2人のランクアップ
【奴隷編 2人のランクアップ】
西の町への凱旋を果たす前に、やらなければならない事を済ませておく。
「どう? 何か良さげなのは居る?」
「幾つか反応はあるのだが、どれが良いのかが分からない」
「そうよねぇ・・」
傷んだ装備の説明をするための得物を、探している真っ最中である。
アザゼルの探索能力の高さはには定評があるが、居る居ない程度の大雑把さだ。
セッチの遠見の帽子と鑑定の眼鏡のコラボは、索敵範囲が狭くフィールドには向かない。
「やはり犬系か狼系、可能ならその上位種でしょうか?」
「町の近くと言えばそうよねぇ。まあ、はぐれの猫系や熊系も稀に出る事は出るけど」
ウォックの質問に、薬草採取の際に偶然出くわした想定のモンスターなどを上げる。
「群らしき反応を見つけた」
「群か・・、犬系の群でもこの際良いか」
「セッチさまぁ・・」
他人事のように言うセッチに、ズウェイトが困った声を出す。
群の場合はリーダーではなく、ボスの存在、上位種が指揮している事さえあり得る。
人海戦術も馬鹿に出来ない。今の二人なら下位種の群より、上位種一体の方が確実である。
「こっちも捕まえたわ。あらボスがいる・・、ランクEのホワイトウルフね」
気付かない振りをして、群にゆっくりと寄っては離れながら近づく。
「群の数は全部で12体、最下級のランクFのブラウンウルフ。ホワイトウルフは風属性持ちで、攻撃は無いけど風への抵抗を持っているわ」
ダンジョンの中でも。セッチが鑑定の眼鏡を使って、可能な限りの注意点や弱点などの情報を、二人へ事前にリークしていた。
「群ならば、雑魚は自分が倒そう」
「ダメよ、下位のモンスターだって必要になるんだから」
ウォックとズウェイトは、一瞬で攻撃態勢に移り、群への攻撃を開始する。
群れと言えどランクFであれば、ダンジョンで特訓した二人の敵では無かった。
「ガッ!」
しかし群を殲滅した2人の僅かな隙に、ホワイトウルフは切り込んでくる。
「チッ!?」
「クッ!」
2人も直ぐに体勢を立て直し、ホワイトウルフを迎撃する。
ウォックは、持ち前の身体能力を生かして、ホワイトウルフを一瞬引きつける。
「こっちを見なさい!」
その一瞬を使って、ズウェイトが水の精霊魔法を放つ。
「水の聖霊よ、アクアブレイド!」
特訓で今や下位精霊三体による刃によって、タイミングや体勢の狂いが生じる。
僅かな隙を逃すことなく、ウォックが渾身の一撃をお見舞いする。
「ハァッ!」
「このぉ!」
ウォックの隙を守るために、ズウェイトが短槍を使って攻撃。
新人装備を補うため、この連携を手を変え品を変え、ひたすら繰り返す。
こうやってダンジョンのモンスターたちを、一体一体葬ってきた。
最後に水の刃を短槍に纏わせた攻撃で、ホワイトウルフの喉を貫き止めとなる。
装備屋の主人に見せるアイテム(獲物)を、アザゼルのマジックバックに片づけさせる。
セッチは頑として自分のマジックポーチに入れるのを拒む。
「なんか汚れそうで・・、嫌!」
そんな事はないのに、何とも酷い言いようである。
「これで何とかなったわね」
「「はい」」
町に近づくと、簡単に今後の流れを話し合っておく。
「順番だけど、冒険者ギルドは最後ね」
「うむ、分かった」
理由は簡単、長くなりそうだったから。自分たちの関係のない事で・・
「おっちゃんの店か、戦闘職協会のどちらかと言えば、おっちゃんの店に行きたい所だけど・・」
「常時依頼に、ほぼウルフ系の討伐があります」
「素材はかなり傷んでいるので、引き取りは求められないと思います」
協会の方は、あまり時間がかからないと考えられる。
「可能ならランクアップして欲しいけど・・。どう思う?」
「分からない。最低限の条件はあるが、明確なルールでは無い様だ」
「そっか・・」
新人であるランクGが、格上のランクEのホワイトウルフを倒した場合、どの位ランクアップするか?
「ダメ元で行ってみましょうか」
「「分かりました」」
彼女達の帰る先を見つけるためには、各地を回るランクであった方が何かと便利である。
「ランクアップできれば、その流れで装備のアップも出来るわ」
「そうですね」
「はい」
町への帰りがてら、薬草をちゃっちゃと集めて協会の方へと向かう。
協会の職員は、目の前に出されたアイテムを疑いの目で見ていた。
「ホワイトウルフ・・ですか」
ウォックとズウェイトの2人が、常時依頼の達成と言って来た。
簡単な薬草採取の依頼だったので、この辺は特に問題は無い。
「しかも12体になる群を・・、お二人で?」
犬系や狼系の討伐依頼も、常にあるのでOKだが、数とボスが問題である。
何よりもアザゼルの存在・・
「一度の依頼達成でランクアップは、稀ですが数例あります」
この時協会の職員の脳裏にある言葉が浮かぶ。
養殖・・と言う悪習が存在する。
上位ランカーが付き添って、下位ランカーに依頼を達成させるのだ。
正直禁止したい所ではあるが、証拠を得るには人手が足りない。
アザゼルは、冒険者ギルドの人が嫌がる仕事を、一生懸命こなしている。
協会の依頼達成率は100パーセント、王都での最初の一件はノーカウントとされる程、職員たちの評価も上々。
真面目で、ちょっと不器用ではあるが、悪い事を自ら進んで行うとは思えない。
しかし隣の魔女スタイルの女性が、何かを吹き込むでいるのでは?と思わせる程に胡散臭い。
「薬草採取と合わせて、ランクFへは認めますが、ランクEには認められません」
「・・誤解しているみたいだけど、ランクアップを強要している訳じゃないわ」
「えっ!?」
養殖だと完全に信じ、魔女の姿をした女性を悪者と思い込んでいたので驚く。
「常時依頼の一つとして、報告に来ただけよ?」
ウォックとズウェイトの二人を指さして、協会の職員にはっきりと言う。
「この子たちはまだまだ。大切な家族を失わせるつもりはないもの」
奴隷では無い、大切な仲間である二人の成果であると告げる。
職員もランクアップについては、自分が言いだした事を思い出す。
「では、ランクFへの手続きを行います」
「「はい、お願いします」」
なんやかんやありながらも、二人は1ランクアップとなる。
協会の建物を出ると、アザゼルがセッチに問う。
「良かったのか?」
「ランクアップの事?」
「そうだ」
顎に指を当て、少し考える仕草をしてから答える。
「そうね。上手くいけば良いかなぁとは思ったのは確かよ」
「ならば・・」
「でも・・、この子たちの成長を町の人たちに沢山見て欲しくもあるのよ。、正直言えばね」
「ふむ。そう・・だな」
それ以上は何も言わないし、聞きもしない。
「じゃあ、装備屋のおっちゃんを驚かせに行きましょう」
アザゼルが納得したと解釈し、四人連れ立って装備屋へと向かう。
渋い顔は協会の職員に続けて、二人目の装備屋の主人である。
「お前らぁ・・、一体どんな使い方したんだぁ?」
「「ごめんなさい」」
ウォックとズウェイトの2人は、身を縮込ませて謝る。
「でもこの装備のお陰で・・」
「・・私たち、助かったんです」
セッチのプレゼンテーションによる、上目遣いによる訴えかけをする。
「ん? 助かった? どう言う意味だ?」
売ったのは新人向けの装備である。正直に言えばあまり助けにはならない。
「薬草の採取の依頼で・・」
「・・ちょっと傍にある森の奥まで入りました」
「まぁ、そう言う事もあるわなぁ」
良く見かける薬草とはいえ、自然の物だし、良質な物を求めれば場所を選ぶ。
「そうしたら、ウルフの群にばったり出くわして・・」
「もし装備が無かったら、売ってくれていなければ今頃・・」
2人は死んでいたという言葉を飲み込むが、装備屋の主人は理解する。
助かった・・
売ってくれなければ・・
装備のお陰・・
その言葉に衝撃を受ける。
奴隷は醜い・・、他種族は浅ましい・・
自分は今まで直接かかわった事が無く、人の話を鵜呑みにしてきた。
でも・・。
誰が好き好んで奴隷になる? しかも他種族が・・
こんな少女たちが、好き好んで戦争に参加するか? させるんじゃないか?
誰が? 勿論、大人や指導者たちだ。
自分と同じように、仲間の言葉が真実と思い込まされた被害者じゃないのか?
奴隷でも必死に生きようとする少女たちは醜いのか? 浅ましいのか?
何より自分の装備のお陰で助かったと言ってくれる二人を、自分は笑えるのか?
どごん!
衝動的に振り向くと、壁に頭突きをかます。
自分と言う人間の醜さ、浅ましさが恥ずかしい。
アザゼル達が、あまりの出来事から我に返って、止めるまで頭突きを続ける。
「あんた・・馬鹿じゃないの! 二人はドン引きよ?」
「・・すまん」
頭に包帯を巻かれながら、詫びる装備屋の主人。
「あまりにも自分が情けなくてなぁ・・」
しょんぼりと落ち込む彼を、ウォックとズウェイトが心配そうに覗きこむ。
「まあ、いいわ。この子たちランクアップしたから、装備の見直しをお願いしたいのよ」
「そうか・・、ランクFになったのか」
「「はい!」」
元気に答える2人の笑顔が、今の自分には眩しすぎる。
「ご主人」
アザゼルが声をかけてくる。
「ん? どうした? あんたの装備は不要だと思うが?」
「いや、念のために見て欲しい物がある」
「見て欲しい物?」
先ずはブラウンウルフ・・11体・
「おいおい、随分と狩ったもんだな・・」
その言葉を待っていましたとばかりに、ホワイトウルフを取り出す。
「何じゃこりゃ!? 一体全体・・」
「この2人が倒した」
「倒したって? 2人が襲われた群って・・、まさか?」
ちょっと待て待て待て待て。ランクGだぞ? あり得るか?
「マジか・・?」
リーダーに率いられる群じゃなく、ボスのいる群を?
良く生きて帰って来た・・
そこで二人の言葉がリフレインされる。
助かった・・
売ってくれなければ・・
装備のお陰・・
「ぐおぉぉおぉぉぉ!!」
再び壁に激突しに向かうのを、四人ががりで止められる。
話が進まないとセッチに命じられて、二人が装備屋の主人の腕を抑え込む。
「はっきり言って、この装備でホワイトウルフの率いる群と戦って、生き延びただけでもランクEの資格はあるだろう」
ウォックとズウェイトに両腕を取られて、若干嬉しそうに話す。
「でもねぇ、ランクCに届きそうなランクDが居ると、養殖と思われたみたいなのよ」
今まで会話に殆ど参加せず、空気のような存在の空気を読めない男を指差す。
「それでランクF止まりか・・、こればっかりは仕方ねぇぞ?」
ランク付けをするのは、あくまでも協会による公平公正の第三者だ。
「分かっているわ。でもランクEの実力はあると思うから、その装備をお願いしたいの」
「なる程・・」
2人が狩ってきたウルフたちの状態を改めて見てみる。
ブラウンウルフの方は、見事の一言に尽きる倒し方だ。
急所を正確に捉え、素材の痛みも最小限に抑えるている。
「うーむ。このホワイトウルフは傷みが多すぎるから使えんなぁ」
「「ごめんなさい」」
「謝る事はねぇ。ってか、謝るんじゃねぇ。命がけの戦いだったんだろう? 手加減している余裕がねえのは当たり前だ」
傷口から、何度も何度も、少しずつ少しずつ、ダメージを与えているのが見て取れる。
「綺麗に倒せてたとしても、量が圧倒的に足りねぇしな。どうしたもんかぁ・・」
こいつらには良い装備を揃えてやりたいが、金がどうしてもかかる。
借金をさせて、無理させて、命を失わせては本末転倒だ。
「ご主人、これで何とかならないか?」
「ん? ・・何じゃこりゃあ!?」
取り出されたランクE相当のアイテムに驚く。
「そう言えばさっき、ランクCに届く、ランクDって言ってたな?」
「ダンジョンでドロップしたものだ」
「これで作れってか? でも何故最初に渡さなかった?」
「この二人にはまだ早いと思っていた」
ダンジョンは自力脱出が原則だ、少しずつ貯めてきたアイテムだろう。
仲間とは言え、実力が未知数の者に渡す気にならなくては当然だ。
自分と同じ・・、いや仲間の身を案じて・・、自分の方が・・
咄嗟に頭突きをと思ったが、頬を膨らませて怒る二人を振り払うまでは出来なかった。
「頼めないか?」
「ふん、任せておけ! 最速で仕上げてやるわい」
ウォックとズウェイトの採寸をすると、工賃だけで請け負ってくれる。
「とは言っても、どうしても時間がかかるぞ?」
「そんなにかかるもんなの?」
「既製品しか知らんのだろうが、最低でも一週間はかかる」
「えっ!? そんなにかかるんだ・・」
既に加工済みであれば、多少の手直しだけなので一日二日で可能だろう。
素材を一からともなれば、それ相応の時間がかかる物なのだ。
「一週間後、声をかけてくれ。出来ていれば良し。出来てなくても、少なくとも何時までに仕上がるかは分かるだろう」
「分かりました」
「よろしくお願いします」
ウォックとズウェイトは、深く頭を下げる。
そんな二人を見て店の主人は鼻息荒く、これからの大仕事に胸躍らせていた。




