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お姫様と魔物少年  作者: あしあと
3章 
28/29

時を揺蕩う竜の島

久々あげ。

三人称→ローディス視点な島での話。

改稿したらより長くなりました~



 ひっそりと静まる森の中、一着のローブが佇んでいる。

 長袖に、地を引き摺るほど長い裾だけを見ればただのローブだが、頭部が現れるはずの首から上には何もない。それなのにしっかりと揺らぐことなくそこにあり、何かに着られているように膨らみがある。


「イール、久しぶり。起きてるかな?」


 そこへ、さくさくと草を踏み鳴らす軽快な足取りで現れたコウが、知己に対するように不可思議なそれを見上げ、話しかけた。


「……アア、コウか」


 するとそれまで微動だにしなかったローブが動き、コウに向き直ると空気を震わすような音波で言葉が紡がれた。


 今いるここは、コウやその家族たちが住まう島であった。

 そしてこの不可思議な存在はイール。

 島の大半を覆い尽くす森の中で幼少時に散歩していたコウが見つけ、2番目──スライムの王を思い出せないのでコウにとってはまだ1番目なのだが──に名を送った肉体なき魂だけの存在にして、おそらくこの島最古の者になる。


「久しぶり…カ? そういえバ近く会っタ覚えがナい? ……散歩に出ていタのカ」

「うん。20日は顔出してなかったから…えーとまあ月の満ち欠け一回弱ね。ちょっと過ごしたらまた出掛けてくるよ」

「そうカ……」


 イールは長いことこの森にいるようなのだが、会話が成り立つようになったのはここ最近の話。

 己を己とも認識していなかったようで、コウに名を付けられたことで周りも含めて認識し始めたのだが、知能は備わっていたようで返答に間があることを除けば今ではほとんど会話に支障はない。


「それで、ジオルの様子は? まだ当分起きないんだったっけ。今回は話したいことがいっぱい出来たんだけどなあ」


 それまでイールを見ていたコウは、傍らにある八つの岩に囲まれた意味ありげな中央の台座に視線を向けた。

 ジオルとは、2000年以上も昔に空より飛来し、そして今も唯一生き続けている始祖竜のことである。そこにある台座は、竜の寝所と呼称する空間とこちら側を繋ぐ門のようなもので、こことは違う別の空間で始祖竜ジオルは今眠りの時を過ごしていた。長き時を今も尚生き続けるための肉体の休眠期間になる。

 コウにとってはもうひとりの優しくて物静かなおじいちゃん的存在──こちらも年寄りじみてはいないので表現に困る──であり、目覚めの時を心待ちにしている。


「そうだナ…まダそのようナ感じハ受けられナい」

「…はあ長いなあ。ジオルが寝てからずいぶん経った気がするのに、5年経ってないんだ」

「……そういえバ、共に居タ頃ハ主ハもっと小サかったようナ?」

「そりゃあ、だってファイと初散歩して迷子になった辺りだから…3才頃の話だし、今7才だもん、大きくなってないと。…あれ、それだと後まだ1年は起きてこない?」

「ほう……1年ハ確カ12満ち欠けダっタナ。ナラすぐでハナいカ」

「…イールには分かりやすくそう教えてたけど、月の満ち欠け一回ってのは30回昼と夜があってだね…」

「…そうカ? 気づけバ形が変ワっているガ…」

「それはまあ、イール熟睡(?)してる時あるもん」

「ナラバコウも眠れバよいのでハナいカ」

「いやあ、今はちょっとやることあるから…」

「…そういえバそう言っていタナ」

「まあ数日はまだ居るし、また来るねイール」

「うむ」


 ひとしきり会話を交わし、散歩の続きとコウが去った後にはまたひっそりと佇むローブなイールが残される。

 異様ではあるが門番でもあるかのようなその光景は、島の住民たちには見慣れたものになっていた。




 ※ ※ ※


 四方を海に囲まれ、更に結界で外部との関わりを拒む竜の島。

 空より来た始祖竜たちで作り上げたここは、彼らのための安息の地(ゆりかご)

 元ある世界の有り様に煩わされず、こちらから影響も与えないようにあるこの島は、『来るべき時』を待つだけの不変の島と言えるだろう。


 『来るべき時』とは──始祖竜たちが空から来た要因である黒き神の竜、その目覚めに対しまた抗う日のことになる。

 2000年前の戦いで倒すこと叶わず厳重に封じるに至ったが、元が肉体を持たずとも朽ちぬ力ある神、油断は出来ない。

 それに対抗すべく始祖竜たちはこの世界に根差すことに決め、力の保持のため二、三百年程で己を転生させて備えているのだ。


 そんな竜の島だが、しかしそれ以外の者にとっては平穏で退屈な檻と同義と言えた。

 特にこの地で生まれた者たち──始祖竜の転生体からなる現竜神族と人間との間より産まれた竜人族たちには。


 島に結界はあれども絶対のものではなく、物や生き物やもちろん人までもが時折島に流れ着く。人ならざるこちらに怯えた者たちは気絶中に適当な陸地に放り出されていたが、強者変わり者も中にはおり、この地での往生を選んだ人間は3人は居たという。

 竜神族は空よりここに来る前はもともと人と在った種族。ゆえに残りたいと言った彼らを追い出すまでの気概はなく、生活に不自由していれば手助けをするほどに面倒見も良かった。

 想いを通わせれば竜神族と人との合いの子である竜人族が生まれるわけだが…彼らの能力は人よりやや上を行く程度、神を警戒し抗う役割は課されていなかった。ただ閉ざされたこの地に生まれ落ち、ここで過ごす意味も知らずにその生涯を終えていくだけ。

 外を知らなければ出ようと思うこともないのだろうが、人のためにと整えた基盤やここ近年では活発な竜神族たちの手で持ち込まれるものもある。

 僅かながらももたらされる変化を彼らはどう思っているのだろう。今は笑えていても不満を抱かずにいることはきっとないはず。いつまで選択肢の無い世界(ここ)を幸せと思えるのだろうか。


 竜人族の両親より生まれ、だが竜人族ではなく竜神族と言うにもまた力量に難ありとされる第三の種、混血竜神族という括りにある私ローディスは、近頃この島の在り方に思うところがある──。


「あっいたいた、ロー!」


 物思いに耽っていた私を目覚めさせる元気な呼び声に振り向けば、そこには幾分活発な子供になったコウが、私が今いるここ──竜神族の住まう竜の家の屋根に乗り上がる姿があった。

 もともと甘え下手(個人的な心象だが間違ってはないはず)で物静かだったのが、2年ほど前に色々あって更に痛々しかったのを思うと、持ち直した以上に理想的になった今の姿には自然と笑みが浮かんでいく。

 今回の外出は良い出逢いになったようで何より。あのお嬢さんには本当に感謝だ。


「どうしたんだいコウ?」

「なんか変なの拾っちゃってさ、これなにかわかるかなって。イールに会った帰りに森で見つけたんだけど……ゴミかと思ったら生き物みたいで」

「む?」


 端から見ればただの布、だがコウが翳すように上げている手から離れ落ちない様に、それがただの布ではないことを知らしめた。


「でね、こっち見ると顔っぽいんだけど」


 見せられて確認できた黄色く灯る2つの点。コウの言う通りそれが眼なのか、こちらを窺っているような気配が感じられる。


「……これはイールみたいな魂だけの精神体かな? 初めて見るね。一体どこから……いや、風に吹かれて飛んできたか」

「あーうん。軽いし、ありえそう」


 完璧ではない結界はそれなりの高さまであるようだが、その高さを越えてしまえば真上は完全無防備とは散歩好きたちの談だ。それゆえに数百年に一度の海よりは外からのものの頻度は高い。


「皆にも聞いてみようか」

「そうだね」


 私たちだけではわからないので、屋根の下に居る住民たちにも尋ねることにしよう。あまり期待は出来ないけれど。




 ***


「なにこれ、へんなのー」

「変わってるわね」

「知らないなあ。なんなんだろうな」

「ちっちゃい不思議ちゃんですねぇ~」

「「どうでもいいな」」

「ネルエムひどいっ」

「あーっそうそうひどいと言えば聞いてよコウ、このあいだね──」


 人様式の木造建築物──三階建ての高さで二階構造のゆとりある空間となっている──の竜の家。

 コウを囲んで各々に感想を述べるのは、成人した人より少し小さい程度の統一感のない動物姿をした住民たちだ。

 鳥に蛇、あと四足歩行の細身な獣に、手足のよくわからない、けれども海では似たようなのがいるらしい平らな生き物や、双頭で首が長いがやや短足なものだったりと様々だ。

 それに加えて羽の生えた卵。今はノアに抱かれているファイとノアの子でディリムと名付けられたそれは…あれで動けて物を食べるのがなんとも不思議になる姿をしている。転生前の成体を知っている身としてはあれがこれかの衝撃を受けたほどに。

 どうやら幼生体の姿は共通でこうなるらしいが…となるとこれから生まれ来るウェリリたちの子ノンノもこれなのだろうか。ファイたちはあのまま転生したのに、親が揃えば子は子から始まるのか、起きたらジオルに尋ねてみたいところだ。

 ちなみに竜神族や混血種は外にある竜の寝所で竜姿で生まれ落ち、竜人族は人の母体から生まれるので人の赤子姿である。

 今の面子はこのような感じで、唯一の共通点は空を飛べることくらいじゃないだろうか。


 そしてコウが連れてきた謎の黒いものの話に戻るが、尋ねた結果はまあ予想通りのものだった。出無精な竜神族が集まったところで進展は望めるわけもない。まあそれぞれの性格に則った言葉は聞いていて面白いのだけど。

 そしてコウを囲んだまま本題から反れてあーでもないこーでもないと言い合いまでに発展するのもまたいつもの風景である。騒がしいのに慣れっこのコウも、左腕にまとわりつく黒い布生物を気にかけていた。


「んー、もうちょっとどうにかなんないかなあ……」

「なによ、邪魔なら取ればいいじゃないの」

「いやでも無理に引っ剥がすのは…怯えてる? ような感じでちょっと」

「じゃあ肩とか別の場所に移すとかすればいーじゃん」

「そうしてみても、なんでか腕に戻ってくるんだよね~」


 ノアやファイの言葉に答えて動かせば、黒い生物はコウの言葉通りに定位置の如く、それまでいた場所に時間をかけてじりじりと戻っていく。


「服越しより素肌がいいってことじゃないか?」

「あー、人の肌はすべすべだからでしょうか~」


 それを見ていたギィがぽつりと呟き、ウェリリがのんびりと共感の意を示す。


「そもそも精神体に感覚はあるものなのか」

「いや精神体なればこそ生気を地肌から吸い取っているとも──」

「っ!? てっめえコウから離れろヘンテコぉ!!」

「きゃあああコウちゃん平気なのっ!? 今治癒をきゃぷうぅっ?!」

「ウェリリっ! まっ待てファイ、落ち着けえっ!!」


 双頭であるネルエムの片方ネルの考察に家内は一気に騒然となった。

 直情でなにかとコウと一緒に過ごすことの多かったファイが短気を起こして暴れ出し、心配性で治癒の専門とはいえ急に動くとなにかをやらかすウェリリも慌てて駆け出したところやはり蹴躓き、基本壁役で仲裁に動こうとしていたギィもろとも転ぶ。

 本来はノアも行動派だがディリムを抱えているためか動かず、ネルエムは直ぐに動かず様子見から入るのでファイを止めるものは居ない。概ねいつもの展開である。


「結局逃げるのは俺だよねこれっ! ネルエム後で覚えててよっ、家壊れたら怒るんだからねっ!」

「…おい、ネルのせいで私も睨まれたではないか」

「そうは言っても身体は同じだろう」


 二階構造とはいえ行来の利便性を重視して作られたこの室内中央は吹き抜けで、逃げ手コウも身軽なため追いかけっこは縦横無尽となる。すぐに多くない家具が散乱、あるいは降ってきた。


「ふふ…この騒がしさ、コウが戻ってきたって実感するねえウィズ」

「そうですね」


 やや離れた位置で見守っていた私は、同じく距離を置き傍らで笑んでいるウィズに話しかける。ウィズもまた、私と同じく混血竜人族の生まれに当たる。

 混血種は人の血流れる竜の身に不完全な竜の力を宿した不安定な存在だった。

 平穏無事で済むのは稀。

 不安定な力に押し潰されて早逝してしまうか、異様な見目に家族の元には居られず竜の家預かりとなることが常であった。

 ウィズの場合は後者であり、左右違う眼の見目のその片方は混血種の特徴とされている禍々しげな金目。それを親に嫌悪された過去があり、自分の容姿を嫌う暗い子供だった。こうして笑えるまでに持ち直しているのは本当に喜ばしいことだ。

 そして何より皆の距離が近く、会話のある今が楽しくてしょうがない。

 竜神族は寛容ではあるが基本は好き勝手に生きて互いに不干渉、無関心な面が強かったのだ。つがい以外で会話をもち、互いの距離が近い光景は私が幼い頃にはそもそもなかったもの。


 そんな彼らが変わったのは他の存在が間にあったことだと私は思う。

 竜神族に近いが竜神族ではない混血種は、彼らにとっては庇護対象に成りえたのか常になかった気遣いがあり、交流が生まれたのだ。

 そして近年ではコウがとりわけ皆と波長が合うらしく家では誰かしらがコウを構う姿が見受けられ、もう会話の無かった昔が嘘のよう。皆が集まればじゃれあいと軽く言えれないくらいに色々と物は壊れるのだが、まあ、仲が良いのはやはり良いものだ。

 ちなみに家の修理役は人化出来るものに限っている。でないとむしろ破壊されてしまうからね。まあそれを期に増改築したりして、また楽しんでいるのだけど。


 彼らの輪の中心に居ることの多いコウだが、あの子も金目ではないが混血種に当たる。と私は思っている。竜人族の両親を知っているし、竜姿で生まれたのも見ているからだ。そして問題が起きて親元を離れるのも混血種の特徴…と言っていいものかどうか。

 緑目にも何か意味があるのか、私とウィズも金目でないもう片方は緑目をしている。金目を隠せば揃いの色は家族みたいだと話に上ってからウィズも片目を隠すようになったり、私も元々力の安定のために金目を封じていたのだが誇らしく思えたりして──ちなみに竜神族の者たちは毛並みと同じ色の目をしているが、こうして見ると個を主張してるようにも思えるな。




 ※ ※ ※


 それからなんやかやあり、謎の布の子はコウが付けたシェルという名で受け入れられた。

 頑なにコウから離れないためどうしようもなかったとも言うが、まあ大して言葉を発しないので今のところは空気のような扱いだろうか。

 発しても呻き声のようなものしか言わないことから、まだシェルは生まれて間もないのではないかと思われる。


 一体どんな生物で成長を遂げるやらだけれど……しかし最近のコウは厄介事に当たりすぎではないだろうか。

 ただでさえ本来は竜神族にとって戦敵であるはずの神の魂を抱えているのに、人の地の問題に巻き込まれ、これからまた謎の生物を育てる羽目になっている。

 混血竜神族は何かしら必ず不幸に見舞われると言われてきたが、これほどにまで回数を重ねた者はいない。いつになったらコウの周りは落ち着くのか──それともまだこれらは大事の前の小事なのか。


 コウの周りが落ち着かないように、竜の島にも常に無かった流れのようなものを感じている。遠からず、また何かが起こる気がしてならない。

 この穏やかな生活は、もうそう長くは続かないのだろうか。


「あれ、またローが耽ってる。珍し~」


 物思いに浸っていたら、またコウが屋根下から顔を見せ上ってきた。


「失礼だなあ。私も島の長やってるんだから悩み事はあるよ」

「そっか。でもそこは俺の定位置ぽかったからなんか不思議」

「ここに居たくなるのもわかるよ。色々見渡せて、物思いに耽るにはいい場所だ」

「風も気持ちいいしね」


 私たちがいるこの竜の家の屋根上は絶好の日向ぼっこ場所であり、竜の島の情景をある程度一望できる所だった。

 そしてここ2年程はコウの黄昏場所でもあり、他の者たちは遠慮気味だった流れで今は私が考え事をする気分転換にも使わせてもらっている。


「で、悩み事ってどんなの?」

「うん? まあ色々ね。ここはこのままなのか。このままでいいのか。外を知らず生きる彼らは幸せなのか、とかね」

「あー。過去にあったみたいに不満爆発されて大事になるよりは、その前に促してみた方が良いかも知れないよね」

「コウもそう思うかい?」


 コウの言う話は私も生まれていない随分昔のことになるが、その時は漂着した外来人がきっかけで数人の竜人族が島を出て行ったという。島で保管していた封玉を持ち出して。……封玉はまあ、もう手元に戻ってきたようなものなのだが。


「……その時は、私たちもこのままでいられると思うかい?」

「え? んー? 今まで通り、ここはこんな感じじゃないかなあ。みんなが変わるとは思えない」

「……そうだね」


 コウの言う皆は竜神族であるファイたちのことだと察し、求める答えではないが彼らはそうだろうと同意をした。彼らには役目がある。だからここに残るのは当たり前で。

 でも私たち混血種はどうなのだろう。そして役目を終えた後の彼らもまたどうするのだろうか。近頃は先の不安を思い抱くようになってどこか寂しさが募り、でも年長者としてそんな弱音はどうにも言えなくて。


「ねえロー。竜人族の人達を外に出すなら、ここの結界張り直させてもらってもいいかな? あ、実力つけてからの話になるけど」

「…結界を?」

「うん。あの人達が居なくなったら後は俺たちだけでしょ? みんな刺激は嫌いじゃないけど変化は求めてないし、本格的に余所者は来れないようにしちゃった方がいいと思うんだよね。そしたらウィズも気兼ねなく外を歩けるだろうし、むしろ歩かせるけど…ネルエム達だって島を自由に飛び回れるよね? みんな絶対燻ってるだろうから発散させてあげたいんだ。みんなで島中使って駆けっことかなんてしてさ……あれ、すごく楽しそう。家の比じゃないくらい楽しそうじゃん。うわあ、なんか走りたくなってきた~!」

「ふふ。そうだね、楽しそうだ」


 思いがけず語られた私たちだけの島暮らしの話はとても魅力的なもので、寂しさを払拭するどころか笑みまでこみ上げる。


 内部事情として、竜人族と竜神族は同じ島に暮らしながらも極力関わりを避けることとしており、ならばと竜神族たちは出歩くのは面倒と極論に至って家に籠り気味だ。そういう面もあってこちらに回ってきた長という立場も、力を満足に振るえない私には荷が重いばかりのものでそれから解放されるならありがたい。

 そしてなによりもずっと、私たちがずっと一緒であることを語るようなコウの言い回しが嬉しかった。

 混血種は総じて肉親との幸せには恵まれておらず、絶対的な拠り所に憧れがある。私だってそうなのだ。ファイたちがいて、(出来れば手の届くところに居てほしいが)コウもいて、叶うならずっとこんな風に幸せな中で没したいと、そう思っていたが……この地に生を受けて百数十年。混血種の寿命も長く生きた例がなく、私が随時更新中のなかで新たに提示されたひとつの目標()は、これ以上なく私をやる気にさせてくれるものになった。


 とりあえず走ってくるという小さな背中を見送り、これからのことを思う。

 散歩好きなコウは近々また島を出ていく。

 あのお嬢さんの元でどんな日々を送るのかはわからないが、コウが望んで行くのだ。好きなことをして笑顔の多き日々をと願うばかりなのだが──その数日後に、"未来さき"を語る前に、まだ"今"が終わっていないと知らしめる知らせが届き、つくづく巻き込まれ体質らしいあの子の行く末を案じざるをえなかった。





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