった。


「では、普通に店で買える装備でも訓練した方が良いのではないか?」

「ふむ・・。それも一つの手ね」

「一人で勝てる階層で、装備を交互に交換して、お互い助け合って訓練してはどうか?」

「面白いアイデアだわ。町で装備を揃える事で、メンテナンスなんかで接点が増えるわね」


戦闘職と、武器屋や防具屋とは切っても切れない関係だ。


「そう言えば、今まで装備の店に行った事は無かったな」

「貴方が装備に当てがあるって言ってたからね」

「・・そうだったな」


セッチの言葉に、自分の都合で二人が町に溶け込む邪魔をしていた事に落ち込む。






ウォックとズウェイトが町に来てから、しばらく経っている。

町の人々の態度に変化があったのだろうか?


西の町は王都に比べ奴隷の数が少なく、殆どの場合、表に出る事はあり得ない。

町の人々にとって、ふーん、そうなの、的なものであった。


しかし他種族の奴隷ともなると・・


「ウォックちゃん、ズウェイトちゃん。おはようさんね」

「あ、おば様。おはようございます」

「おはようございます」


装備を買いにで帰る際、お隣さんとばったり出くわして挨拶を交わす。


トラブルを防ぐため、二人だけで出かけさせる事は無い。

連れ立った先々で、率先して挨拶させたり、会話をさせてきた。


当初、町に合った感情は大きく分けて二つ。


戦争や依頼で、家族や仲間を失った人々の怒りや憎しみ、侮蔑といったもの。

時間がたっても、この人々の感情や態度に、これといった変化はなかった。


もう一つは、無関心だったり、遠巻きに見るといったもの。

こちらは時間が経つにつれて、感情や態度に軟化が見られていた。


耳やしっぽと言った外観の違いは大きいが、見た目は可愛らしい少女たち。


何の恨みも憎しみも無い者に、挨拶をされれば、返すようになってくる。

ご近所さんや買い物先で、毎日のように会っていれば、少しずつ仲良くもなろう。




とは言っても・・


「帰れ! 獣人? エルフ? そんな奴らに売る物はねぇ! 消えて失せろ!」


ウォックとズウェイトが装備を求めた瞬間に、激怒したのである。

ここは武器や防具を総合的に取り扱う、ユニオンの出す店舗である。


「何でよ?」


普段通り二人に交渉をさせたが、埒が明かないのでセッチが交代する。


「何時、お前たちに売った剣が向けられるか分からねだろうが!」

「彼女たちは、私の護衛よ」

「護衛? ここに居られるって事は奴隷でもあんだろう?」

「その通りよ」

「奴隷なら尚更だ! うちで取り扱う物は、誇り高き戦士たちの物だからな。その辺のぼろ布と、棒で十分だ! 他を当たれ、他を!」


この様な感じで、全く話にならない。

他の店に行こうとすると、アザゼルが店主に問う。


「ご主人、一つ尋ねたいのだが?」

「ああん? 何だ?」


仮面を付け、四肢のみ防具に大剣を背負う異形におじける事無く、ぶっきら棒に答える。


「誇り高き戦士とは、どの様なものか?」

「はあっ!?」


アザゼルに問われた言葉に眉を潜め、考え始める。


「そりゃ・・、なんだ・・、ああ・・ええっと」


咄嗟の答えだったのか、口籠る店の主人に小手を外して見せる。


「そいつは・・」


小手の下の痣から、異形な容姿の理由を瞬時に理解する。


「自分はこの痣が全身にあり、村々から呪われし者として追い立てられてきた」

「・・・・」


店の主人が苦虫を噛み潰したかのような顔をする。


「自分は誇り高き戦士か? 誇り高き戦士になれるのか? 村々の厄介者である自分に、装備を売ってくれる店はあるのか?」


ウォックとズウェイトが、黙って小手を着けるのを手伝う。

ふたりは店の主人に深く礼をすると、アザゼルの手を取って店を出ようとする。


首輪が無い所を見ると、護衛仲間であろうと誤解する。


「ちょっと待ちな」

「・・・・」


店の主人の方へ、これ以上何か、と言うかの様な表情で振り返る。


「悪かったな・・、嬢ちゃん達・・」

「えっ!?」

「悪かった」


二人にもう一度詫びの言葉を伝える。


「別に奴隷をどうこう思ってる訳じゃねぇ。他の種族に特段、恨みがある訳じゃねぇ。周りが・・そう言うから、そう思い込んでいただけだ」


周囲の人間と一緒に、噂で踊らされていた自分に、気付かされたと告白する。


「必要な装備を言いな! キッチリ用意してやる」

「「ありがとう・・、ございます」」


職人の顔になった主人と、笑顔で礼を言う二人、それをウンウンと見守るセッチ・・

アザゼルは・・?


「ご主人、自分の質問に答えて欲しいのだが?」

「・・・えっ!?」


折角の良い雰囲気を、ぶち壊しの一言を発する。


「い、いや、あんた・・。この二人の事で、あの話をしたんじゃないのか?」

「いいや? あくまでも自分の事だが?」


店の主人が口をパクパクさせて、アザゼルを指さすと、女性陣は目を背ける。


「何だ、その・・、こいつは馬鹿なのか?」

「「「・・・・はい」」」


目を背けたまま、小さな声で、はっきりと頷くしか出来なかった。


アザゼル一人、何故?と、しきりに首を傾げていた。






職人気質の人は、一度心を許せば、厳しさは残るが妙に親身である。


「まずはウォックの嬢ちゃんからだな」

「お願いします」

「すまんが嬢ちゃんの種族の特質みたいのを教えてくれ」

「はい」


今の今まで人間相手だったのだから、出来る限りの情報は必要だ。


「獣人族には大きく分けて、パワー型とスピード型に分けられます」

「ふむふむ。嬢ちゃんは・・、スピード型で良いのか?」

「はい、その通りです」


獣人族は外見から判断できない事もあるが、女性なので一応・・。仮面を付けた変な男と違って、空気の読める男である。


「スピードを殺さない革製の部分鎧がいいな」

「そうですね」

「あと武器は・・、盗賊職が使うダガーの両手持ちがお勧めだ。同じ武器でも良いし、右手攻撃の長め、左手防御の厚めって言うのもありだな」

「それ! 良いですね!」


幾つかダガーを見せてもらっている間に、次はズウェイトに移る。


「次にズウェイトの嬢ちゃんになるな」

「はい、お願いします」

「先ずは嬢ちゃんの種族の特質を頼む」

「はい」


ウォックと同じ様に、ズウェイトの特質を潰さない様に確認する。


「エルフ族は、精霊と言う魔法を使いますが、金属との相性が非常に悪いです」

「嬢ちゃんは細身だから、防御を固めた方が良いと思ったがダメだな」

「重すぎると動けなくなりますぅ」


獣人族と違い身体能力は低く、低い分魔法で補っている所が大きい。


「ならそっちの姉ちゃんみたいな、魔法職の装備が良いか?」

「いいえ、弓や剣も使いたいです」

「ほぉ! 珍しい。魔法弓士や魔法剣士って言う事か」

「はい」


元から魔法の才があるエルフ族が故に、可能なのだろう。


「ならウォックの嬢ちゃんと同じ革製で、覆える部分が多い方が良いな」

「はい、お願いします」

「本当なら上質なモンスターの革を使いてぇところだが・・」


素材ならあると言いそうになる、アザゼルの口を塞いでセッチが断る。


「悪いけど、あんまり予算が取れな・・」

「はぁ!? 新人が金ある訳ねえだろう。謝るんじゃねぇ。ウルフ系の革鎧で始めて、徐々に依頼でランクを上げ、装備も良い物にしろ」

「「はい」」


一通り二人の適性を確認して、体のサイズに合いそうな防具を用意する。


「あとは武器なんだが、新人に弓はあんまり勧められん」

「どうしてでしょうか?」

「狩人なら既に持っているから良いんだが、一から用意すると金がかかる。特に矢は消耗品の上、回収できない事も多く、次々に無くなっちまうんだよ」

「それは・・、そうですね」


矢の一本だって馬鹿に出来ない費用だ。揃えるとなればそれ相応の額となる。


「そうは言っても、金属を使えないとなると・・、木の武器じゃ心もとねぇ」

「流石にちょっと・・」

「だよなぁ・・、となるとやっぱ弓と矢か・・。んん? 待てよ?」


ふと矢を見て、目を見開くと慌てて駆け出して行く。

すぐに短めの槍を持って戻ってきた。


「ズウェイトの嬢ちゃん、これ使ってみな」

「これは?」

「ちょっと前に試しに作って見たもんだけどな。鉄みたい固い木に、これまた固い石を削って穂先にした短槍だ。これならいけるだろう」

「はい! ありがとうございます」


ズウェイトは満面の笑顔で答える。


こうして2人は無事の装備を一式揃える事が出来た。






新装備の記念すべき第一戦を、ダンジョンで行った結果・・


「あなた達・・、大丈夫?」

「大丈夫・・じゃ、ありません・・」

「です・・、です」


彼女達の率直な感想は、違和感が半端無い、であった。


「そんなに違うの?」

「借り物の力って意味が、十二分に理解で出来ました。骨身にしみて・・」

「違うってもんじゃありません・・」


端で見ていたセッチも、この子たちワザとやってんじゃねぇ?って感じはあったが。


「体が重くて、走るのが遅く、普通のジャンプ。このダガーじゃ固くて切れません」

「ふむふむ」


最初にウォックの、続けてズウェイトの感想を聞いてみる。


「水の聖霊が下級一体のみで、殆どダメージが通りません。折角の槍が刺さりません」

「2人とも切実ね・・」


ダンジョン1階の壁の中の宝箱のフル装備では、考えられない事態ではあった。


「当初の予定通り、新旧の装備を、お互い交互に入れ替えて特訓しましょう」

「「はい」」


特訓も何も、新人に合わせた装備で、ダンジョンに挑もうと言う事自体が無謀な訳だが。




店売り装備の方が先陣を切り、フル装備の方が何時でも助けられるように準備する。


この特訓の成果は著しい物があった。


第一に、敵を良く見定め、効率良く弱点を攻める様になる。

第二に、どちらの装備でも、瞬時に感覚を合わせられるようになる。


流石に複数体同時、フロアボスは無理であるが、獣人族の身体能力、エルフ族の魔法の才とも相まって、二人なら9階まで店売り装備だけで倒せるようになった。


「二人ともどんな感じ?」

「能力と装備を生かした戦い方が、だんだん身についてきました」

「敵を知り、備えると言う事も大事だと分かりました」


彼女たちは物心付いた時から奴隷だったと言う。

狩の仕方、戦い方など、親兄弟、仲間から全く学んでいない。


奴隷先で消耗品として、何とか身につけた拙い技術で生き延びてきた。


予想以上の成果に、セッチも満足げに頷いていた。


「さて、次が問題よね・・」

「問題とは・・」

「・・何でしょうか?」


ダンジョンでの特訓は順調に進んでおり、特段問題はなさそうである。

セッチが指差すは、二人のボロボロになってしまった装備である。


「いや、店のおっちゃんに何て説明しようかと」


新人装備で、ランクEのモンスターと戦えば、装備の痛みも早い。

ランクEのダンジョンに行ったとなれば、何を言われるか分からない。


「形ある証拠を何とか手に入れないとね」

「確かに・・」

「・・そうですね」


ダンジョンの中のモンスターは、煙と消えて、アイテムをドロップするだけだ。

いきなり装備をボロボロにする敵など、そう簡単には町の傍まで現れない。


「では町に戻りながら、丁度良いモンスターを探すとしよう」

「そうね、そうしましょう」

「それから壊れたらと言う話をしていたが、予備を宝箱から出しておくか?」

「確かに、その方が・・」


宝箱は開けた人物に、必要な装備が出てくるのが分かっている。

店売り装備を揃えたのは、より町に溶け込むと言う理由からである。


「いいえ」

「今はまだ」


ウォックとズウェイトが、アザゼルの申し出を断る。


「どうして?」

「失われた時間を取り返すために」

「失われた技術を取り戻すために」


自分たちにはまだ何か出来る事がある、そう思わせるのには十分な時間だったのだろう。


「そう、分かったわ」

「壁の宝箱は逃げない。必要になったら取るとしよう」


今回の店売り装備によって、彼女達の埋もれていた一面を掘り起こす事に成功した。


何よりの大収穫に、四人は意気揚々と町へと戻る準備をする。





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