表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お姫様と魔物少年  作者: あしあと
2章 賑やかな城生活
21/29

変わり者姫が運ぶ良縁

ヘンリー視点です。

 俺の名前はヘンリー・ジオール・ラグノイア。ここシルヴァニアとは山川を挟んで北東に位置する隣国ラグノイアの第三王子が俺の立ち位置。

 ラグノイアの通称は風に寄り添う国、だ。

 ここで言う"風"とはシルヴァニア国のことを指す。代々王同士が親しい間柄になるかららしいが、つまりはシルヴァニアの一番の友好国なんだ。


 でも誰もが知っていて、けれど公に口にはしないもうひとつの別称もある。

 それは風に"甘い"国。

 シルヴァニアが何をしても、何をされてもラグノイアは咎めず許す、そんな認識の。

 一番わかりやすい例を上げると婚約破棄だ。シルヴァニアとラグノイア間での婚約は必ず行われるが、かなりの確率で解消される。その理由として、シルヴァニアの姫が婚約者以外に惚れるからだ。そして、ラグノイアはそれを非難することなく受け入れる。

 毎世代起きるそれを咎めず付き合い続けるなど甘いと言われても仕方がないだろう。

 それでもラグノイアがシルヴァニアとの関係を切らないのにはわけがある。変わり者とも揶揄されるシルヴァニアの姫の選んだ相手は必ず何かしらの才に秀でており、醜聞が気にならないほどの恩恵を得られるというのだ。これはラグノイアの王族の中でもその立場になったものしか明かされない機密事項。

 つまりそれを知ってる俺は、今のその立ち位置にいるということだ。


 ミリアと会ったのはお互いが七歳になる年だった。本当はもっと早くに会う予定だったけど、その頃までのミリアは姉である第一王女の死亡理由を知り荒れていた時期でもあったので延ばされていたんだ。

 でもこの婚約は俺も乗り気じゃなかった。本来のその立場は双子である兄二人のどちらかにあったものだから。第一王女が生きていたら行われたであろうそれは、兄上達とミリアの歳の差が考慮され、ミリアと同い年である俺に話が向けられたのだ。

 知に長けた真面目な長兄、ふらふらしてるけど周りに文句を言わせないレベルはこなせる次兄。

 俺はいつも比べられ、残念な物を見る目をされてきた。自分なりに頑張ってきたけど、でも褒められることはなかった。

 その上高い確率で破棄される婚約話を受けろだなんて、また馬鹿にされる要素が増えるだけだからすごくイヤだった。だって惨めじゃないか。


 散々抵抗したけど結局その座に収まってしまったのは父上が良い出会いをもたらすからだと必死に説いてきたからだった。昔の父上も悩ましい立場にあったらしい。

 今のシルヴァニアの国王であるエリオル様と出会い、その過程で王妃である母と出会ったと体験談を聞かせてくれた。伴侶と引き合わせてもらえるかは確実ではないけど必ず良い出会いがあるんだ、と過去の例も聞かせてくれた。

 父上は塞ぎがちな俺にこそ世界を変える出会いをさせたいと勧めた。姫に惚れた場合でも頑張れば結ばれられるという言葉も添えて。

 良い出会い云々は疑わしいと思いつつミリアに惚れるなんてこともなかったけど、でも伸び伸び生きるミリアといるのは肩の力が抜けていい息抜きになって、それだけでもこの日々は悪くはないと思えた。


 そして婚約者となって三年以上の月日が流れた今、これという出会いを果たす。

 王様との挨拶を中断させてまで連れられた先で、ミリアが少年を紹介してきた。城を抜け出した時に出会ってお世話にもなったという、コウという名の魔物の子供。

 魔物を招き入れるなんていくら変わり者と言ってもシルヴァニアの姫史上初なんじゃないだろうか。しかも魔物は魔物でも昔話で語られる程の相手、ドラゴン。

 共存していたような話があったにしてもちょっと大物過ぎやしないだろうか。というかこれって、コウがミリアの伴侶ってことになるのか……?


 ミリアは友達感覚で追いかけてるようで、コウは話しかければ快く応えるけど、でもそれは誰にでもそんな感じで、気にかける比重は魔物寄り。そんな仲になりそうにはまだ思えない。



***


「はぁ~すごい眺め」

「風が気持ちいいね~」

「タリムも乗せられたら良かったのになぁ」

「無茶言わないでくれる」


 俺がラグノイア城へ戻る日の前日――つまり今日なんだが、ミリアがまた無茶ぶりを発揮した。曰く、コウの背に乗って飛びたいと。ついでに姉君に会いにも行きたいとの言葉も添えて。

 コウは日中飛ぶのは気を付けないといけないことが多くてめんどくさいとすごく嫌がったけど、短時間なら会いに行っても誤魔化しようがあるとか、俺が乗ったこと無く今しかチャンスもないだろうことを引き合いに出してミリアがお願いを押し通し、今現在は空の旅に。

 普通に生きてて空を飛ぶなんて経験はまず出来ないからコウには申し訳ないなとは思うけど、この状況を作ってくれたミリアには正直感謝だ。


「あ、見えた~! なんかあっという間に着いたね? こんなに近かったんだ」

「何回か通ったし、進む方向がわかれば空の旅はわりと速いよ」

「え、通ったって、いつ?」

「夜中」

「夜中? え、部屋で寝てるはずだよな?」

「寝てるけど、夜中にまた起きるからその時にね」

「じゃあ夜飛んでるの? ずるーい!」

「ずるいって何……そもそも空は飛んでないけど? 走ってだし」

「――走ったって、この距離をか? ……夜間で(往復しきったと)?」

「走るのは嫌いじゃないし」

「…タリムに下から来いと言ったのわかった気がするわ。こりゃあこの先苦労するなぁタリムは」


 ミリアの護衛騎士としてよく関わるアデイルはそう遠い目をして呟きをこぼす。向かう先にはタリムの母親もいるらしいけど、でもしっかり捕まれないタリムと俺達とを同乗させて飛ぶのはまだ不慣れだからとコウは森を行くように言っていたんだ。

 下を行くメンバーはタリムとその護衛?にハイドと黄色さん改めキラの三人だ。ジィギは道がなければ森は枝が引っ掛かって通れないそうで、マルファはそれに付いて留守番をしている。


「おにいちゃん3日ぶりー!」

「あらまあほんとに。ククイットから知らせを受けてたけど驚いたわ。またお馬鹿が無茶言ったんでしょ、ごめんなさいね」


 地上に降りると、髪を所々跳ねさせた元気そうな女の子と話にだけは聞いていた王妃様の出迎えを受けた。


「ところで3日ぶりってどういうことサリナちゃん?」

「おにいちゃんたまによる来てたの~」

「ええっそうなのっ? 全然気付かなかった。起こしてくれたら良いのに」

「おにいちゃんのすがたのときはわかりにくくて、サリナ気のせいだと思ったの」

「それでも一人で出歩くなんて危ないじゃない」

「カーラママがいるから平気だよ?」

「――人の保護者を連れ歩くようにしようねえ、サリナちゃん」


 色々わからない話が飛び交ったが、そこは気配り上手なコウが気が付いてくれて補足してくれた。ここは今タリムの母親魔物の縄張り(保護下)になってるらしい。


「あれ、そういえば姉様は?」

「リーナはねぇ…まだちょっと取り込み中じゃないかしら」

「取り込み中?」

「あっち」


「迷惑です。もう帰ってください」

「なんだよ、まだ来たばっかだろ。つれないこと言うなよ」


 王妃様が指し示した先には何やら作業中の黒い翼を背負った金髪の女性と、言い寄ってるらしい赤茶けた髪色の男――それぞれまだ大人とは言えない外見の二人が揉めているようだった。


「もうっ毎度毎度貴方の相手してる暇はないんですってば――ちょっ、勝手に何して」

「ただ見てるのは俺の性にあわないしそんなん邪魔だろ。一人より二人でやった方が早く終わるし手伝うわ」

「だからって貴方に頼むことでは」

「ほらほら手ぇ止まってると俺一人でやっちゃうぞ。――まあ、言い返せるくらい元気になったのはなによりだがな」

「……っ」


「――って感じなわけよ」


 お邪魔しちゃ悪いものねえ、と王妃様は微笑ましく見守っていた。

 それにしても黒い翼の女性の方がミリアの姉君だとして、男の方も、気のせいかと思った声にやっぱり聞き覚えがあるような。

 赤茶けた髪の知り合いというと……ぱっと思い浮かぶ相手は一人しかいない。そして聞こえた声とその声は合致してる気がする。でもそれはさすがに信じられない相手だった。


「セキ、なのか?」

「あ? ……およ、ヘンリーじゃんか。なんでお前ここに居るんだ?」


 それはこちらの台詞だと言いたい。けど驚きすぎて言葉が出せない。


「あの人ヘンリーの知り合いなの?」

「――セキ・フレス・ラグノイア。俺の兄で第二王子、だ」

「へー、お兄さん」

「王子様…(また王族との関わりが増えた)」


 各々で紹介したセキを見る態度の違いは気になるがまあ、置いといて。


「セキ、こっちはミリアでこっちがコウ。こっちの大人がアデイルで、シルヴァニアの姫とその連れだ」

「おおっ、じゃあ君はリーナの妹なのか? よろしく! 俺のことはお義兄さんと――」

「呼ばなくていいからねっ!」


 ミリアに握手を求めかけた手を姉君であるらしい女性が叩き落とす。

 さっきの様子からしてセキはこの人に気があるらしい。

 しかし一体いつからここに来てるんだろう? というかここからラグノイア城ってどのくらいの距離だ? いくらふらふらしているにしても程があるんじゃないか。


「にしてもお前らいつ来たんだよ? 全然気付かなかったんだが」

「ついさっきだけど」

「ええっ、そうなの? 私も気付かなかったわ。知ってたら出迎えたのに」

「それで当然というか、気付かれたら困るんだけど……やっぱサリナちゃんパワーなのかなぁ」

「ん?」


 傍にいた俺がかろうじて聞き取れるような声音で、コウは複雑そうにサリナちゃんとやらを見ていた。


「完璧かは置いといて、不可視の魔法はかけてるんだから少なくとも目の前に来るくらいまでは見付けられないはずなの。あるいはこちらから声をかけるとかね」

「……それであんな小さい子がそれに気がついたと?」

「一番に話しかけてきてたでしょ」


 思い返して、元気一杯な挨拶をする女の子の第一声を思い出す。

 銀髪に青い瞳というこの辺りでは見かけないような色合いの、まだあどけなく可愛らしい女の子。でもそんな子がコウの魔法を破ったとか信じられないんだけど。


「それってひょっとして日中はいつもしてるのか? ほら前回の時とかも」


 アデイルも聞いていたのか口を挟んできた。アデイルもコウの背は初めてではないとのことだったので、その時の話らしい。


「してるよ。でないと大事になるでしょきっと」

「まあ、そうだなぁ」

「何が大事なんだ?」

「ぅわ、セキっ?」


 気付けばすぐ傍にセキがいた。その顔はとても不機嫌なのがありありと見てとれた。


「目の前で内緒話されるのは不愉快だというのを知らないのか?」

「わ、悪い」

「失礼しましたっ」

「ごめんなさい」

「……その反応、あんまり悪いとは思ってないだろお前」


 セキが何故か謝ったのにコウに突っかかった。


「そう見えたのなら謝りますけど、ちゃんと思ってますよ?」

「――まあいい。次からは気を付けろよ」


 そう言ってセキは話を終わらせた。一体何だったんだ……?


 それからタリム達が到着するまでは各々自由に過ごした。

 セキはやっぱりそう城を空けてるわけでもないらしく、あの問答から間もなく去っていった。姉君にはまた来ると言い置いて。

 秘密を伏せる相手が帰ったお陰でその後は楽しい時間を過ごせたと思う。

 けどその間、コウにはセキには気を付けた方がいいと釘を刺された。はっきりさせたいタイプに見えたから戻ったら追求してくるだろう、と。

 それってつまり何か勘づかれたってことか? 何を聞かれるのかはわからないけどセキはやり手だ、まずいんじゃないかこれ。下手打ってコウに嫌われるのは嫌だぞ……。


 タリム達は母親が出迎えた甲斐あってか昼前には着いた。下から行かされた時は不満だったように見えたけど、どうやら機嫌は直ったらしい。

 しかしカーラさんはコウ並みにでかくて驚いたなぁ。……あれ、年下のコウがそれで驚くべきか? いやでもドラゴンだし、人姿は年相応みたいだからあれもあれで年相応?


 そして帰路は転移とは違った空間越えとかいう奇抜な方法で帰った。ハイドを連れてきたのにはそんな理由があったらしい。

 ハイドだけではハイドの作る輪以内の物しか無理らしくせいぜい子供サイズのそれをコウが相方役を担って輪を広げ、そうして無事全員森の湖のある場所へと抜け出た。

 潜れば別の場所とか不思議だけど、あれいいなあ。




***


「明日で王子様とはお別れかあ」

「そう、だな……」


 ミリアが部屋に戻った就寝前、静まった室内にコウの呟きが零れ落ちた。魔物姿に戻ったコウは吸い込まれそうな煌めきを宿した緑の瞳をどこかへと向けている。

 いくら婚約者の所に居ると言っても自国を空け続けるのは良くないので戻らないといけないが、でもこの目の前に迫った別れは怖い。

 俺は人で、コウは魔物で。そんな共存関係はそれこそコウが得た魔従士という役職名のように管理しされる間柄が一般的で、友達なんて鎖の無い関係はきっと認められない。

 そもそも友達って思ってくれてるのかもちょっと疑問だ。ミリアも不満がってたけど、名前呼びを改めてくれないんだよな。


「コウは、いつになったら名前呼びしてくれるんだ? 俺達は友達になれないのか?」

「うん? うーん……王子様たちの名前ってさ、それまんま名前だよね? 略称とか愛称、じゃないもんね?」

「略称?」


 お座り姿勢のコウの体にまわっていた尾の先端が音も立てずにゆらゆらと床を打つ。


「名前を呼ばなかったのには一応それなりに理由はあったんだよ。ただの言葉でも魔力は少なからず宿るんだ。

 でもって俺やその家族たちは付加しやすい体質っていうのか、それが特に顕著で。だからそのまま名を呼ぶといつか何かの影響が出る可能性があって……特に魔力に馴染み薄い人間に対しては気を付けた方がいいみたいでね」

「それで呼ばなかったと…魔物にはいいのか?」

「魔物は既に魔の者だからね。人が魔物化したら笑えないでしょう」

「なるほどな。つまり略称か愛称でなら呼べれると」

「うん」


 名前呼びどころか愛称呼び。一気に距離を縮めるかのような話は願ってもないが…これってちゃんとコウが俺と友達になってくれると思っていいんだよな? でも改まって聞くのは否定された時がきつい。それとなく確かめる術は無いものか……そうだ、愛称をつけてもらうのもいいのかも。


「俺を愛称で呼ぶとしたら、コウはどう呼ぶ?」

「うん? うーん…………エディ?」

「……一文字も名前が残ってないのはなんでなんだ?」

「ヘンリー→ヘリー→ヘディ→エディで、エディになった」

「なるほど……うぅーん、呼ばれたとき振り返れるかな」


 こう言っちゃなんだけど、別名過ぎて変わらなきゃいけなそうな気がしてくるんだが。


「あくまでも愛称だし深く考えなくてもいいんじゃないかなぁ。反応無かったらちゃんと名前を呼ぶし?」


 メリハリというやつだろうか。

 しばらく悩んだけど、せっかく考えて貰った名前だ。エディと連呼してもらって俺はそれを受け入れることに決めた。


 そして最後に、やっぱり寝る前に確認しておこう。


「俺は明日でここを発たなきゃいけないけどまた会えるよな? これでお別れってことは無いよな?」

「エディが魔物キラとちゃんと良い関係でいる間はいいよ。友達でいよう」

「…その条件がよくわからないんだけど、それって当たり前のことじゃないのか?」

「今はそう思ってても時が経てば人は変わるんだって」

「――その時は…コウは説得してくれないのか?」

「…その時になってみないとわからない、かな」

「そっか……そうだよな」


 この数日の付き合いで思ったけど、コウは本当、甘いだけの言葉は言わない。

 その時になってみないとわからないのはお互い様。そうならないように気を付けるのが俺に出来ること、か。



 翌朝、ミリアと朝食を共にした後コウや魔物たちにも見送られ、名残惜しくも俺はシルヴァニアを発った。

 そして。ラグノイアに帰還後、しっかりセキに捕まって疲弊したその夜に随分と早い再会を果たすことをこの時の俺はまだ知らない。


セキには落ち着いた様子で敬語を話すコウが子供らしくなくて引っ掛かったわけです。後は姫の浮気相手かとか突っ込まれたり?

なのでヘンリーはちゃんと秘密はばらしておりません。


ちなみにシルヴァニアがとても平和ということで、ヘンリーには10歳の時から送り迎え以外の護衛は城に置いておりません。 でも城下町にはいた方がいいんだろか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ