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異形の冒険者  作者: まる
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買い物をする

【奴隷編 買い物をする】


4人プラス一人で買い物に出かけると、ウハーは二つのグループに分けることを提案する。


「全員で家具を買いに行く必要はないでしょう」

「そりゃそうよね」


家具選びはウハーに任せているのだから、付いて行ってもあまり意味が無い。

お財布と荷物持ちのアザゼルは必要だろう。

しかしセッチとウォックとズウェットは、居ても居なくても大きな差は出ない。


「3人は日用品の買い出しをお願いします」

「了解。でも荷物持ちが欲しいわね・・」

「「荷物持ちなら、私達奴隷が・・」」

「大量に購入すれば、店員が家まで運んでくれます」


2人の言葉を遮って、ウハーが買い物のルールを教える。


「おお、それは良いアイデアね」


ウハーとセッチで話を纏められ、2人の提案は却下される。


「と言う訳で、はい」


アザゼルに向かって、両手を差し出す。

此処まで潔く求められれば、すがすがしさを感じる。


「ん? 何か?」


しかしアザゼルの鈍さの前には、まったく役に立たなかった。


「お・か・ね、お金よ。買い物をする」

「おお! そうか」


嬉しそうに『倉庫』経由で、マジックバックから革袋を取り出す。

続けて二袋目を取り出すために、マジックバックに手を入れる。


「ちょっと待って」


笑顔のセッチが、アザゼルの腕を取り動きを止める。


「ウハーさん、革袋の中身を改めて」

「はい」


セッチの意図を瞬時に理解し、中身を確認する。


「・・十分、すぎる程です」


その声に、そっとアザゼルの手を引き抜くと、革袋がすでに握られていた。

ペチンと手を叩いて、マジックバックにキャッチ&リリースさせる。


「ウハーさんとの買い物で使う分でしょう」

「・・まだある」

「いいから、今はしまっておきなさい」

「うむ・・」


そんなにお金が無くなるのが嬉しいのだろうか?


『倉庫』は無尽蔵に荷物を入れられ、大きさにも制限が無く、時間も止まる。

ただ、管理と整理は自分で行う必要があるのだ。


イメージとして『倉庫』は一つなのであるが、無限のサイズである。

『倉庫』の中には、大きなコンテナがあったり、棚があったりする。

コンテナの中にも棚があったり、棚には箱が置かれていたりする。


ちなみにこれは、あくまでもイメージであり、自分に合ったやり方でやれば良い。


ただ管理整理には、自分でこれはあっち、あれはこっちとやる必要があるのだ。

コンテナや棚、箱その他諸々も、自分でイメージしなくてはならない。


これがアザゼルは苦手で、たいへん苦痛なのである。

ぶっちゃけ、お金を入れる所とアイテムを入れる所ぐらいにしか分かれていない。

彼の中で荷物が減るイコール、管理整理が楽になると言う図式が成り立っている。






アザゼルとウハー組は、家具を買いに家具屋へと向かう。


「ウォックちゃんと、ズウェットちゃんは二段ベッドが良いわね。あの部屋にキングサイズのベッドを置いちゃうと、部屋が狭くなっちゃうから」

「ふむ・・」

「アザゼルさんとセッチは普通のベッドで良いわね」


何故かセッチは呼び捨てである。


「自分は床でも構わない・・」

「ベッドね」


馬鹿な事を言い出しそうなアザゼルの言葉の先を塞ぐ。


「い、一応・・、ら、来客用にも・・」

「うむ、それは大切だな」

「そ、そうよね」


遠回しではあるが、これだけ挙動不審だと自分用とバレバレである。


「各部屋にはクローゼットがあるから、机と椅子とタンスがあれば良いわね」

「ふむ・・」

「リビングには一応来客用も含めて、六人がけのテーブルと・・」

「むぅ・・」


次々と必要な家具を選び、店員に伝えていく。

アザゼルには全く未知の、摩訶不思議な呪文を唱えられている様な気がしてくる。




2人の後をつける、3対の瞳・・


「上手いでしょ?」

「はい、見事でした」

「(コクコク)」


セッチは、ウォックとズウェットを炊きつけた。


「2人とも、女性はああやって二人っきりになるチャンスを作るのよ。良く見ておきなさい」

「「きゃぁあぁぁぁー!」」


ウハーは全くその様な事は考えていなかったかもしれないが、その形はデートである。


ウォックとズウェイトは奴隷だったのに、何故ガールズトークが出来るのか?

いや奴隷だったからこそ、自分を救ってくれる白馬の王子を妄想してきた。


そしてセッチの個人的かつ、偏った英才教育の賜物でもある。


西の町までの旅は、アザゼルがいるため安全で安心の旅である。

余った時間を使って、2人にガールズトークを叩きこんだのである。


「でも注意しなさい。あの状況は上手くないわ」

「どうしてでしょうか?」

「あれは女性が主導を表立って握っているでしょ?」

「「はい」」

「ベストなのは男を立てて、裏からコントロールする。お金を自分から求めるのじゃなく、相手から率先して出させるのよ」

「「っ!?」」


目から鱗だったのか、ウォックとズウェットにとって驚愕の事実である。


確かに見た限りでは、アザゼルをウハーが振り回している。


「どうしたら良いのでしょう?」

「今日はもう無理ね。完全に自分の世界に入っているわ。睡眠でリセットさせて、明日に賭けましょう」

「明日ですか?」

「そうあなた達の服を買いに行くの」

「私たちに服なんか・・」


服は、この世界では嗜好品であり、高級品である。

素材を得るには、動物の皮を得たり、畑で麻や綿を収穫しなくてはならない。


どうしても手間と時間がかかり、価格に反映されてしまいがちだ。


最低限をと考え、着の身着のままるであるなら、衣食住で一番削り易いと言える。


自分たちは奴隷であり、服など二の次、三の次であった。

そんな2人の首をガバッと引き寄せ、耳打ちする。


「そんなの建前よ、建前。分かるでしょ? 分からないかなぁ?」

「「建前?」」

「あなた達の方が高価な服を着ていれば、トラブルを招きかねないわ」

「「そう思います」」

「彼女には、より高価な似合う服を着せて、褒めまくらせる。それが使命よ」

「「そ、それは!?」」


買うように進言するのではなく、アザゼルを誘導して、ウハーの服を買わさせる。

褒めまくらせて、その気にさせると言う寸法で、ついでに自分たちのも買う。

結局のところ、どっちが本音で建前なのか首を傾げたくなるが・・


「ほら見て。流石のアザゼルさんも疲れが見えているわ」

「そうかも・・」

「(コクリ)」


実はこの時のアザゼルは、女性の買い物と言う未知の領域に戸惑っていたのは確かだ。


「こうなると、周りに助ける様に視線を巡らせる事があるの」

「それは不味いです」

「(こくこく)」

「と言う訳で、気付かれる前に撤退よ!」

「「了解」」


彼女たちも自分たちの買い物を済ませるために、目的の建物へと向かって行く。






先に家に付いたのは、アザゼル、ウハー組である。


マジックバック(『倉庫』)に仕舞い込み、持ち帰りした家具を、ウハーの監修の元、配置して行く。


そうしている内に、店員を引き連れた3人組が帰ってくる。


「随分と遅かったのですね?」


心なしか雰囲気が柔らかく、にこやかな笑顔のウハーであった。


「あのねぇ・・、町に不慣れな私たちが、そうそう簡単に買い物が出来ると思うの?」

「そう言えば・・。申し訳ありません、私のミスですね」


素直に謝るウハー。本当は出歯亀で遅くなっただけなのだが・・

調理器具や皿やコップなどを、ウハーの指示で片付けて行く。


一段落つくと、アザゼルから預かった革袋から、依頼料を支払う。


「まあ、お互いにお疲れ様」

「確かに」


自分の夢を堪能できた上に、依頼料までもらえたのだ。ウハウハであろう。






ここで再び、セッチの悪魔モードが発動する。


「じゃあ、アザゼルさん。お風呂沸かしてくれる?」


ピクリとウハーの耳が反応する。


「すまないが、さっぱり・・」


アザゼルは常に水浴びであり、風呂など全く分からない。


「ウォックちゃんは?」

「お風呂は魔石を使った物でしたよね? まったく・・」

「ズウェイトちゃんは・・、無理なのね」


会話の途中から、全力でプルプルと首を振っていた。


奴隷に風呂はなかっただろうし、アザゼルは言わずもがである。


「仕方ないわね。教えるから付いてきて」


溜息を吐く振りをして、皆を浴室に案内する。

セッチの後ろからは、4人が付いて来る・・4人?


「この家は中古だったんだけど、売りに出される前にリフォームされていたの」

「ふむ」

「その際に、薪で沸かす風呂から、魔石を使った風呂になったわ」

「魔石? モンスターが持っていたり、落としたりする?」

「そうその魔石。火の魔石と水の魔石を使った風呂釜なのよ」


仕組みまでは分からないまでも、優れた技術である事は理解できる。


「魔石その物は消耗品で、薪より割高になるわね」

「拾ってきた奴では・・、ダメなのか?」


マジックバックに突っ込もうとする手を、セッチに押さえつけられる。


「そのままじゃ使えない。必要な属性を付ける加工が必要。まあ原石を持っていけば、工賃だけで請け負ってくれるかもしれないわ」

「それが良い」


セッチが一番熱心に聞かせていたのは、部外者であるはずだが、興味津々のウハーである。




セッチは4人に、風呂釜の使い方を一通りレクチャーする。


「以上で、簡単だけでど説明は終了ね。質問は?」


特に誰からも出ないので、誰かに実演してもらう事にする。


「じゃあ、ウハーさん。お風呂沸かしてもらえる」

「分かりました」


自称部外者が、あっさりと風呂を沸かさせられるのだが気付いた様子は無い。


「ウハーさんも入って行く?」

「はい! ・・・・っ!?」


思わずイエスと答えた時点で、自分の失敗に気付く。


「あっ!? いえ、すみません。着替えもありませんので、止めます、今の無しで!」

「着替え? じゃあ取りに行きましょう。皆行くわよ」

「えっ? いや、えええぇ? 何故、皆で?」


混乱するウハーに先導させ、自宅へ着替えを取りに行く。




セッチは、ウォックとズウェイトに耳打ちする。


「緊急ミッションよ」

「「えっ?」」


驚く2人に、作戦内容を伝える。


「彼女はあの家に住む事を了承していない。この機会を使って上手く丸め込むわ」

「丸め・・込む?」

「何やかんや言いながらも、マジックバックに荷物を全部突っ込んじゃって」

「そ、それは・・、難易度が・・」

「・・犯罪ギリギリ?」


引っ越さざろう得ない状況に持って行く。

完全に怒らせてはいけないし、しかしやむ無しと思わせねばならない難しい作戦。


「バランスとタイミング。気を引き締めてね」

「「分かりました!」」


従者の立場で2人をと言う話は何処へやら、自分たちの楽しみと化していた。






ウハーの家は、キッチンと一部屋のシンプルな間取りであった。


仕事が忙しいのだろう、残念な事にキッチンは異様に綺麗であった。


「ふーん、へぇー、ほぉー」

「「キョロキョロ」」

「あまり見ないで貰えます?」


家の中に上がるなり、セッチとウォックとズウェイトは物色を始める。


「ごめんごめん、で、着替えは?」

「今、用意します」


そう言ってタンスを開けた中を、3人で覗き込む。


「ちょ、ちょっと何で?」

「へぇー、こういう趣味な訳。よぉーく見ておきなさい」

「「はい」」


ズウェイトが何やら隅っこのある物に気付き、顔を真っ赤にする。

ウォックも釣られて見ると、興奮気味になる。


「勝負下着ね、しかもおニュウ・・」

「い・い・か・げ・ん・に」

「「「ごめんなさい」」」


セッチのポロっと一言に、ウハーはえらくご立腹である。




キッチン側で待たせることにして、着替えを準備する。

職場でも無くプライベート、一応男性もいるのだからと思案する。


それが良くなかった。


一通り準備を済ませ、隣のキッチンを見ると・・


「えっ?」


全てきれーに無くなっていた。


「ええ!?」


その隙を付いて、ウォックとズウェイトがアザゼルを引っ張って部屋に突入。


うろたえるウハーを、セッチが死角を作りながら対応する。


「ど、どう言う事ですか?」

「どうって?」


ちょっと着替えを準備しているだけで、家財が全て無くなっているのだ。


「いや、何でお皿とかコップとか鍋とか、全部なくなって・・」

「んー、それは何と申しましょうか・・」

「はっ!?」


慌てて振り向くと、手遅れであった。

クローゼットの中の服から、タンスが丸ごと無くなっていた。布団もベッドごと。


「い、一体・・」

「撤収!」


呆然とするウハーを、一人残して4人は自分たちの家へと引き上げる。






4人に僅かに遅れて、復活したウハーが新居に駆け込んでくる。


「な、何を考えているのですか!?」

「荷物はマジックバックから出していないわ」

「えっ!?」

「ちょっとしたお泊まりだと思って。それでもダメなら諦めるわ」


どうしてここまでして、自分にこの家の管理を任せようとするのかが分からない。


「何故ですか?」

「少し落ち着いたら、で良いかしら?」

「説明していただけると?」

「勿論。此処までした責任は取るわ」

「分かりました」


何かしら理由があるらしいので、一旦保留してお泊まりを楽しむ事にする。




ウハーのお着替え事件(強制引っ越し)のため、風呂が温くなり沸かし直す。


「じゃあ、お風呂を沸かし直す間に、ご飯の準備をしましょう」


セッチの掛け声に、誰の声も上がらなかった。


「あー、ウォックちゃんは?」

「申し訳ありません、全くやってきませんでした。

「それじゃあ、仕方が無いわね。ズウェイトちゃん・・」

「(フルフル)」


奴隷だった二人には、その様な機会が与えられなかったのだろう。


「じゃあ、アザゼルさんは?」

「うむ、野宿で培った技術を・・」

「却下します」


何が悲しくて、自宅で野宿の際の固いパンを食べなくてはいけないのか。


「そうすると・・」


チラリとウハーの方を見るが、逆に問いただされる。


「その前に、貴女はどうなのですか?」

「えっ!? 私? いやいやいやいやムリムリムリ。人間なんてご飯食べなくても、紙とペンがあれば生きていけるのよ?」


流石は学者。考える事がぶっ飛んでいる。


「私しかいないじゃないですか。とは言え慣れないキッチンですし、5人分を今からでは遅くなるでしょう」


本音は、しばらく料理から離れていて、いきなり5人分何て無理。練習させて、である。

仕事一筋、独り身のさみしい現状だった。


「仕方ありません、今日の所は屋台などで総菜などを買ってきましょう」

「じゃあお風呂組と、買い物組に分かれると言う事で」


ウハーとセッチが、これからのスケジュールを調整して行く。


「お2人の着替えは、明日の予定ですか?」

「ん? 一応、下着と肌着、貫頭衣は買ってあるよ」

「でかしました。その点に関しては褒めてあげます」

「ありがとう・・?」


褒められているはずなのに、何か釈然としない物を感じる。


「私たち奴隷に、着替えとかお風呂なんて・・」

「では行きましょう」


ウォックとズウェイトを、浴室へ無理やり引っ張って行く。

浴室は2人が入るのがちょうどいいのだが、まあ3人でも何とかなるだろう。


「・・しまった一番風呂と、ウォックちゃんとズウェイトちゃんを取られた」


3人を見送ったセッチとアザゼルは、仕方なく買い物に出かける事にする。


「(この役目はウハーさんの・・、でもお風呂に入ってしまうと出歯亀が・・)」


セッチの民俗学には当然、恋愛、結婚、夫婦、親子、兄弟姉妹の事情が含まれる。

まあ、覗きの正当化とも取れるが。


どうすれば良かったのか、とセッチは買い物の間、ずっと悶絶していた。






2人が買い物を終えて帰ってきても、3人はまだお風呂に入っていた。


「先に食べちゃうよー」

「どうぞー」


セッチが声をかけるが、ウハーからはまだ上がる気配は無い様だ。


仕方なく2人で先に食べていると、ホコホコの3人が上がってくる。


「アザゼルさん。これでは足りません。追加で買って来て下さい」

「分かった」

「あっ、あと、この店のデザートと、このお店で果実酒をお願いします」

「・・パ、パシらせるわねぇ」


あまりのこき使いっぷりに、風呂へと向かうセッチも若干引き気味である。


それでも全員揃った食卓は、にぎやかで楽しい物だった。





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