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異形の冒険者  作者: まる
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奴隷と暮らす

【奴隷編 奴隷と暮らす】


元主人の暴挙以外、四人の旅は特に問題も起こらず、無事に西の町に到着する。


「貴方が登録しているのは、冒険者ギルドかしら?」

「そうだが、それが何か?」

「先ずは冒険者ギルドへ向かいましょう」

「うむ、こっちだ」


アザゼルが先頭に立って、ギルドへの道案内をする。


三人を引き連れギルドの扉をくぐり、ウハーが四人を見る。


「おかえりな・・さい、アザゼルさん?」


急にうすら笑いを浮かべ、殺意を纏っている。

別室のギルドマスターでさえ、慌てて飛び出してくる程の・・


「アザゼルさん、本日はどのようなご用件でしょうか?」


何時もより数段丁寧で優しい対応なのだが、アザゼルは全く気にしていない。


「分からない」

「・・分からない? つまり死にたいと言う事ですね?」

「何故、死にたいと言う事に繋がるのか?」


傍で聞いていたセッチが、これは不味いと割って入る。


「ちょっと相談があるのよ」

「死体の処理ならご安心ください」

「その話から離れてくれる? 怖いから」

「では、どの様なお話でしょうか?」


王都であった経緯を話して聞かせると、雰囲気が数段・・、いや別人に変わった。


「つまり、ウォックさんとズウェイトさんを奴隷から解放する手段を探していると?」

「その通り。ついでに私の研究のお助けも願いたいの。だけど現状不可能な訳よ」

「事情は分かりました。それでご相談とは?」


アザゼルが奴隷を手に入れた経緯は分かった。ではこの学者は何を望んているのか?


「アザゼルさんと、専属契約を結びたいのよ」

「専属? ご本人の承諾は?」

「全く何にも説明していないわ」

「なる程・・」


ランクアップをしながら、奴隷解放の方法を探し、セッチの民族研究もこなす。

確かに専属契約をする事がベストのように思える。


「アザゼルさん。セッチさんが貴方と専属契約を結びたいと仰っていますが?」

「専属契約とは確か・・長期依頼をこなす?」

「その通りです。雇い主の依頼を最優先でこなす契約で、その代り雇い主が、衣食住を保証します。

アザゼルさんの仰るとおり、主に長期に及ぶ依頼の場合に結ばれる事が多いです」

「なる程、こう言う事だったのか」


セッチが拠点の町へ戻る事を急いだのは、専属契約を結ぶためだったのだ。

この契約によって、2人を奴隷から解放する事に専念できる。


「分かった。その契約を結ぼう」

「では手続きを行います。・・必ず二人を解放して下さいね」

「勿論だ」


ウハーと約束を交わすと、アザゼルを押しのけてセッチが擦り寄ってくる。


「話は変わるんだけど・・、私たちどうしたらいいと思う?」

「・・仰っている意味が分かりませんが?」


流石にこの話の流れでは、主語が無ければ分からない。


「生活の拠点は、この町で良いわ。宿屋にしろ借家にしろ、二人を出来るだけトラブルに巻き込まないようにしたいのよ」

「予想は容易に付きます」

「家を買うにしても、何かと不在が多いとねぇ・・」

「何故その様な事を? 私に相談されても何ともお答えしかねますが」

「貴女って、借家? それとも実家?」


彼女はウハーの過去を知らないのだから、この質問も仕方あるまい。


「借家ですが。それが何か?」

「・・家、欲しくない?」


家を持ちたいと誰もが思う。しかしギルドの安月給では、夢のまた夢である。


「何を言っているのですか? そんなお金・・」


続きを口にしようとするウハーの口を塞いで、セッチは黙ってアザゼルを指差す。


「・・正気ですか?」


昔、彼の資産をのぞき見した事があるが、彼なら余裕で家の一軒や二軒買えるだろう。

彼女は知ってか知らずか、アザゼルに買わせて、自分に管理人をさせようと言うのだ。


「長旅の先に、心安らげる家があるかどうかってかなり違うのよ」

「そうは思います。が、私でなくても・・」

「女のカンってところかしらね」


無性に訳知り顔のセッチに怒りが湧いてくるが、奴隷の件で誤解を招いたのだろう。


「まあ、良いわ。家の件は」


悪魔セッチは、次の手段に訴えるため更に擦り寄ってくる。


「じゃあ、住む住まないは別にして、貴女好みの家を教えてもらえるかしら? 思い描いた事・・あるでしょ?」

「そ、それは・・、無い事は無いですが・・」


憧れのマイホーム。自分ならと思う外観に、間取りと言う物がある。

自分ならどんな家に住みたいか・・、誰だって一度や二度考える。


「私は家の事は考えた事は無いし、多分彼もね。一生物の買い物に、アドバイスが欲しいんだけど?」


実に耳に心地よい言葉を紡ぎだす。


「・・・」


ウハーは視線を巡らせる。


「もしも・・、この家が良いなーって物件ある? 彼に見せてOKなら買わせるわ」


既に悪魔の囁きに、身も心も捕らわれ、抗う事が出来なかった。


「・・ここが、良いかも。と・・思った事が・・」


自分の手には届かない、しかしまったく見も知らぬ人の手に渡る位ならと、悩みに悩んで遂に陥落。憧れのマイホームの場所を教えてしまう。


にっこりとほほ笑むと、パッと踵を返しアザゼルに向く。


「契約が終わったわ。次に行くわよ」

「そうか。何処へ行くのだ?」

「不動産ギルドへ行って、家を買うわ」

「・・不動産ギルド? 家を買う?」


これから旅に出るのに家を買う必要はないと、流石のアザゼルも思ったのだが・・


「2人とも完全登録して、宿屋の利用は出来るけど、やはりトラブルは避けられない」

「そう・・、なのだろうな」

「家は無駄かもしれないけど、日々の避けられるトラブルは避けた方が良いと思うの」

「・・尤もだな」

「しかも家があれば、日々の宿代の出費も抑えられる上に、あの子達に料理とか掃除、洗濯とか教えられうと思うのよね」

「確かに、合理的ではあるし、学ぶ場所が有るのは良い事だ」


・・上手く丸めこまれる。悪魔セッチの巧みな話術によって。

単純にアザゼルが、脳筋・・考え無しな気がしないでも無いが・・


「「(いやいやいやいや、ちょっと待ってぇぇぇぇぇ!?)」」


家だって不在の時は無駄じゃねぇ? 自炊できる宿屋も有るし、とウォックとズウェイトは思う。


「と言う訳で、不動産ギルドへレッツゴー」

「分かった」

「「(やばい、これはやばい、止めなくては!)」」


アザゼルは、見返りも打算も考えていない、何も求めていない。

本当に自分たちを、純粋に解放しようと考えてくれている。


「あ、あのー。セッチ様、アザゼル様、家の件ですが・・、購入も無駄・・」


最後まで言い終わらせる前に、ガバッとウォックとズウェイトの肩を抱いて、部屋の隅へと連行し耳打ちする。


「あなた達には、まだ男女の機微と言うのが分からないと思うけど」

「「えっ!?」」

「鈍ちんなご主人様と、あのツンデレの間を取り持つのも、従者としての使命じゃない? じゃなきゃどんな家だって良いんだから」

「「っ!? (きゃぁあぁぁー!!)」」


愛する人の求める家を贈る・・、2人は手でしっかり口を押さえて、心の中で黄色い叫びをあげる。

人間、獣人、エルフの種族に関わらず、未婚の女性はこの手の話が大好物である。


ウォックとズウェイトも、大悪魔セッチに完全に手玉に取られてしまう。


「・・お気を付けて」


今更ながらにウハーも正直不味かったかも、と思い始めながら4人を見送る。






不動産ギルドに到着すると、セッチが完全に主導権を握る。


「ちょっといいかしら。この物件を購入する予定なの。まだ残っているかしら?」


いきなりの切り出しに、職員も一瞬驚くが営業スマイルに切り替え対応をする。


「ええ、残っております」


セッチが女性らしからず、肩を抱き2人でこそこそと話をする。

アザゼルは流石だと傍観し、ウォックとズウェイトは握り拳で応援している。


「ならば一件目はあばら家を、奴隷には相応しいと言って紹介して頂戴」

「はぁ・・」

「私がこんな所に住めるかーって言うわ」


何故、購入者の怒りを買う様な事をさせるのかと、眉をひそめる。


「2件目に奴隷をお持ちならって、とんでもない豪邸に案内して」

「ふむふむ」

「四人にこんな家がいるか―って言うわ」


職員もセッチの意図に気付く。


自分の仕事は、彼らにはこの家がちょうどいいと思わせる事。

購入資金を出すのは・・、当然あの男と言う事になる。


「最後に一家四人でしたらと、こちらの物件をお勧めすれば良いのですね?」

「その通りよ」


職員が的確に自分の考えに気付いたので、しっかりと頷き、ニッコリと握手を交わす。




セッチに踊らされた職員との三文芝居の末、目的の家に辿り着く。


「へぇー彼女、予想通り堅実なのね」


白壁の可愛らしい、乙女チックな外観ながら、中身は質実剛健である。

2階建のしっかりした作りで、四部屋にリビング、トイレ、浴室、キッチンである。


確かに主要な道からは外れているが、かえって静かで住み易そうである。


「彼女? 予想通り? とはどう言う事か?」


アザゼルは、セッチのこの家を知っていたかのような口ぶりに引っかかりを覚える。


「「(やばい!?」」


ウォックとズウェイトは、これは気づかれたのでは?と冷や汗を流す。


「うん? 冒険者ギルドの受付さんの、えーっと・・」

「ウハー殿か?」

「そうそう私だって、家買った事がないからアドバイス貰ってたのよ。だから最初の二軒だって簡単に文句言えたの」

「なる程、そうだったのか」


息をするように嘘を吐くセッチもセッチだが、あっさりと納得するアザゼルもアザゼルである。




アザゼルを丸め込んだ所で、セッチが不動産ギルドの職員に尋ねる。


「お幾ら?」

「こちらの金額となります」


提示された金額に、セッチの眉が跳ね上がる。


「結構お高いのね・・」

「中古とは言いましても、かなりの出物な上にリフォーム済みですので」

「分かったわ。ちょっと待ってて」


額が額である。出資者の判断を仰がなくては不味い。


「ねえ・・この金額、払えそう?」

「うむー、正直良く分からん。金銭感覚と言うのが・・、その」


あまりのザル勘定ドンブリ勘定に、三人が唖然とする。

ウォックとズウェイトを完全登録した際も有り金出そうとしたな・・こいつと思う。


「済まないが、アイテムを換金するので協会までご足労願えるか?」


所持金が幾らあって、足りるかどうか分からない以上、換金するに越した事は無い。

この時の失敗は、誰も銀行の預金について確認しなかった事だろう・・


「畏まりました」


購入していただけるなら、その程度苦では無い。

不動産ギルドの職員を伴って、皆で協会の方へと向かって行く。






真っ直ぐに受付の職員の所へ向かい、声をかける。


「済まないが、またマジックバックの中身を整理したい」

「畏まりました、どうぞこちらでお待ち下さい。準備します」


案内された先は、大きめの会議室であった。


「マジックバックを整理したい? しかもまたって・・、どう言う意味かしら?」


意味が分からず呟くセッチに、何となく予想が付く2人は、あーっと遠い目をする。


しばらく待つと、戦闘職と生産職協会の職員が現れる。


「お待たせしました。お願いします」


その言葉を皮きりに、次々とマジックバック(『倉庫』経由)からアイテムを取り出す。


上層階から深層階、雑魚からボスのドロップ品のレアアイテムから装備やアクセサリーに宝石、貴金属のインゴット・・とんでもない量なのだから、とんでもない金額になる。


「何で・・? こんなに持っているの?」

「前に言いましたが、ソロでダンジョンを攻略できる方ですから」

「それは聞いていたけど・・って、もしかしてクリアって?」


ダンジョンは誰かがボスを倒した後なら、素通りする事が出来る。

そう言う意味でのクリアだと思っていたが、ボスも含めてだったようだ。


「あの容姿なので護衛や討伐の依頼がないと、よくダンジョンに潜られていましたね」


協会の職員が、3人の話を補足する。


ダンジョンクリア1回分のドロップした硬貨だけで、家の購入費は賄えてしまうだろう。

しかしマジックバック(『倉庫』経由)からは、何回分のクリア品が出されただろうか・・


不動産ギルドの職員に、支払うと手続きを勧めてもらう様に依頼して帰ってもらう。


「何時も通り依頼達成の手続きを行い、換金分は銀行ギルドの方に預けるでよろしいですか?」

「頼む」


端数も残らず銀行ギルドに預ける。

貨幣に関しては、この場に出さずに『倉庫』に眠ったままなのであり、実はその分だけで家を買える金額は余裕であった。


「貴方ってお金持だったのね」

「金持ちかどうかは分からない」


ダンジョンのソロによる完全攻略が可能で、大容量に入るマジックバックを持っていれば、一生遊んで暮らせるはずである。


「協会の換金や、銀行ギルドへの預金って初めてじゃないわよね?」


手慣れた職員の対応や、アザゼルの態度から窺い知れる。


「ああ、とても世話になっている」

「だったら銀行から下ろせば良かったんじゃないの?」

「マジックバック(『倉庫』)の中身が減らない。足りなければそうするしかないが」


普通は逆じゃねぇ? とセッチとウォックとズウェイトの三人は思う。

もうアザゼルの事を深く考える事を、諦める事にした。


「まあ良いわ。用意が済んだから、あとは住めるように必要な物を揃えましょう」


そして買い物に町へ繰り出す。




・・事無く、冒険者ギルドへと戻って来た。


「今度は何の用ですか?」


一呼吸あったお陰で、普段のウハーに戻れていた。


「無事にあの家が買えた事の報告が一つね」

「それは・・、良かったですね」


それも束の間、一瞬で挙動不審に陥る。


「今度は依頼をお願いしたいんだけど、指名依頼って可能?」

「えっ? ええ、冒険者ギルドに登録している者であれば」


いきなりの話の振りに、戸惑いを覚えるが、キッチリと対応する。


「では、ウハーさんを買い出しのお手伝いに」

「な、何で・・私なので・・す?」

「あ・な・たのお気に入りの家が、ゴミ屋敷になっても良いの?」

「えっ!? ど、どう言う・・」


ゴミ屋敷と言う単語に、ピクリと反応する。


「あの家には、あの家に合った家具などがあると思うんだけど」

「ええ、まあ・・」


あの家に住めたらと、思い描く家具は当然ながらある。


「私やアザゼルさんが、その様な機微を持っていると思うの?」

「ぐっ!?」


目の前のセッチは分からないが、学者ならその辺頓着が無いかもしれない。

アザゼルに至っては、期待する方が悪いだろう。


「まあ此処まで来たら、最後まで責任取って欲しい訳よ」

「最初から・・、何も・・、してません」


セッチの言葉を否定するが、答え方は弱々しい。


「ぶっちゃけ依頼でお願いしちゃうんだけど、出来れば喜んでお手伝いして欲しいのよ」

「わ、分かりました」


依頼として受けると納得させながらも、既に頭の中は家に合う家具で一杯である。


ウハー対セッチの第2戦も、セッチの完全勝利で幕を閉じる。




今度こそ、新しい家に必要な数々の物を買いに出かける4プラス1であった。




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