依頼を受ける
【奴隷編 依頼を受ける】
町に戻ってくると、アザゼルはそのまま冒険者ギルドへと向かう。
セッチ、ウォック、ズウェイトの三人は、入浴後、マッタリタイムへ。
その内に、仕事人のウハーとアザゼルが一緒に帰宅する。
「信じられませんね、実際に違う装備が、1階の壁の中の宝箱からなんて・・」
みんな揃って、今回の旅のあらましを語り合っていた時の事である。
「私も目を疑ったわよ。でもアザゼルさんだけが知り得た秘密だから・・」
「分かっています。第三者に漏らす様な事はしません」
自分に必要なアイテムが出る宝箱など、知れれば大騒ぎになる。しかも1階である。
一個人のアドバンテージを、ギルドの一員が失わさせる訳にはいかない。
「では、一週間後に?」
「いいえ、他のダンジョンも同じなのか試したいって。私も賛成したから別のダンジョンに行く予定よ」
「確かにやって見たいですね。・・・じゃあ何で戻ってきたんですか?」
ボスの復活を待つだけなら戻ってくると言うのもありだ。
しかし別のダンジョンに行くなら、そこから向かった方が近いダンジョンもある。
「お風呂に入りたいから」
「・・・ ・・・ ・・・」
「ちょ、ちょっと。冗談よ冗談・・」
ちょっとした軽い冗談だったのだが、ウハーの見下すような視線に慌てる。
「アザゼルさんが、忘れ物したって」
「忘れ物・・? 珍しいですね」
「そうなのよ。ギルドの依頼を受け忘れたって、大急ぎで戻ってきたのよ。ねぇー」
「「はーい」」
「・・・ ・・・ ・・・」
ニヤニヤと笑うセッチ、ウォック、ズウィットに、ウハー冷たい視線を送りつける。
冒険者ギルドは常に人手不足で、職員自ら依頼をこなす事を諦め受け入れる。
依頼の内容と依頼料にあまりの差が有り、ギルドメンバーが協会の方へ流れてしまうから。
ソロでダンジョンをクリアできるアザゼルが、ギルドの雑用の依頼を受ける必要はない。
にも拘らず馬鹿正直に成すべき事があると、町に戻って来たのである。
そんなやり取りの中、アザゼルは明日のスケジュールを伝える。
「ギルドではやはり依頼があったので、明日は町の仕事をする」
「「私たちはどうしたら良いのでしょうか?」」
ウォックとズウェイトが尋ねてくる。
「どうしたらって?」
「料理など家の事を学んだ方が良いのでしょうか?」
「それともアザゼル様と一緒に、依頼に向かったら良いのでしょうか?」
「そうねぇ・・」
奴隷ギルドに依頼は無い。主人に付き従う事が唯一無二の仕事である。
「私は仕事がありますので、料理を教える事が難しいですね」
幾ら料理をできるようになって欲しいと言っても、基本を教える必要がある。
「じゃあ私は、今までの事のまとめとか、引っ越しでぐちゃぐちゃの荷物の整理するわ」
「では、アザゼル様と行動を共にすると言う事ですね」
「そうなるわね」
「うむ。では一緒に」
「「分かりました」」
ウハーは、ここで手痛いミスをしていた事に思い至らなかった。
もし2人がアザゼルと一緒と、事前に知っていたら別の依頼を出しただろう。
もしくは細心の注意を払ったに違いない。
ギルドの依頼をこなすため、仕事の現場へ向かう途中で2人は尋ねる。
「アザゼル様、何故ギルドの依頼をお受けになっているのですか?」
「・・何故? どういう意味か?」
「えっ!? 失礼ですが収入上、ギルドの依頼を受ける必要は全くないかと・・」
「二人は別のギルドに所属しているので、知らなくても当然だな。冒険者ギルドの規則上、夕方にギルドの依頼が無いか確認する事になっている」
あまりの返答に、ウォックとズウェイトは呆然とする。
更にウォックとズウェイトは、アザゼルの受けた依頼の内容に驚く。
「アザゼル様・・、何故ドブさらいの仕事をお受けになったのですか?」
「冒険者ギルドでは、このような仕事を斡旋してくれる」
その一言に再び2人は唖然とする。
「ならば、私たちのお命じして下されば・・」
「この様な汚れ仕事は、私たちの仕事・・」
主人がやるべき仕事ではなく、奴隷にさせる仕事の一つだろう。
「何故か? 私の仕事だが? そもそも、仕事に綺麗汚いがあるのか?」
「「えっ!?」」
「仕事があるから、冒険者ギルドは人に必要とされる」
喜ぶとか幸せそうとかはなく、自分に与えられた仕事を、ただ懸命にこなすだけ。
二人はしばらく見守っていると、どちらからともなく頷く。
「アザゼル様」
「ん? 何かあったのか?」
アザゼルは手を休める事無く、2人の質問に答える。
「一人より二人、二人より三人、皆でやれば早く済みます。早く済めば皆も喜びます」
「尤もだ」
「私たちもお手伝いしてもよろしいですか?」
「それは助かる」
主人自ら汚れ仕事の依頼をこなし、奴隷に感謝する。
その姿に自分たちの、奴隷では有っても、仕事に対する考えの浅はかさを感じる。
ウハーは今日も今日とて、依頼の割り振りなどギルドで事務手続きに追われていた。
「ア、アザゼル様! 身を清めるには服や装備を・・」
「な、何故、装備ごと水を浴びるのですか!?」
「(っ!? しまった!)
聞きなれた少女たちの声が耳に入った瞬間、自分の失策を呪い裏口へ飛び出す。
「(遅かった!)」
ウォックが右の小手、ズウェイトが左の小手を外したまま固まっている。
アザゼルの両腕に、びっしりと刻まれている文字を見つめたまま。
「ウォックちゃん、ズウェイトちゃん。あなた達は自宅戻ってお風呂に入りなさい」
「「ウハー様・・」」
自分たちが何か、とんでもない事をしたのではないかと言う顔をして自分を見てくる。
「さあさあ。女の子が何時までもそんな恰好をしている者じゃありません」
「「はい・・」」
アザゼルから鍵を奪い取り、3人で急いで自宅へと戻る。
ウハーのみがすぐに戻って来て、アザゼルの手伝いをする。
「すみません。配慮が足りませんでした」
何時ものように、装備を外して汚れを洗い流し乾かしながら謝る。
「何も悪い事はされていないと思うが?」
「いいえ、自分が出来る事を果たさなかったので」
「良く分からないが?」
「分からなければ、良いです」
「そうか」
二人は黙って、何時ものように後片付けをして行く。
半べそで駆け込んできたウォックとズウェイトに驚いたセッチは、二人を風呂へと誘う。
「それで、何があったの?」
「アザゼル様の・・」
「私たち知らなくて・・」
彼女たちが、アザゼルの小手の下から現れた、文字の様な物を見た事を告げる。
「うーん、それだけじゃ何とも言えないけど・・」
「見てはいけない物を見てしまったんじゃあ・・」
「知られたくない事を暴いたんじゃあ・・」
「見ちゃったら仕方ないから、後で聞いてみましょう」
「「・・・」」
落ち込んでいる2人には悪いが、大体の予想はついていた。
魔除けや勇気の印として、体に入れ墨を入れる風習を持つ部族はある。
魔法を直接体に彫り込んでいる戦闘職が居る事を聞いた事がある。
共通しているのは、誇りに思っているので隠す必要が無いと言う事である。
隠す場合の大半の理由・・、概ね呪いと感じていると思って間違いない。
「(獣人族や、エルフ族に痣を呪いと思う風習があるかどうかが問題ね・・)」
ちょっと修正が必要になるかもと、今後の事を考えておく。
お風呂で落ち着いたのか、今日の依頼の事でポツリポツリと2人が聞いて来る。
「アザゼル様は、ドブさらいを一生懸命やっていました・・」
「ギルドの仕事なんかする必要ない程、お金持ちなのに・・」
「本来であれば仕事に貴賎は存在しないわ」
2人がアザゼルから受けた衝撃、自分に与えられた約束を忠実に果たすと言う事。
「当たり前のことなんだけど、体現できる人はごく少数でしょうね」
「奴隷に誇りを持った事はありません」
「仕方ないわ。無理やりなら尚更でしょ?」
自らの意思で奴隷に落ちたとして、自分なら奴隷に誇りを持てるだろうか?
「多分、アザゼルさんなら持てそうよね。その先にあるのが、虐げであろうが、理不尽な暴力、例え死であっても・・」
「そう・・、思いますか?」
「彼は揺るがない。しっかりとした自分を持っているのよ。・・きっと」
これから先も彼女たちは、使命に忠実で、懸命に取り組む姿のアザゼルを見守り続ける事になる。
アザゼルはウハーの手伝いも得て、身嗜みを整え受付へと顔を出す。
「お疲れさまでした。こちらが今回の報酬です」
「うむ」
「明日の依頼ですが、ウォックちゃんとズウェイトちゃんも一緒ですか?」
「セッチ殿との話し合いもあるが、概ねそうなるだろう」
「そうですか・・」
となると、今日の失敗もあるし、あの2人に合わせた依頼が良いだろうと配慮する。
ふと手を止めて考える。依頼人たちは2人を見てどう感じるだろうか?
「アザゼルさん。明日の依頼をお渡しします。ただし二人を連れて行くかどうかは、皆と話し合ってからにして下さい」
「何かあるのだな?」
今回のウハーだからこそ、気付けた何かがあるのだろう。
「場合によっては、アザゼルさんの一人で依頼を行って下さい」
「うむ、分かった」
依頼を受け取ると、自宅へと戻って行く。
アザゼルが帰宅する前に、ウォックとズウェイトを部屋に戻らせておく。
「アザゼルさん。ちょっと話があるんだけど?」
「ちょうど良い、こちらもある。ウハー殿が揃って全員で話したい」
嫌な事であっても、きちんと話し合うべきである。
しかし嫌な話を何度もさせると言うのは、酷な話だ。
「分かったわ、その時にね」
四人はウハーの帰りを待って話し合う事にする。
お風呂に入って、今日一日の疲れを取ったウハーから開会の一言。
「さて、お待たせしました」
「大体の予想は付いているでしょう?」
「ええ、セッチさんたちが話したい事は大体。アザゼルさんと私が話したい事は、冒険者ギルドの依頼の事です」
「ふーん? 何かある訳ね」
ウハーは第三者と言う立場でもあり、皆の調停役に収まりつつある。
「申し訳ありませんが、そちらの方はプライベートの部分になると思います。依頼の方から話したいと思いますが、よろしいですか?」
「・・そうね、そうしましょう」
「とは言え、自分が受けた依頼を見る限り問題が無いと思うのだが」
自分の依頼を果たす上での事らしく、ウハーが気付いた事である。
「これからウォックちゃんとズウェイトちゃんが、依頼を果たす上での話となります」
「ふむふむ」
「彼女たちが受けた依頼の、依頼主たちの態度についてです」
「少しずつだけど、前々からこの話は出ていたものね・・」
完全登録なので依頼は受けられるだろうし、奴隷を持つ戦闘職だっている。
依頼を受けるまでは、特に問題は無いだろう。
しかし依頼者はどうか・・。奴隷を・・、他種族を・・。
「今回はドブさらいで、人の目にも付きませんでした」
「そうね」
「今日渡そうとした依頼は2つ、飲食店の皿洗いと、病院の洗濯手伝いです」
セッチは依頼を聞いて、ウハーが悩んだ理由を理解する。
「私たちが食べたお店の従業員の対応・・からね」
「依頼そのものを断られたり、理不尽な言動を受けたりする可能性があります」
「その辺は織り込み済みだったけど、二人にしっかりと決めてもらう必要があるわね」
協会の仕事などで、町の外の仕事を選ぶ限り、この様な目に合う事は少ない。
冒険者ギルドは、日々の雑用が多くこの手の仕事が多くなるのだ。
当然、アザゼルと別行動すれば良いだけの話である。
「どうする? ウォックちゃんとズウェイトちゃん」
受ける事のデメリットが大きいが、彼女たちの町での立場を知る上で必要ではある。
「「是非、ご一緒させてください」」
二人はアザゼルを見ると、自分たちも逃げずに出来る事を果たすべきと考えた。
「分かったわ」
彼女たちの決意を尊重する。
自分たちは彼女たちのフォローとケアを行えば良い。
ウォックとズウェイトが暴いてしまった事は、非常にデリケートである。
「さぁて・・と」
「どうしましょうか・・」
ウハーは難しい顔をしていたが、セッチが学者として現状を伝える事にする。
「人間と言う種族は心が弱い。自分たちの結束を強めるため自分たち中から敵を作るの」
「「・・・どう言う事でしょう?」」
2人はセッチの言わんとする事が分からない。
「自分たちを傷つけようとする敵に、一致団結するわ。じゃあ外に敵がいなければ?」
「内側・・って、わざわざ仲間の中に敵を作るのですか?」
「そう。自分たちとの違いを、神の呪いとする風習で、迫害の対象にするの」
「そんな・・、酷い・・」
同じ種族なのに、自分や他の人と違うだけで
「人間には、この世界の古き伝承に、最初の殺人を犯した者が、神の怒りに触れて全身に痣を付けられたと言う物があるのよ」
「・・えっ!?」
「だから迫害するのは、神の意に従っていると正当化する」
「あんまり・・です」
神の怒りをかった者だから、迫害して当然と考え、一致して心の安定を得る人々。
「あなた達の種族に、そんな風習はある?」
「多分・・、無かったと思います」
「聞いた事は・・ありません」
幼い頃に連れ去られた二人には、風習があっても学ぶ時間が無かったかもしれない。
「あなた達に、そんな嫌悪感を持つ気持ちは無いのね?」
「はい、ありません」
まず2人が持っているかどうかの溝や壁はクリアされ、ウハーとセッチは一安心である。
後はアザゼル自身が話すかどうか・・。こればかりは強制できる物では無い。
アザゼルは自分が原因である事を理解しており、自ら率先して話し始める。
「君たちが気にしている事を、隠していた事は謝る」
謝る? 隠し事の一つや二つ誰しもある、謝る事では無い。
謝罪の後、小手、ブーツ、上着、マスクを外す。
腕、足、額 胸、背中から、異国の文字と言われても納得できる痣が現れる。
「自分はただ一人、この状態で森の中で横たわっていた」
「・・・」
誰も口を挟まない、アザゼルの独白である。
村へ行けば、石を投げつけられ追い返された事。
小屋を見つけて、ボロ切れ一枚を求めた事。
そこで一人の人物に出会い、自分の道を示された事。
「そして紆余曲折あって、今に至っている」
ウォックが問う。
「村人を憎んだり、恨んだりしなかったのですか?」
「何故? 迫害される理由が分からないのに、憎んでも、恨んでも仕方あるまい?」
ズウェイトが問う。
「では、理由を知ってからはどうなんですか?」
「理由からすれば、彼らをどうこうする理由にはならないと思うが?」
正論かもしれない。しかし、誰ひとりこの事を受け入れられる者が居るだろうか?
馬鹿である。大馬鹿である。
ウォックとズウェイトは、愛すべき大馬鹿の着替えを手伝う。
セッチが最後にと聞く。
「貴方が装備で、痣を隠しているのは何故?」
「・・・分からない」
「分からないって、どう言う意味かしら?」
「痣によって不快を思わせるなら、その場を去れば良いと思っていた。痣によって不快を感じさせるなら、隠せば良いと思っていた」
「相手のためを思って・・と?」
何時もアザゼルは自分の事より、周りの事を優先させようとする。
「そう・・、思っていた」
「違うの?」
「もしかしたら、仲間に入れて欲しくて、自分の都合で、騙して、隠して・・」
四人の手が、優しく彼の口を塞ぐ。
「さあ、明日もそれぞれのやるべき事があるのでしょう」
「そうね、夜更かしは悪い子のする事よ」
ウハーとセッチが、今日の話し合いは終わりを告げる。
ウォックとズウェイトが、笑顔で頷く。
明日の活力を得るために、色々な思いを抱えて、今日の所は床に就く。




