装備を試す
【奴隷編 装備を試す】
ダンジョンの1階の壁の中にある宝箱から出た、アイテムの全ての鑑定が終えて。
「「アザゼル様」」
「ん? どうした、ウォック殿、ズウェイト殿?」
「一つお願いがあります」
「へぇー、2人からお願いなんて珍しいわね、どんな事かしら?」
基本は奴隷の方から願ったり、伺いを立てる事は無く、命じられるだけである。
アザゼルは元より、セッチもそんな関係は望んていないので良い傾向と感じている。
「新しい装備の性能を調べてみたいのですが?」
「可能であれば、戦闘職協会の依頼を受けたいと思います」
「ふむ、尤もな事だ」
「そりゃそうだわね、協会との関係を深めていく上でも大切な事よ」
二人のお願いは一石二鳥であり、すぐに取り掛かる事にする。
「ダンジョンに行ったまま、ギルドに報告していない。ギルドの依頼があったらどうする?」
「予定より早く帰ってきたから、まだ時間的に余裕があるでしょ?」
「なる程、その時間を割り当てると」
まだ日も高い。協会へと向かい、常時依頼を幾つか確認して行ってみる。
セッチは遠見の帽子の性能試験を兼ねて、斥候の役目を買って出る。
アザゼルの索敵能力でフォローするので、四人は安全この上ない。
「アザゼル様、申し訳ありません」
突然、ズウェイトが詫びてくる。
「ん? どうした?」
「折角、素晴らしい性能の装備をいただいたのに、使いこなせないかもしれません」
「どう言う事だ?」
「エルフ族という種は、風と水との親和性があるそうです。特に風との相性が良いため、殆ど風の魔法しか使わないらしいのです」
いつの間にかマジックポーチから、メモを取り出していたセッチが声をかけてくる。
「水の魔法があんまりよろしくないかも、っと?」
「はい」
セッチの言葉に、頷くしか出来ない。
折角与えられている装備は、水属性のモンスターのもので、水系の魔法の向上に役立つ可能性があった。
「自分も知らない事は山の様にあった。これから学べば良い」
出来ない事を責めるのではなく、これから学べと言うアザゼル。
不思議な物を見る様に、女性三人は彼を見つめる。
常時依頼の討伐対象のモンスターの居るであろう場所に到着する。
「じゃあ、ちゃっちゃと殺ってみましょう」
「「セッチ様、なんか言い方が怖いです」」
自分のフィールドワークである民俗学について、知識を深める機会に興奮しているようだ。
「丁度良い所に、獲物が居るわよ」
セッチが指差す先に、頭突き兎のモンスター、ブロウラビットがいた。
「先ず私からでよろしいでしょうか?」
少し緊張しているズウェイトを気遣って、ウォックが先手を申し出る。
「どうぞ」
セッチの言葉に、自分の装備を確認する。
両利きの小手、加速と跳躍向上のブーツ、九つの抵抗力向上の胸当て、剣速と斬撃向上の双剣・・、改めて見てもブッ飛びの性能である。
更に獣人族という基本身体能力の高さも相まって、どれほどの効果を表すのか。
慎重にブロウラビットとの距離を詰め、自分の間合い、相手の跳躍力を測る。
ギリギリの一点で、全力で駆け出し、跳躍、切りつける。
「えっ!? 消えた?」
一瞬でブロウラビットが視界から消え失せる。
「(くっ!? 鈍っているの?)」
ブロウラビットなど、ランクFの中でも最下位に位置するモンスターである。
「ウォック姉さん、後ろ、後ろ!」
ズウェイトの声に、いつの間にか後ろに回り込まれていた事を知る。
ブロウラビットに後ろを取られるなど、鈍っているでは済まない、恥でさえある。
「えっ? えぇえぇっ!?」
慌てて振り返ると、先程のブロウラビットとの間合いの二倍は離れている。
ブロウラビットも、自分の事を見失っているのかキョロキョロしていた。
「ウォックちゃん、跳び過ぎ、跳び過ぎ!」
戸惑っていると、セッチも大声で叫んでいる。
・・跳び、過ぎ?
「もしかして、此処まで跳んだと言うの?」
二人の言葉からすれば、その通りなのだろう。
元々の身体能力に加え、ブーツの加速、跳躍力向上の組み合わせが、自分の視力や反射速度を遥かに上回ってしまったらしい。
皆の所へ戻りながら、ブロウラビットに反応を許す事無く首を一閃する。
「アザゼル様、少し練習させて下さい」
皆が凄い凄いと褒める中、ウォックは特訓を願い出る。
「む? 何故だ? かなり能力の向上になっていたと思うが?」
「正直に申しまして、装備の能力に動体視力も反射神経もついて行きません」
「どう言う事か?」
「最初はブロウラビットを、通り過ぎた事さえ気が付きませんでした」
「ふむ分かる。自分の力を制御すと言うのは難しい」
自分も魔族スミナユテとの特訓で、事情に苦労した事を思い出す。
「その通りです。しばらく自己鍛錬に専念します」
「好きにすると良い」
「ありがとうございます」
しかしウォックが、ブロウラビットの首を投げたり、転がしたり、杭の上に置いたりと、やっている絵面は、非常にシュールなものであった。
ウォックが特訓を開始すると、ズウェイトが開始を告げる。
「今度は私がやってみます」
「どうぞどうぞ」
セッチ自身戦闘は遠慮したいし、折角の他種族との交流?を放り出すつもりも無かった。
ズウェイトの装備は、シーサーペントの素材がベースであり水属性を向上させる。
しかも、鎧、小手、ブーツと相乗効果で、より向上率がアップしている。
「どっちからやって見る?」
「先ずは短弓から試します」
メインウェポンとなる短弓は、シーサーペントの牙による合成弓である。
弓自体全く使っていなかったので、何はともあれ使ってみる事に。
「了解」
セッチが、ひょっこり顔を出したブロウラビットを指差す。
弦を引き放つだけで水の矢が出ると言われても、どの程度の強さでなど未知数。
試しに弦の張り具合を見るために、何の気なしに弦を弾く。
ボッ!
バシュッ!
突如放たれた水の矢が、ブロウラビットを爆砕する。
「「・・・・」」
「素晴らしい威力だ」
アザゼルが空気を読まず、褒めたたえていた。
「いやいやいやいや、オーバーキルだから、素材も何も無くなっちゃてるから・・」
「ちょっと弦を弾いただけなのに・・」
ブロウラビットが居たであろう所を見て、二人は唖然とする。
「威力の調整できるのでしょうか?」
「うーん、短弓自体にある元からの威力に、装備の相乗効果もあるかも・・、無理かな」
「ですよねー・・」
二人が短弓の威力に不満があるようなので、別の提案をアザゼルがする。
「ならば、水の魔法を試してみたらどうだ?」
「そうね・・、そっちが健全かも」
「少なくとも、何も訓練してきませんでしたし・・」
ヤバい方から一旦、目を逸らす事に同意する。
エルフ族の使う魔法は、人間たちが使う魔法と若干異なる。
人間の魔法は、魔力を直接事象に変換する。
エルフの魔法は、魔力を精霊と呼ばれる存在に提供する事で、その精霊の力を借りる。
人間の魔法にはランクがあるのだが、エルフの魔法にも、下級、中級、上級、最上級精霊、精霊王といったランクが存在する。
「なる程、そうなっているのね」
「私も聞きかじりですから・・」
嬉々としてセッチが、ズウェイトからの生きた情報のメモを取る。
セッチは自宅での話し合いの後、研究の資料すべてをマジックポーチに移していた。
「それで?」
鼻血を垂れ流し、狂気をはらんだセッチの笑顔に、かなり引きながら話を続ける
「エルフは風と水が得意です。特に風は普通に生活する内に、中級精霊まで使える様になりました。流石に最上級ともなれば、エルフの時間でも、結構な期間を要すると思いますが」
「ほほぉー、水は?」
「先程、親和性と言う話がありましたが、風との相性の方が良いため、下級ないしは中級で止めてしまうエルフたちが多いようです」
「長寿なんだから、やればいいのにねぇ」
学者としての自分の意見だが、才能があるなら伸ばせば良いのにと感じてしまう。
「あっ、語弊があります。止めると言うよりは、やらなくなる感じです」
「どっちもそんなに変わんないわ」
ズウェイトの取り成しの言葉も、ガッカリした表情で肩を竦める。
「じゃあ、風の一番弱い奴と、水の一番強い奴が良い勝負ぐらいかしらねぇ?」
「そうですね。そんな感じだと思います。ただ私は初級精霊までしか呼べませんが・・」
「そっかぁ・・。まあ一発、風の魔法から言って貰える?」
「はい、分かりました」
おあつらえ向きのブロウラビットを見つけ、あれあれ、とズウェイトに指差し教える。
「風の精霊よ、ウィンドカッター」
そう詠唱すると、透明な人の形をした何かが現れる。
すぐに不可視の刃となるや、ブロウラビットの首を刎ねてしまう。
「おぉぉ! 最弱であの威力ね・・。人間の魔法と見比べてぇー」
おっさん臭く叫び興奮する。
「次、次! 水、水! 兎、兎!」
もう会話になっておらず、単語を連発するだけである。
「・・・は、はい」
ボディーランゲージを加え獲物を教えるセッチに、完全に逃げ腰で返事をする。
「み、水の聖霊よ、ウォーターカッター・・えっ!?」
出来るだけ魔力を込めて初級精霊に呼びかけた様だが、やはり不慣れで失敗して驚いたのか?
大小の青っぽい人の形をした何かが複数現れ、途轍もない威力、数多の青い刃に身を変える。
ちゅん・・どどどどどどーん!
「・・えっ!?」
セッチもあまりの事態に驚きの声を上げる。
轟音と共にモンスターを、周囲ごと破壊しつくす。
「あーあ、草原が荒れ地に。最弱でこの威力・・、怖いわね」
「ち、違います! 何でこんな事になったのか・・」
セッチの冗談も冗談とは取れない程、混乱するズウェイト。
「どうしてこんな事になったのかしらねぇ」
「私は水の魔法を訓練していませんでしたので、下級精霊が一体ぐらいと思いました」
「確か複数体いたわね?」
「はい。各級の壁と言うのは大きくて、いきなり上のランクを呼び出せるのではなく、同級の精霊が一体二体と増えていきます」
「ふむふむ。訓練していないのに複数現れたから驚いたのね」
それはそうだろう。予想を越える能力が発現すれば。
「違います!」
「違う? どう違うの?」
「下級だけじゃなくて、中級も交じっていました。しかも複数・・」
「何で?」
「私が聞きたいぐらいです!」
先程の短弓の比では無い程のオーバーキルであった。
「原因究明までは、魔法も使用禁止するしかないわね」
「当然だと思います」
「じゃあ、ズウェイトちゃ・・ん?」
ふとセッチが何かに気付いた様に、ズウェイトの身体を舐める様に見る。
「複数体って、何体現れたか覚えている?」
「えーっと、1、2、・・6体か7体位だったかと」
その答えにセッチがズウェイトの身体、正確には装備を数えながら指さす。
「鎧と短弓で中級が2体、小手、ブーツが下級を4体の計6体?」
「まさか!? も、もしかして・・」
「シーサーペント自体が上級精霊と同調しているんじゃないかなーって」
「つ、つまり・・、シーサーペントの一部を使っているので、装備には下級や中級精霊クラスが宿っている可能性があると・・?」
「そう考えると辻褄が合うのよね」
「あり得るかもしれません・・ね」
ズウェイトは呆然と装備を見降ろし、セッチはそんな彼女を呆然と見守る。
彼女たちは突然の事だったので、正確な数が分からなかったが本当は7体であった。
7体目は、ズウェイト自身の元からの能力が装備の効果によりアップの中級精霊である。
「こっちも特訓が必要かしらね」
「そう、思います」
アザゼルただ一人が、ズウェイトの能力の凄さを褒めていた。
特訓しましょうと言えば、大切な事だと頷く、何となくいい加減な男に見える。
「威力が強すぎるのであれば、強い敵と戦ったらどうか?」
更には当然の如く正しい提案すらしてくる事に、セッチはムカついていた。
「丁度良い敵を知っていると言うの!?」
ふん、そう簡単に見つかるもんですか、とセッチの顔に書いてあった。
「うん? 知っているが?」
「えっ!? 心当たりがあるの?」
「装備が出てきた所なら、手頃なのがゴロゴロ居るのではないか?」
「・・ダンジョンか。なる程、試すのには丁度いいわね」
幾らでも湧いて来るモンスター、オーバーキルでもドロップするアイテム、最適だろう。
尤もな答えに納得するが、アザゼルが提案したと言う事に納得できない。
間抜けで大馬鹿なアザゼルに、学者である自分が負けるのが許せない・・のか?
「じゃあ、装備に慣れるつもりでダンジョンに行きましょう」
急きょ予定を変更して、ダンジョンへ向かう準備をするために町へ戻る。
女性陣の三人は買い物へ、アザゼルはギルドへ報告に向かう。
「装備に慣れるためにダンジョンへ?」
草原での出来事を掻い摘んで話すと、ウハーも納得する。
制御できない強い力と言うのは、自分を不幸にする物でしかない。
「なる程、それは早めに済ませた方が良いでしょうね。いつお戻りですか?」
「西の町に一番近いダンジョンに、三日程のつもりだ」
「ならば八日程のスケジュールですね。お気をつけて」
簡単にスケジュールを伝え、買い物中の三人と合流する。
ダンジョンへと逸る気持ちはあるのだが、その日はそのまま自宅でゆっくりと。




