奴隷を得る
【奴隷編 奴隷を得る】
王都に戻りると獣人のウォック、エルフのズウェイトを連れて奴隷ギルドへと向かう。
「先ずは奴隷ギルドに事情を話すが、構わないか?」
「はい」
ウォックは、ズウェイトを庇いながら、自分が矢面になって話を進める。
奴隷ギルドに近づくと、建物の傍に居た人物から2人が顔を背ける。
しかし向こうの人物もこちらに気付いた様で、近寄ってくる。
「おお、間違いない。私の奴隷たちだ。返してもらおう」
勝手に2人を捕まえようとするので、アザゼルがその手を払いのける。
「勝手に触らないでもらおう。この2人は、私がダンジョンで保護したのだ」
「それは失礼した。2人とはダンジョンで逸れてしまいまして・・」
「逸れた? それはおかしな話だな」
アザゼルは、ウォックとズウェイトの話と食い違いを感じる。
「では奴隷ギルドも目の前だ。中で話をゆっくりと聞かせてもらおうか」
2人を守る様にギルドへと向かい始めると、元主人は非常に不味い顔をする。
「そ、それには及びません。こちらで・・」
「そなたたちの話と、この2人の話で食い違いがある。第三者に確認すべきだ。すまないが誰か、奴隷ギルドの職員を呼んでくれないか?」
奴隷ギルドは売買のみならず、奴隷に関して正しく扱うためのギルドである。
苛立ちを隠せない元主人を前に、澄ました顔で職員の到着を待つ。
「仕事中に済まない。少し尋ねたいことがあるのだが?」
「どの様なご用件でしょうか?」
「ダンジョンで、この二人を保護したのだが・・」
2人に出会った時のあらましを、語って聞かせる。
「それで?」
「向こうの御仁が、ダンジョンで逸れたと言われるのだ」
その言葉に、奴隷ギルドの職員の冷たい視線が元主人に向けられる。
「奴隷は、主人の元から離れる事は出来ません」
「その様に聞いている」
「例外として、解放、つまり持ち主である事の放棄があります」
流石に隠し技まで披露する様な事は無いが、2人が主人不在の状況であると証明される。
「私はどうしたら良いのか?」
「保護された方には、奴隷状態から解放するか、自分の奴隷とするか決められます」
「ま、待て。主人不在であれば、私にも権利があるはず・・」
「勿論、こちらの方が解放されれば権利はあります。その場合は当然、職員である私にも権利が発生しますがね」
奴隷を持つ者として、知っていて当然のルールを付きつけられ歯ぎしりする。
「では手続きを行いますので、当ギルドまでご足労いただけますか」
「是非も無い」
「そこの仮面の男! 絶対に許さんからな!」
元主人は悔し紛れの暴言や、呪いの言葉を吐き続けながら行ってしまう。
アザゼルは、ウォックとズウェイトを伴って、奴隷ギルドの建物の中へと入って行く。
野次馬の中の一人の女性が呟く。
「ふーん。随分と損な役回りを買って出たのね、彼・・。面白い、面白いわ。是非お供しましょう」
三人と、奴隷ギルド職員の後を付いて行く。
ギルドに着くと職員が、ウォックとズウェイトの取り扱いについて聞いてくる。
「奴隷の所有権の変更と言う事でよろしいですか?」
「2人を奴隷から解放したいのだが?」
「「「・・えっ!?」」」
職員と、ウォックとズウェイトが驚きの声を上げる。
「何か問題でも?」
「大有りよ。今の時点ではしない方が良いわ」
突然、背後から声が掛けられる。
振り向くと、先程あとを付けてきた女性であった。
「何故?」
人ごみの中では探索能力を止めていたが、それでも気にする様子も無く尋ねる。
「貴方は奴隷の扱いについて知らないでしょうけど・・」
「うむ、全く分からない」
女性は馬鹿正直に答えられて、口をパクパクさせた後、首をカクンと落とす。
「いいわ、良く聞いてちょうだい」
気を取り直して、アザゼルに説明する。
「第一に、彼女たちを奴隷の状態から解放したらどうなるか?」
「晴れて自由になって・・」
「そう自由に、町の人たちに寄ってタカって、食い物にされるか、殺されるわね。さっき職員もそう言っていたでしょう? 自分にも権利が有るって」
女性の言葉を肯定するのか、職員も、奴隷の2人も何も言わない。
「何故そうなる?」
「人間の町の中で他種族が無事でいられるのは、奴隷だからなのよ」
女性の言葉に、アザゼルが目を見開いて驚きの表情を浮かべる。
「第二に、他種族では捕まれば死をという考えがあるらしいの。彼女たちを無事に解放できたとしても、受け入れてくれる所が無い可能性がある」
「それは・・」
アザゼルは人間の事でさえまだまだ分からない事が多い。
他種族にあるしきたりや習慣など、到底考えが及ばない。
「人間の町に居られず、自分の種族の元にも帰れない。今の所彼女たちの安全を保証する手段は、奴隷だけと言う事になる訳よ」
ウォックとズウェイトは、諦めの表情を浮かべている。
引き離された家族か、それとも元主人かは分からないが、徹底的に教え込まれているのだろう。
奴隷ギルドの職員も、こればかりは仕方が無いと言う表情を浮かべている。
「どうするの?」
「どうしたらいい?」
突然の闖入者の問いかけに、同じ様に問いで答えるしかない。
「ん? 私の考え、意見で良いのかしら?」
「構わない、聞かせて欲しい」
「そうねぇ、本当に2人を奴隷から解放したいと言うなら・・、先ず貴方が保護者として、2人を自分の奴隷として登録する」
アザゼルは渋い顔をするが、話の続きを促す。
「それで?」
「各町を回って、各種族の情報を集める」
「ふむ? それから?」
「各種族と接触して、どうするか決める。例えば彼女たちが仲間に殺されるのか、それとも受け入れてくれるのか、と言った事をね」
「なる程、ウォック殿とズウェイト殿の受け入れ先を探すと言う事か」
「その通り」
安全な奴隷のまま、二人の解放先を探すと言う事である。
「どうする?」
「この仮面の人がどんな人か分からないけど、生きる事を選んで欲しい。例えそれが奴隷であっても」
アザゼルと女性が、二人に向かって問いかける。
酷かもしれないが、二人の意見が、考えが、決意が非常に重要となる。
ウォックとズウェイトはお互い顔を見合わせて決断する、それが不可能だとしても。
「「奴隷にして下さい、貴方の」」
諦めでは無い・・、一縷の望みをかけた願い。
「じゃあ、チャッチャッと2人の登録をお願い」
「畏まりました。どちらの登録方法に致しますか?」
女性が話を纏めようとすると、ギルドの職員が聞いて来る。
「ん? どちらとは?」
奴隷の登録方法に2種類ある様な言い方に、アザゼルが尋ねる。
「完全登録と簡易登録の二通りがあります」
「どう違うのかしら?」
女性が二つの方法の違いを確認する。
「簡易方法は、あくまでもギルドにどの奴隷が、誰の所有物かと登録するだけです」
「ふむふむ」
「完全登録は、奴隷ギルドの登録証、身分証明書に当たる物が発行されます」
「それがあると、何か特権があるのか?」
「奴隷ですが・・、他のギルドと同じ様に扱われます。つまり、生産職協会もしくは戦闘職協会の依頼を受ける事が出来ます」
「それの何のメリットがあるのか?」
「自分で自分を買い取るチャンスの一つを手に入れることになります。他にも・・」
「それで頼む」
アザゼルは即答する。
先ほど自分たちを解放すると言った言葉から期待半分、そんな事は無いと諦め半分の2人が目をパチクリとする。
「ただ、その・・、若干、手数料が・・」
にやついた顔で手揉みする職員。
「足元見るわね・・、幾らなのよ?」
無い袖は振れぬと、金額を確認する女性。
ドッ、ジャラ・・
アザゼルは2人を無視して、皮袋をマジックバック(『倉庫』経由)から取り出す。
「足りるか? 足りなければ・・」
更にマジックバックから取り出す素振りを見せる。
「お、お待ちを。只今確認しますから・・」
皮袋を開けると、金銀銅貨が入り混じって入っていた。
「これって、記念銀貨よね? こっちのは古代銅貨!? おしい銀貨なら」
「むっ!? 側面の刻印・・珍しい。・・この銀貨もしや」
貨幣談義に花を咲かせながらも、必要な金額を抜き取り残りを返してくる。
「しばらくお待ちください。今登録をして参ります」
「頼む」
手続きを頼むと、ふと今まで傍に居た女性が見も知らぬ人物である事に思いだす。
「つかぬ事を聞くが?」
「何かしら?」
「初対面だったと思うのだが、どなただろうか?」
「「えっ!?」」
当たり前のように会話していた姿に、ウォックとズウェイトは知り合いだと思っていた。
アザゼルに関しては、全く知らなかったが、全く気にしていなかった。
「そうね、初対面だったわ。私の名前はセッチ。民俗学の研究者よ」
さも自然の流れかの様に、自己紹介を済ませ、アザゼル達も自己紹介をする。
「セッチ殿は、何故会話に割り込んだのか?」
「面白そうだったから」
「そうか」
アザゼルはあっさりと納得してしまう。
あまりの回答と、アザゼルの大らかさ?にウォックとズウェイトは唖然とする。
2人の登録証が出来上がると、登録証を見た3人は驚きの声を上げる。
「「「えっ!? ええぇえぇ!?」」」
セッチがマジマジと登録証を見て、完全登録の意味を知る。
「そう言う事だった訳ね・・」
「何かあったのか?」
3人の驚きを不思議に思った、アザゼルが問う。
「この登録証に入っている紋章って、どんな意味だか知っている?」
「いや、分からないが?」
「この紋章はね、王家の紋章なのよ」
「王家の紋章・・、それで?」
全く意味が理解できず、首を傾げている。
「貴方の奴隷、財産であると同時に、国の奴隷、財産でもある。手を出せば、国を相手に戦う事になると言う宣言をしているのよ」
「ほぉ」
完全登録の特権は、国家が保障していると言う事である。
「まぁ、建前だけどね」
「建前?」
「国家のバックアップとは言え、奴隷は奴隷だし、差別や偏見、蔑視は必ずあるものよ」
「なる程」
セッチはある目的から、アザゼルに拠点へ戻りたいと話を切り出す。
「そんなこんなで、早急に貴方の拠点に行きたいんだけど?」
「何故?」
「これからの事を話し合うためよ」
「この町ではダメなのか?」
「ダメね」
「分かった」
理由も聞かず全く疑う事もない。
自分の知らない事を知っている彼女だから、必要な事だろうと納得するアザゼル。
新しい御主人は大丈夫だろうかと2人は思いながらも、西の町へと向かう準備をする。
「最初に私の家に来て欲しいんだけど?」
「何故?」
「貴方のマジックバックに、入れられるだけ荷物を入れて持っていきたいのよ」
「分かった」
ある意味引越しの手伝いをして、保存食など旅の支度を整えるとセッチが変な事を言う。
「一つ予言をしましょう」
「うん? 予言?」
唐突な発言にアザゼルは戸惑うが、ウォックとズウェイトは想像がついた。
「貴方・・、襲われるから」
「襲われる? モンスターにか?」
「・・悪いけど、あんた達の新しい御主人、頭弱いかも」
カクンと肩を落としたセッチの言葉に、2人は苦笑いする。
セッチの荷物を『倉庫』ではなく、マジックバックだけに仕舞って、四つある王都の門の内、西門をくぐり抜ける。
しばらく進むと、探査能力に引っ掛かる者がある。その数・・6。
「ほらぁ、予言が当たったでしょう?」
セッチは命の危機なのに、ドヤ顔をしている。
「ふむ・・、元主人のお出ましか」
「悪いが、ワシの奴隷を返してもらおうか?」
「ダンジョンの無限湧きトラップで、見捨てたのにか?」
アザゼルの一言に、元主人は真っ赤になって怒りの声を発する。
「うるさい! ならばお前を殺して取り返させてもらう。保護した者の所有物になるのだったよな?」
グップップップッと下卑た笑いをすると、周りの戦闘職も似たような笑いを上げる。
元主人がアザゼルたちに対して、周囲の者たちも何をするか聞いていたのだろう。
「そうか・・。どうしたものか?」
「どうするって、何が? 悪いけどウォックちゃんとズウェイトちゃんの2人も手伝っ・・て、何してるの?」
「うむ、こいつらを衛兵に就き出すために西の町に戻るのは、少々時間がかかってしまうな」
「アザゼルさんは一体何を言っているの?って、ちょ、ちょっと何で二人は座って見学モードな訳?」
「「すぐに分かりますから」」
2人がアザゼルの邪魔にならない様に、少し離れて膝を抱えて座っている。
そんな二人に混乱するセッチは、アザゼルに二人を説得するように振り返る。
「すぐ分かるって・・、アザゼルさんも何とかっ言ってって・・ええぇ!?」
振り返ると、元主人を残して戦闘職は地に倒れていた。
「で、どうする? 一応生かしておいたが、この場で罰するべきだろうか?」
大剣の切っ先を、喉元に就き付けて問う。
「こいつ一体・・何者なの?」
「ダンジョンを、ソロでクリア出来る方ですよ」
「「えっ!?」」
セッチと元主人が驚きの声を上げる。
「(これは・・、とんでもない拾い物をしたわ!)」
ダンジョンをソロで最深層階・・、誰かがダンジョンボスを倒した後とは言え、ゲートだけくぐって戻るだけでも、とんでもない戦闘力と実力が有る事は分かる。
力づくという選択肢は、最悪手であったわけである。
「無益な殺生は望む所では無い。皆、すまないが一度王都に戻ろう」
元主人と戦闘職を王都へ連行し、事情を話し衛兵に突き出す。
事情聴取と、手続きで西の町への出立が一日遅れてしまう。
「待たせた。では西の町へ向かうとしよう」
「そうね」
「「はい」」
王都の西の町への門から、奴隷からの解放の第一歩を四人は踏み出す。




