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お姫様と魔物少年  作者: あしあと
3章 
27/29

不在の彼と帰ってきた先生

久々更新&短めですみません。

 

 コウが家族と共に城を去って二日。

 まだ二日目にして、私はすっかり退屈を味わっていた。

 昼前はいい。講義という何気に習慣付いてたらしい暇潰しがある。でも、昼食後からはとても暇。

 ジィギさんたち魔物たちはコウがまた戻ってくるということで城に残っている。でも訓練所に顔を出してみても、コウがいないせいかジィギさん以外どこか余所余所しかったり挙動不審で居心地は良くない。話し相手兼唯一の通訳となったジィギさんが走り込みに夢中になるとほんとにもう居場所がない。

 他の人に話しかけるとなると仕事の邪魔になるし、そもそも王女という立場の壁でそこまで親しくないし距離があるしでもうコウが恋しくてしょうがない。

 どうしようもなくなると、最終的にはコウとよく過ごしていた図書室や客室に行き、イスやベッドでごろごろとひとり唸っていた。


 まだ五日は確実に帰ってこないのに、既に待ちきれないんだけど。午後のことを考えると、もうゆううつだよ。


「あ、姫様ここに居たんですね」


 今日もどうするかと食堂でちびちびと昼食を口にしていると、アデイルが私を探していたらしく呼ぶ声があった。


「良かったですね、朗報ですよ。アリィシア様が戻って来てます」

「えっ、ほんと? シア先生帰ってきたの!?」

「ええ、たった今陛下に挨拶し終えて部屋に向かったところで。これであいつがいなくても少しは退屈しなくなるんじゃないですか?」

「うんっ」


 そうとなればと私は目の前の物を平らげると、直ぐ様シア先生の部屋──魔法部屋へと向かった。



 ※  ※  ※


「シア先生ー!」

「あっミィちゃーん!」


 部屋に駆け込むと、シア先生が両手を広げて出迎えてくれたので私はそれにむぎゅうと飛び付く。

 シア先生のフルネームはアリィシア・ラヴィアン。私の魔法の先生です。


「ただいまーごめんねぇー、長く空けることになっちゃって! ソーンエイルで魔法に関する新事実を公表するって話を聞いちゃって、ついそっちにまで赴いちゃったものだから……」


 ひとしきりぎゅうぎゅうと抱擁し合った後、これお土産よ!と可愛い包装のお菓子袋を渡された。

 ソーンエイルとは、別名職人の国と呼ばれる、主に魔力を必要としない物を作り出す人たちが集まった国のこと…だったかな。元は魔法の国スゥシェルで力に恵まれず迫害にあった人たちが集まって作り上げた、魔法に頼らないがモットーの国だとか。

 最近の授業の賜物です。


「新事実って?」

「魔法は自分達の魔力だけで生み出しているものではない、という話よ。今まで日によって──いえ正確には月毎だったわね──によって魔法の効力が違うのはなぜなのかって研究がずっとなされていたんだけれど、ソーンエイルは暦の元になったと言われている夜色の魔木に注目していたのですって。そして空気中の濃度を測定する機械っていう装置を作り出して、五年ほど観測したって言うの! あの検証結果は誰もが納得する出来だったでしょうね」

「きかい。」


 専門的な話に思考が流されそうになるがふと聞き覚えがある単語が耳についた。

 きかいとはジィギさんが喋れるようになったものじゃなかったっけ。

 ……待って、ソーンエイルって海を渡らないと行けない国じゃなかった? たしかシルヴァニアの西にある島国がそうだった気がする。何気にジィギさんも並みじゃない旅してるう。


「でもそうなると、初めに夜色の魔木を元に暦を考えた人がすごいのかしら? 考えて付けたのだとしたら──ああ、ミアちゃんにも早く教えてあげたいのに! なんでミアちゃんはここにいないのぉ!」


 考えを飛ばしてた私もあれだけど、シア先生も自分の話に夢中だったみたいでまだ語り続けていた。


 シア先生の言うミアちゃんとは、私のお母様のこと。

 二人はお互いの名前を下二文字で呼び合う仲で、その呼び名は私にもそう呼んでねと強請るくらい先生のお気に入りらしい。

 十代の頃にお母様は魔法を学びにスゥシェルの学校に留学していたことがあったそうで、そこからの付き合いになるという。

 私がシア先生に教えを受ける頃はもうお母様は姉様と城を出ていたから、全部シア先生から聞いた話になる。


 シア先生は黙ってれば黒髪黒目の清楚系なお姉さんって感じの美人さんだ。

 そして昔は見た目のままに大人しい子だったという。

 それで髪目共に黒というのはまた世の中では珍しい組み合わせで、しかも得意属性を示すセカンドネームが闇だったことも手伝って学生時代はいじめられがちの生活を送っていたらしい。

 今の明るいシア先生を見てると想像出来ないけど、仲間はずれにされて一人寂しくしてた時にお母様が助けてくれたんだって。

 そんな力説された出逢い話はまだ記憶に新しいよ。それこそ今みたいな魔法談義のような熱の入りようで語られたし。


「はあ、ミアちゃんに会いたい。元気にしてるかなあ。寂しいよう」


 そして散々語って最後に行き着くのはいつもこの言葉だった。

 ここ数年は文通だけで会えていないみたいから、聞くたびに重みが増してる気がする。

 シア先生は本当にお母様が大好きらしい。


「元気そうだったよ、お母様」


 そんなシア先生を元気付けたくて、私はお母様の様子を教えた。


「えっミィちゃん、ミアちゃんに会ったのっ? いつっっ!?」

「シア先生がいない間にね。ちょっと、城を抜け出しちゃったの」


 私はシア先生がいない間、あったことや抜け出た理由を話していった。

 森歩きが大変だったことや、怖い男の人たちと出会ったこと。そして、コウに助けてもらったこと。……勿論コウの正体は伏せたけど。


「一人で行ったって、またミィちゃんも危ないことしたわね~。無事みたいだから良かったけれど……。それで? 魔物の襲撃がリィちゃん狙いだっていう話だけど、どうしてそうわかったの?」

「倒した魔物のなかから魔石が出てきて、姉様が居なければって言ってたの」

「魔石が、そんなことを?」

「そうみたい。そういえば先生はあまり向こうのことは知らないの?」

「うん、ミアちゃんからは何も。ただ元気にしてるよって。……どうせ会えないのだし、心配かけまいとしたのかもしれないけど、なんか寂しいし、悔しいなあ」


 しみじみと寂しいと呟かれる言葉に、私もふとまた寂しさを思い出した。コウも早く戻ってこないものかなあと一緒になってため息もついてみる。あっちは何してるんだろう……。


「そういえばミィちゃん、助けてくれたっていう人とはそれからどうしたの? それきりになるの? ちゃんとありがとうは言った?」

「今はいないけどあと何日かしたら戻ってくるよ」

「え、戻ってくる?」

「うん、いつの間にかここで働くことになっちゃったみたいで。

 あのね、その子すごいんだよ。森の民とかいうのでね、動物や魔物と話せるの! あそこでのこともその子が解決してくれたようなものなの。でもびっくりだよ~魔物たちは操られて襲ってきてたんだって」

「…魔物が操られて? そんなことってあるの?」

「うん。ちっちゃな石だったんだけどね、それを取り出したら魔物さんも大人しくなって。その魔物さんはすごく強そうだったけど話せばわかるひとで戦わずに済んでね、今では仲良しで…あ、実は今その子供も城に居たりしてね──あれ、どうしたの先生?」


 楽しく語っていたけど思った反応が静かになってきて先生を伺うと、何故だかシア先生は深刻そうな顔をしていた。


「ミィちゃん…あの、あのね。私もね、最近おかしいなって思うことがあって……気がついたら変な場所に居たり、知らないものを持ってたりすることがあるの」

「え?」

「生き物を操るようなものがあるなんて信じられないけど……でも聞いてて、なんか他人事じゃない気がして。何かの病気かなとも思ったんだけど…そういう可能性もあるのかもしれないのね。でもこんなこと誰かに言って信じてもらえるのかどうか…言ったら変な目で見られるんじゃないかってずっと怖くて……ミアちゃんには相談したくても会えないし……」

「先生…」


 突然の話に驚いたけど、胸元でぎゅうっと両手を握りしめるシア先生は姿は本当に心細そうで不安そうだった。なんとか励まそうと焦ったけど、ふと丁度近くにすごく頼れる存在がいたことに思い当たり、私は自信を持って先生に告げる。


「シア先生待ってて。あと数日したらコウが戻ってくるから相談してみるよっ。きっとなんとかしてくれるっ!」

「……そう、なの?」

「うん。だから元気出して」

「…ありがとうミィちゃん。私の方がお姉さんなのに、みっともなく弱音吐いちゃってごめんね……。でもミィちゃんはその人のこと、すごく信頼してるのね」

「うん、すっごい頼もしいんだよ。だから期待してて」

「ふふ、わかった……あと数日かあ。じゃあそれまでミィちゃんもあまり私に近付かないように、って言いたいけど…それは先生が寂しくなるから、だから気を付けるようにしてね? 何かおかしなことをしていたら周りに言って。ミィちゃん自身が止めようとしちゃだめよ?」

「うんわかった」


 ──それからの私はいままでのようにシア先生といて、でもいつもより先生を注意して見るようにしていた。

 不確かな話じゃ信じてはもらえないだろうと、この話はコウが来るまでは二人だけのひみつだ。

 ジィギさんたちを紹介して魔物の顔ぶれの多さに先生を驚かせたりしながら、魔法の使い方のおさらいや雑談で日々は何事もなく過ぎていく。




 でも新月を迎えた月始めのその翌日のこと──突然、異変は起きた。


「──わたし、は……?」


 今いる場所を、今ある景色を知っている。目の前にいる人も知っているはずだった。

 それなのに……わからない。

 何も言葉が出てこない。

 自分の名前すら、口に出来なくなっていた。


 起こしに来た人と対面して、私は記憶障害というものになっていたことを知った。




ぐるぐる考えてた結果、悪役は第三者にお願いすることにしました。

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