コウの家族
三章というか終章、開始です!
ヘンリーが自分の国に帰って3日が過ぎた。
少し寂しくなったけど、それでもシルヴァニア城の活気はまだ衰えない。
色んな人の声がそこかしこで聞こえ、時折ジィギさんの変な声も響き、毎日がすごく楽しい。でも、この日々もいつまでも続くわけじゃない。
コウがここを立つと公言してる日まであと7日。コウが居なくなれば、ジィギさんたち魔物もきっと去っていく。
魔物たちといる今が変なはずなのに、それまでの生活に戻るってことなのに、もう前を全然思い出せないし考えられない。
皆が去ったら、ここはどうなっちゃうんだろう。またコウたちとは会えるんだろうか……。
これからを思うと不安になるけど、でもひとつ良いこともあった。
「また来たの、ミリー」
それは、コウが名前を呼んでくれるようになったこと。愛称で、だけどね。
よくわからないけど呼ばれ手に影響を与えないようにってことらしい。
だからってヘンリーをエディと呼んでいたのには驚いたよ。誰?って思ったもん。別人の名前過ぎて私には呼べなかった。
私の居ないところで話を進めちゃってて、先にヘンリーと名を呼び合う仲になってたのはすごく悔しいが――まあ呼んでもらえるだけマシだと思うことにした。
なぜならアデイルはお兄さん呼びのままだから。
勿論アデイルは抗議したけど、コウはアデイルをお兄さんと呼びたいらしくて譲らなかった。年上に憧れがあるみたい。
でもやっぱり名前呼びって良いよね。距離が縮まった気がする。
これってもう友達になれたってことでいいんだよね。
友達になれたら、次は会う約束をしないとかな?
私は城からそんなに動けないだろうからコウに会いに来てもらうしかないんだけど、どうすればコウはまた来てくれるかなあ。
「ミリー、大丈夫?」
「えっ? えと、何が?」
「最近ぼーっとしてるというか、心ここに在らずってやつに見えるから。どうしたの? 具合悪い?」
「ううん、ちょっと考え事してただけ。私は元気だよ!」
「ふぅん……?」
いけないいけない。コウと居られる時間は残り少ないのに考え事してたらもったいない。少しでも多く楽しく過ごさなきゃ損ってやつだ。
――でも、別れは思ったよりもずっと早くやって来てしまったらしい。
「コウ、お前に客らしいぞ」
「客? ……俺に?」
今日の予定を確認してどう遊ぼうかと考えていた時、アデイルがそんな知らせを持ってきた。
「顔に包帯巻いた藍色の髪の男性と、空色の長い髪の女性の二人。コウの家族だって名乗ってたぞ」
「顔に包帯の家族……ってはあっ?! 嘘でしょっ!?」
「……その様子だと心当たりはあるんだな」
「あるけど、すごく信じられない。というか信じたくない。何しに来たんだろ……?」
コウは今までにないくらい呆然とした様子で動けないでいるみたい。
「その人たちはコウとどういう関係なの?」
「言葉の通り、家族だよ。他に人型の知り合いとは関わりないし、その特徴からもまず間違いない」
「家族……」
それは、もしかしなくてもコウを迎えに来たってことなんだろうか。
でもそう口にするのはなんだか怖くて、アデイルについて歩き出したコウの後を私は何も言えずに追いかけた。
***
「や。久しぶりだなあコウ」
「久しぶり~って言うほど家を空けてほしくないんだけど久しぶりねコウ! 元気そうで何よりだわ。でもまさか人と居るなんて思わなかったわよ?」
案内された室内に入ると、優しく落ち着いた感じの声音で話すのとは裏腹に片目を覆うように包帯を巻いた見た目が痛々しい男の人と、はきはきと明るく話すスラッとした立ち姿につい目が行くようなメリハリボディの美女さんが私たちを出迎えた。
この人達も人姿での振る舞いに違和感が感じられないけど…コウの家族ってことだしドラゴンなんだよね?
「久しぶり、っていうか……やっぱ、ローとノアなんだね。なんで、ここに?」
「ご挨拶だねえ、お前の様子を見に来たとは思わないのかい? ――なんて話は通用しないか。けれど、そこを欠片も信じないのは私らに対して失礼だぞ。心配してないわけじゃないんだからね?」
「…で?」
男の人の弁明に対してコウは大して取り合わず、呆れの眼差しを向けたまま先を促す。
「こほん。用件は一先ず置いておいて、そちらの子達と先に挨拶させてくれ。それこそ失礼だろう?」
咳払いの後、男の人はそう言って言葉を切ると私たちへと向き直った。
「はじめまして、私はローディス。コウの祖父のような者だ」
「あたしはノア。あたしはええと――主婦ってやつなのかしら? よろしくね、お嬢ちゃんたち」
ローディスさんという人はコウのお祖父様だったらしい。コウに似た緑色の瞳はとても優しげだ。
ノアさんと名乗った人は…母とは言わなかったから親じゃ無いみたいだけど、でもすごく親しげ。
「はじめまして、私はミリア・ウィシュルム・シルヴァニアと言います。ミリアと呼んでください。一応、この国の王女です。よろしくお願いします」
「私はアデイル・シーリです。副団長兼姫様のお目付け役をしております。よろしくお願い致します」
「そう堅くならなくて良いよ? 楽にしてくれて。急な訪問にも関わらず受け入れてくれてありがとうね、エリオル殿も」
「は、いえ…」
ローディスさんが声をかけた先に、なんとお父様が座って居た。……言われるまで全然気付かなかったけど、そういえば案内されたここはお父様の私室の一つだった。
にしてもお父様の表情が堅い気がする?
お父様にはコウがドラゴンだという話はアデイルから行ったと思うので、コウ以外のドラゴンが来ちゃってひょっとして緊張してたりするのかな。
「それで、わざわざ人の地に来るほどの用件ってなに?」
「それがねえ、うちのアホが帰ってこないのよ」
「それで風を頼った所、人に捕まったという話を聞いてねえ。どうにか穏便に回収出来ないかとお前を頼りに来たんだよ」
「……はぃぃい? ちょっ、なんでそんなことになったのっ? 子育て頑張ってるはずじゃなかったのアイツっ!?」
「頑張っていたのはノアだけであれはほぼいつも通りだったねえ。で、宥め役のお前がいないから怒ったノアが家から追い出したきり、戻らず今に至ってしまったというわけさ」
「ったく方向音痴なんだから軽々しく島から出るなって言うのよ、ねぇ!」
「はあ……ここにローがいる理由は一応納得したけど、ノアはここにいて良かったの? 子供は?」
「ディリムはウェリリたちに預けてきたわ。あの子達ももうすぐ授かる時期だし、一足早い体験よって言ったら快く引き受けてくれたわよ?
でもまぁそもそも、他にあたし以外に外を出たことある奴らはいないし、人の地ってなれば化けられるあたしかウェリリしか行けないし、それに加えて長の護衛となればもうあたししか適任なのがいないでしょ」
「私は一人でも大丈夫なんだけどねえ」
「そうだとしても何かあったら困るんですよ」
「というかローは戦えるの? なんか、記憶に無い、かも」
「その機会もないからねえ。でも私だってちゃんと戦えるんだよ?」
「その後が大変なんですから大人しく守られて下さいな」
「うむむ、半分以上も年下の子にこう言われてしまうのはどうなのだろうね……」
ぽんぽん飛び交う話を聞いてて思ったけど、すごく家族仲が良いよね。これがコウの家族なんだなあ。
「それで、アホが人に捕まったのは確かなんだね?」
「ああ。情けないことに餌に釣られて捕まったようだよ」
「人の作るご飯は美味しいものねぇ。でも、無いわあ」
「無いよねえ」
「見捨てても良いレベルだと思う」
そう言って互いに目を合わせる姿は本当にそういう結論を選びそうだった。
でもその後は今はこの辺り、場所の説明が難しい、じゃあ地図を、と救う方向に話し合っていたので見捨てることにはならないと思う。思えば、それならここに来ることも無かったはずだもんね。
ちなみに二人もカラフルな地図を見て感心の声をあげてた。
そうしておおよその場所の特定をして国内にいると判明した頃、ハーレイ団長が部屋の扉を叩いて顔を出した。
「エル、ちょっといいか? レクターが面白いものを捕まえたって見せに来たんだが」
「面白いもの?」
「言葉を話す赤い鳥だ」
「えええっ!?」
「あら、ナイスタイミングだわ」
「こういうこともあるのだねえ」
言葉を話す赤い鳥。三人の反応からするにそれが探し人の姿らしい。……それにしても赤い鳥って、どこかで聞いた容姿な気がする。どこでだっけ。
ローディスさんがお父様にこの部屋に招き入れてくれるように頼んで数分、外から話し声が聞こえてきた。
「ほんとーにこの件が終わったら解放してくれんだよね?」
「おー。約束だかんな」
「ご飯くれるのも忘れてないよね?」
「はは、わーかってるって。ほんと食い意地すげーなお前」
「ぜったいぜったいだかんね!」
それは子供っぽい高い声をした誰かと、たまに城に訪れるレクターさんというお父様の友人の声。
話の内容は私にはよくわからなかったけどその声が聞こえた途端コウは頭を抱え、ノアさんは天井を仰ぎ、ローディスさんが笑む姿勢でその人たちを出迎えることになった。
「お邪魔しまーおお? お客いっぱいだな。どうしたんだエルこれ」
「っああーーコウだ!? うっそ、ホントに居たっ? なんでニオイしてたのか不思議だったけど納得! なになに、コウも捕まったのイッたあ!!?」
「あんた、あたしというものがありながら第一声がコウってどうなのよ…?」
「ひぇっ、ノアだ?! なんでっ!?」
「ノアっ、ここ人の家だよ抑えて抑えて」
「というか、突っ込むところはそこなのかねえ」
「えええ長もいるっ!? なにこれなんで!?」
「私がここにいるのはそんなにおかしいかなあ」
「おかしいじゃん! 出たこと無いじゃん!」
「あーちょっうるさいっ! 話が纏まんないからファイは一旦黙れ!」
「ふぎゃふう!」
……何から言えばいいんだろう。とりあえず家族みんな個性的だけど仲が良いのはよくわかる光景でした。




