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異形の冒険者  作者: まる
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奴隷と出会う

【奴隷編 奴隷と出会う】


まず王都での依頼をこなすために、冒険者ギルドへと向かう。


ギルドの扉をくぐった瞬間、職員たちから意味不明なサムズアップの歓迎を受ける。

話を聞けば、あの奴隷の所有者は相当嫌われており、良くやったのサインだったらしい。


「噂には聞いていましたが、本当にランクDの方が冒険者ギルドに来られるとは・・」

「何か問題でも?」

「いいえ・・。当たり前の事が、これほど素晴らしいとは思いませんでした」


初めて歓迎されたギルドで、身分証明書を提示すれば、涙ながらに感動される。


「こちらの依頼をお願いできますか?」


ドブさらいの仕事であった。

王都は人も多く、かなりの頻度で浄化槽のごみを取る必要がある。


「お願い? 斡旋依頼は必ず受けるのだろう」


不思議そうな顔で依頼を受け取る。


「そうだ。依頼は溜まっているのか?」

「えっ!? ええ、結構・・」

「では、お勧めの宿を教えて欲しい」

「宿・・、ですか?」


何故だろうと思いながらも、冒険者ギルドで薦めるのは、ランクDが止まらなそうな宿だ。


「うむ、感謝する。ではまた後ほど」

「お願いします」


涙を拭ったハンカチを振りながら、アザゼルを送り出してくれる。

期待を裏切る事なく、溜まりに溜まった依頼を片づけていく。


ギルドの職員たちは、アザゼルが宿屋を取ったのが、ギルドの依頼を片付けるためと知って更に感動する。


そんな生活の中でアザゼルは、奴隷とスラムの人々の在り方を学んでいった。






依頼を全てこなすと感謝の言葉をギルド職員たちから掛けられ、戦闘職協会の依頼を受けに向かう。


王都だけあって依頼の量も半端ないため、生産職と建物は完全に別である。

また戦闘職の数が多く、早い者勝ちルールにすると事故が起きるので、通常依頼は次々と張り出される。


常時依頼に至っては、専用の掲示板が別の階に用意されているほどだ。


まあ依頼の内容に関しては、薬草、素材、食材採取、モンスター討伐と他の町と大差ない。

ダンジョン産のアイテムに関しても、通常依頼として残されているやり方は変わらない。


「ふむ。どの依頼から受けるか・・」


通常依頼のダンジョン産アイテムを見て、手持ちの物で済む物を幾つか見つける。


「少し『倉庫』中を整理するか」


依頼が無ければダンジョンに潜っていたのだから、かなりの量が『倉庫』に眠っていた。

流石に王都の協会だけあって、出された素材やアイテムに驚く事なく処理されて行く。


王都では自分より奇抜なファッション?をしている者が多かった。

そのせいか自分の姿を見ても、驚かれる事は無く、奇異な仲間の一人を見る目ぐらいであった。


「では、バランス良く依頼をこなして行くか」


協会とギルドの依頼を次々とこなして行く。




『倉庫』整理の後しばらくして、王都に着てからダンジョンに潜っていない事に気付く。


「同じではあると思うが、王都近郊のダンジョンにも潜っておくか」


取り合いになるのは、あくまでも超優良な依頼であり、普段は依頼に困る事のない。

そのため依頼が無ければダンジョンに潜る、と言うパターンに狂いが生じていた。


王都近隣の幾つかのダンジョンを巡って見る事にする。


「一階層の壁の中に宝箱が4つ、出てくるのは大剣と小手、ブーツにマジックバックか・・」


結局、幾つかのダンジョンをクリアして、ボス復活後に再びは言っても結果同じであった。


「ふむ・・、これ以上はどうしようもない」


頭を振り、ダンジョンボスを倒すために奥へと進んでいく。

一階層なのだから、そのままUターンして出口から帰ればと思うだろうし、『倉庫』の中身だって増えないで済むはずなのに、何故か先へ先へと進むアザゼル。




特にその日のダンジョンは賑わっていた。


ダンジョンの特質で、ダンジョンボスを倒すと、ボスのリポップのタイミングで全ての空の宝箱の中身がリセットされる。

当然、ボスがリポップすれば、リセットされた宝箱を求めて、普段より多くの人々がダンジョンへと潜っていく。


もう一つのダンジョンの特質、セーフティエリア無しの、自力脱出・・。

結界アイテムや脱出アイテムが無ければ、命に直結してしまうと言う事実。


幾つかの階層を降りてすぐの所で、慌てた様子で上層階へと向かうパーティとすれ違う。


「何かあったのか?」


探索能力で調べると、ちょっと先にモンスターと・・


「むっ!? いかん」


モンスターに囲まれた2人の反応を見つけ、駆け出して行く。

急いで駆け寄った先には、獣人とエルフの奴隷が戦っていた。




モンスターの1体1体は、獣人とエルフの2人なら十分戦える強さだ。

数は10体程度なのだが、リポップが早すぎる。


「(これは・・、トラップに引っ掛かったのか?)」


宝箱には様々なトラップが仕掛けられており、その一つがモンスターの無限湧きである。

無限と言っても限りはあるのだが、何の慰めにもならない程、湧いて来るのだ。


何時終わるとも分からないリポップに、肉体的にも精神的にも疲弊する2人。

多分先程のパーティは、2人を囮にして逃走を図ったのだろう。


「ウォック姉さん。私を置いて逃げて・・」


明らかに疲労しきっているエルフの少女が、諦めの声を獣人に発する。


「何言っているのズウェイトちゃん! もう少しの辛抱よ」


立っているのがやっとのエルフを庇いながらでは、ジリ貧は目に見えている。


アザゼルが2人の間に割って入ると、大剣を一閃、半分のモンスターが吹き飛ぶ。


「「えっ!?」」


しかし残念ながら、すぐに同数のモンスターが湧いて来る。

アザゼルは、大剣を無造作に振り回し、次々倒す。

倒される度に、モンスターは次々とリポップする。


「・・・何が起きているの?」


ウォックと呼ばれた獣人が目を丸くして呟く。


第一に無限湧きのトラップに割り込む馬鹿は見た事が無い。

第二に囮にされた奴隷を助ける馬鹿は見た事が無い。


まあ自分たちを苦しめたモンスターが、一振りごとに吹き飛ぶのは爽快であったが。


「少し聞きたい事があるのだが・・」


ブンッ ドゴン! チャリーン!


「良いかな?」


ブオンッ ズドン! コンコロコロコロ・・


「「えっ!? ええ・・」」


ズガン チャリチャリン コロコロロ・・


「これでは会話がままならない。少し待っていてくれ」


先にモンスターをどうにかしないと駄目と気付き、アザゼルは倒す事に専念する。




本当に無限ではと思わせる頃、大量の硬貨とアイテムを残して湧きが収まる。


「ん? 終わったのか?」


しばらく警戒しながらドロップ品を拾った後、2人に向かって声をかける。


「大丈夫か?」

「「はい・・」」

「じっとしていても、モンスターが寄ってくる。済まないが先に進もう」


エルフが小声で、獣人に声をかける。


「ウォック姉さん、どう言う事でしょう?」

「多分、彼は脱出アイテムを持っていないんだと思う」


彼の実力であれば、この階層・・いや、更に深くても問題ない。

脱出アイテムを手に入れた段階で、ダンジョンからの脱出を考えていたのだろう。


「「分かりました」」


今の段階では、変な装備の怪しい彼に付き従う他選択肢は無かった。




会話が途切れるので、戦闘とドロップ品の回収は省略--

三人は歩きながら話しをする。


「君たちは奴隷と言う事で間違いないのか?」

「「はい・・」」

「良くは知らないのだが、奴隷は主人から離れられるのか?」

「いいえ・・。その様な事をすれば、逃亡と見なされ死に至ります」


獣人が自嘲気味に笑い、首輪を指差す。


「ふむ・・。良い悪いは別にして、逃亡イコール死と言う措置は仕方が無い物なのだろうか・・」


話しには聞いてはいたが、実際に年端もいかぬ、聞けば11歳と10歳と言う少女たちに行うべき行為には思えなかった。


「あのー、助けていただいた事には感謝しています。その前に一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「構わない。こちらも聞きたいことが山ほどあるのだから」

「お答えできる事は、全てお答えいたします。まず・・、何故貴方様は率先して戦われているのですか?」


そうなのだ。彼は行く先々で現れるモンスターを、奴隷を差し置いて戦っているのだ。


「戦いたかったのか?」

「えっ!? いいえ・・そんな事はありませんが・・」

「なら構わないだろう?」


全く意味不明な理由である。このまま話を続けても噛み合わない様な気がする。


「いいえそうではなく、普通は奴隷を真っ先に戦わせるものです」

「誰が決めた?」

「・・えっ!?」

「ダンジョンに潜ったのは、自分自身で決めた事だ。君たちには関係が無い。話がしたいので付いてきてもらっているに過ぎない」


アザゼルの回答に、唖然とする獣人とエルフ。

こんな考え方をする人間に会ったのは初めてであった。


「ではもう一つ。既に数体フロアボスを倒しています」


自分たちも過去に何度か、フロアボスと戦っている。

彼はただの一撃で、硬貨とアイテムに変えてしまったのには驚いたが。


「うむ、そうだな」

「脱出アイテムも、一つは手に入っているでしょう。何故すぐにでも脱出されないのですか?」

「その方がお得だからだ」

「と・・得っ!?」


何故ダンジョンを深く深く潜る事が、何の得になるのか・・。

この人の言っている事が、全くと言って良い程理解できない。


隣のエルフが何もない所で躓く。


「大丈夫? ズウェイトちゃん」

「ごめんなさい、ウォック姉さん」


流石に無限湧きのトラップの後、休まず進んでいるのだから疲労もピークだろう。


「2人とも、もう少しだけ辛抱してくれ」

「「はい」」

「この先に少しだけ休める所がある」

「「えっ!?」」


ダンジョンにその様な所があるとは思いもよらず、驚きの声を上げる。




そしてアザゼルの選んだ休憩所に到着する。


「お伺いしますが・・、此処はエリアボスの階層では?」

「その通りだ」

「ウォック姉さん・・」

「お、終わった・・」


2人でさえ今まで見た事のないモンスターが、鎮座していれば誰でも分かるだろう。


そう思うが早いか、威嚇するエリアボスに大剣を一閃しドロップ品に変える。


「「・・はぁ!?」」


あまりの出来事に、2人は愕然とする。エリアボスをたった一撃?


「エリアボスが湧くのは、フロアボスより長い。良い休憩所だ」


いやいやいや、それは貴方だけですと首と手を振る。


「では食事にしよう」


アザゼルがそう言うが、2人には荷物は無い。

マジックバック(『倉庫』経由)から、食料と皮袋を取り出す。


「これは屋台で売っていた、パンに総菜を挟んだ物だ。口に合えば良いが」

「「えっ!?」」

「皮袋には水の魔石が入っていて、振れば水が満たされる。出来れば飲みきって欲しい」

「「はぁ・・」」


差し出されたパンに、まさか二人のために取りだされたとは思いもよらなかった。

奴隷なら残り物か、主人が食べるのを見せつけられるだけである。


「では食事をしながら、話の続きを聞かせて欲しい」

「「・・はい」」


おずおずと食糧と水筒を受け取り、アザゼルの分が無い事を不思議に感じながらも、食事を開始する。


「離れたら奴隷は死に至るのに、どうして今大丈夫なのだろうか?」

「奴隷は主人から離れられないのではなく、首輪と対になっている鍵から離れられないのです」

「ならばどうして?」

「隠し技が存在します」

「ふむ? それは一体?」

「建前上ですが、奴隷とは言え、非人道的な命令はできないとされています。しかし殿や囮といった主人と別れねばならない状況の場合、奴隷を放り出す事が出来るのです」


苦々しそうに話し始める。


「首輪に鍵を付けて、囮になれ、殿になれと言う命令を出すのです」

「鍵があると言う事は、その命令をこなせば自由になると言う事では?」


少女たちは首を振って、うすら笑いを浮かべる。


「普通なら囮になって、生きているはずは無いんですが、鍵を、首輪を外すには・・、奴隷ギルドに行く必要があります」

「それは、どう言う事か?」

「鍵だけじゃ首輪が外せないんです! 外す魔法を知っている人が必要なんです! まだ分かりませんか! 放り出されただけ! 主人が変わるだけと言う事です!」


獣人が叫ぶ。

手元に転がってきた折角の鍵付きの奴隷を、誰が黙って手放すだろうか。

奴隷は何時まで経っても奴隷のままであると。


「あくまでも元の主人が手放しただけの奴隷と。死の命令をしておいて酷い話だ」


何を分かり切った事をと睨みつける獣人。


「そろそろエリアボスも復活するだろう。動けるか?」


2人に問いかけると、黙って頷く。


「では、先に進もう」


2人は怒って悔しがっていた、だから失念した。先に進もうという言葉の意味を。




更にフロアボスとエリアボスを数体倒し、今までと雰囲気の違う場所に出る。


「ここは・・?」

「な、何・・」


2人は絶対に踏み入れてはいけない領域に、足を踏み入れてしまった事に気付く。


「ん? 初めてか? ダンジョンボスの階層は?」

「ダンジョン・・」

「・・ボス?」


2人は舌の上で、自分たちが発した言葉を吟味する。


「終わった・・、終わったわズウェイトちゃん」

「ウォック姉さん・・」


2人は絶望の内に、お互いの細い肩を抱きしめ合っている。

そのため大量の硬貨とアイテムがドロップする音しか聞いていない。


「「えっ!?」」

「知らないかもしれないが、ダンジョンボスを倒すと、地上へのゲートが開く」


2人もそれ位は聞いている。見た事も経験した事も無いが。

これが彼の言っていたお得らしい、信じらねないが。


もう一生分の驚きを体験したのではないだろうか?


ドロップ品をせっせとかき集めるアザゼルの後姿を見る。


「脱出ゲートが開いている。さあ、地上へ帰ろう」

「「はい・・」」


もう二人には黙って頷く以外の術が無かった。


「ウォック姉さん、私夢を見ているのかしら?」

「ズウェイトちゃん、奇遇ね。私も同じ夢よ・・。もしかして死後の世界かしら?」


呆然としている2人に、アザゼルは声をかける。


「何をしている。急いで奴隷ギルドへと向かおう」


差し伸べられた手に、獣人とエルフはそっと手を載せる。





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