雑談小話集
小話三話。に一話追加して四話となっております。
♭ 信頼出来るもの
「ジィギさんの声って変な声だよね~」
「気にするところそこなんですか。喋れることにまず驚きません?」
「そういえば。なんでジィギさん喋れるの?」
《うむ、坊のおかげなのじゃ~》
「待って待って。その一言で片付けられるとすっごく誤解を招きそう。ちゃんと説明加えて」
ジィギさんの簡潔な一言に慌てたコウが説明の追加を求めた。
《人から音を発するキカイというものをもらって、坊がワシに合うように設えてくれたからこうして喋れるのじゃ》
「ってことだから。俺はただ付けただけだからねっ」
付けただけで自分がすごいわけじゃないとコウは力説してくるが、それよりも気になる話が出てきたよね今。
「今、人からもらったってジィギさん言った? 人と関わったことがあったの?」
「しかもまだ話も出来ない段階で、ってことになるよな? なんでそんなもの貰えたんだ?」
アデイルも不思議そうに問いかける。
《まあ散歩の賜物かのう? ――その頃は走ること以外に目を向けるようになったばかりでの、人の住み処を覗いたりもしておったのじゃよ。
いやあ、日中動かなければ意外と気付かれんものなのじゃなあ。あれは真に面白かった。
そんなわけで動くのは主に夜、まあ遅くまで起きてるような輩もいるからいずれは気付かれるがの。
そうしてばれたら場所を変え、人観察を繰り返していたある時、ワシに話しかけてきた者がおったのじゃ。……あれには本当に驚いたのぉ。いつも気付かれれば叫ばれて追い立てられておったから話しかけられるとは思わなんだ。
なんでもその者は早い段階でワシに気付いておったようでな、追い出すわけでも周りに知らせるでもなく、話しかけてきたその時もワシと話してみたいから作ったというキカイを寄越す為だと言うて……魅力的な話ゆえワシも乗っかったわけじゃ。
結局その段階では話をすることは叶わんかった。坊に設えてもらっての今なのじゃ》
「へぇ~、世の中には変わった人がいるんだねぇ」
「他にも居ることは居るんでしょう。姫様にそれを言われるのはなんか納得がいきませんが」
「そうだねぇ」
「つうか、お前も同類だからな? 知らん顔して同意してるが」
「え、そう?」
ジィギさんの面白長話を聞き終えて変わった人もいるなあと洩らすとアデイルには呆れ顔をされ、それに同意していたコウも何故か同じ扱いを受けていた。視界の端でヘンリーがうんうん頷いてるのも見えるので、二人には私たちがおかしく見えているらしい。
私は良くそう言われてるけど、コウは変ってより不思議だと思ってたので不思議だ。
「それで、その人とはどんな話したの? また会いに行ったんでしょ?」
《そうじゃなぁ、ワシも話すことを楽しみにしておった。……じゃが、辿り着いた頃にはもうその住み処は滅んでおって、人っ子一人おらん状態じゃったのじゃ。礼も言えず終いじゃ》
「えっ滅んでたのっ? ええっ、なんで!?」
いきなりの展開に声をあげるしかない。
「魔物に襲われた、とかか?」
《息のあった付近の木々に聞いた話では人同士の争いだったようじゃな》
「人同士……?」
アデイルの問いにジィギさんは淡々と答える。キカイとやらの声音なせいで感情が判りにくいけど、どこか怒ってるようにも聞こえた。
《意外に思うじゃろうが魔物にも生息区域というものはある。無用に踏み入らなければ襲われる率はそう高いものでもないじゃろう。何かあった時に人は人外へと目を向けがちじゃが……このような人の住み処では寧ろ人を警戒するべきじゃと忠告しよう》
「まあ、お姉さんのことが良い例だよね。気をつけなよお姫様たち」
そう注意を促したジィギさんに続き、コウも案じるような目を向けてくる。
人の方が危ないと言う魔物。
そう言ってくれる二人が今この場に居てくれることが、なんだかすごく、頼もしい。
「この場で一番信用出来るのは(人外の)コウ達ってことね。わかった!」
「…んん? ちょっと待って、なんでそうなった? それとこれとはまた別の話じゃないっ?」
コウはそれは違うと考え直すように言ってきたけど、私はしっくりきたその考えを変えることはなかった。
後々の答え合わせでヘンリーたちとも同じ意見だったしね!
♭ 人と暮らした魔物
「そういえばタリム達は日中どうする? 俺料理手伝ったり掃除手伝ったりしてるからあまり一緒にはいられないんだけど」
『りょうり? そーじ?』
「料理はご飯を美味しく食べれるようにすることで、掃除は住み処を居心地よくするために整えることだよ」
『へー』
《……坊は、すっかり人生活に馴染んでおるのだなあ》
「ん、なにか呆れるところあった?」
《うーむ…楽しんでおるようだから良いのではないか?》
「ジィギの旦那が言いたいのはあれだろ、魔物らしくないってやつ」
《まあ、そういうことだの》
コウの立ち回りの上手さに常日頃から私が思ってた疑問は、どうやら皆抱くようなものだったらしい。
「人に混じるのに抵抗もなさげだし、作業に関してなんてむしろ手慣れた感があったように思えるし。一体普段どんな生活してたんだよ」
「普段からこうやって人の姿でいて、そこそこ人の物に囲まれた生活をしてたよ。だから慣れてて当然と言えば当然かな。人型を取らないひともいるけどね」
「はー、魔物なのになんでまた」
「趣味とか?」
「趣味? ん、んー…生活してみて便利だったって言うのがあるんじゃないかな? 俺はそう。細かい作業の時は特に思うし。まあそもそもは人と暮らしてた時期があったからだろうけど、そこは俺が生まれるよりもうんと昔の話らしいからね」
「えっ、人と暮らしたことがあるの??」
人姿で生活しているというのも意外だったけど、人と暮らしていたこともあるとか……変わり魔物はコウに限らず種族でだったんだね。
「前に俺の住んでるところ孤島だって言ったじゃない? で外部の侵入を拒む結界もあることはあるんだけど、でも抜け穴があるみたいで人が流れ着くこともあって、そのまま居着いた人も三人は居たんだって。その人達のために色々整えたのがそのまま今もあって。でもここに来たら知ってるものがより便利になってるし、なんか色々感激したなあ。来てみて良かった」
「楽しそうでなによりです」
コウはお城生活をとても満喫してくれているようで、とても良い笑顔でした。
その後はアデイルがやけに詳細を聞こうと質問攻めしていた。
なんにせよ、人と魔物が一緒に暮らしていたということは一緒に居られるということで。コウと居られる可能性があるということで。
今がとても楽しい私にはすごく夢のある話だ。
「それで、二人に限らず皆どうするか聞きておきたいんだけど。マルファやハイドはどうするの?」
『俺はこの成りだし邪魔にならないよな? 適当に辺りを彷徨く予定でいる』
『ぼくはー、ジィギのうえでひなたぼっこするー』
「ふんふん。黄色さんは?」
(引き続き城壁掃除でもしてるかなー)
「掃除ね、わかった。で、二人は?」
《……ワシはじっとしてるのはあまり好かんのじゃが、あまり動くわけにもいかんよな》
『ボクも出来れば遊びたいけど…でも人怖いし。おにーさんも何かしてるの?』
「お兄さんはいざという時の備えで毎日戦う訓練してるねぇ」
「!! 訓練さえなければ俺もお前と遊びたいぞタリムっ!!」
コウ越しの言葉で通じ合ったタリムくんとアデイルはじゃれあい始めた。
「ならそこの獣は訓練所に来ればいいのではないか?」
ふと聞こえたこの場には居ないはずの第三者の声が聞こえ、一同がそちらに振り返る。そこにはハーレイ団長の姿が。
「団ちょ、いつの間に。つか、タリムを訓練所にって?」
「獣は元気に走り回ってなんぼだろう。訓練所は広いから構わないぞ」
《走るとなっ!? ワシも走りたいのぉ。宜しいか?》
「怪走樹は止まれないと聞くがジィギ殿は自身で止まれるんだよな?」
《止まれるが…まあ最悪の時は坊が止めてくれるじゃろうて。何かあったら坊を頼うてくれ》
「ちょっ?」
「わかった」
「なんで団長さんもそれで了承しちゃうかなっ!?」
コウの意見無視で丸投げな二人の会話はなんだか親近感を覚える。大人から見てもやっぱ頼もしいんだ。
「っと、そうだそうだ忘れていた。もともとここに来たのは少し少年を借りに来たかったからなんだが。今日は恒例のがまだだったからな」
「恒例…?」
「あ、ひょっとして追いかけっこ?」
「うむ。私にも少年を捕まえるという目標が出来て良い刺激になっているのだ」
「団長さんも好きだねぇ」
そう言うコウもいたずらっぽい笑みを浮かべて立ち上がる。
《ほう、走るのか? ならばワシも混じろうぞ!》
『えっとえっと、じゃあボクもっ!』
そうして参加者は続々と増え、やがて城内一斉の追いかけっこ――いや、鬼ごっこへと発展したのだった。
その後の魔物たちは訓練所の癒しと教官として団員に迎えられたという。
# 黄色さんのお願い
「タリムー」
「ジィギの旦那~」
「マルファちゃーん」
「は、ハイド殿ぉぉっ」
コウが魔物を引き入れてからというもの、一段と騒がしい日々に最近の黄色さんは思うところがあった。
それは、
「え、名前が欲しい?」
ということ。
黄色さん呼びに不満は無かったが、他の魔物が名前呼ばれる姿に羨むようになっていたのだ。
「でも俺が付けるのはまずいんだもんね」
まだスライムの王様は目の前のこの少年と名を呼ぶ間柄にはあらず、先んじてこちらが呼ばれると嫉妬の嵐が起こるだろうと予想できてしまうのだ。ただでさえ共にいる今でも日々の状況報告を欠かすとねちねちくる。
傍まで来て窺ってるんだから多少は分かってるだろうに、もう会いに行けよと言いたくてしょうがない。下の辛いところだ。
「そうなると他の人に頼むしかなくなるけど…誰に付けてもらう? 誰でもってわけにはいかないでしょ?」
そういえばそうだった。名付けられたら、その相手と主従になる。決して強制ではないが徐々に惹かれていくとは聞く。下手な相手は選べれない。
候補を考えると魔物に理解を示すアデイルという人間か、少年が気にかける姫という少女か――。
時間を見つけて二人+今なら姫と少年が居るところにはもれなくついてくる王子を含めた三人に名前の相談をすることになった。
「えっ黄色さんの名前?」
「付けさせてくれるのかっ? でもなんでまた急に」
「ジィギたちが呼ばれてるの見てて羨ましくなったんだって。二人になら付けられても良いみたいだから考えてみてくれる? ――あ、ちゃんとまともなやつ考えて」
「はいっ! じゃあピカリンっ!」
「まともなやつって今言った! 黄色さんにそんな可愛らしい名前は似合わないしやめてあげてっ。黄色さんはもっと逞しいひとなんだよっ!」
少年が先にダメ出しをしてくれたが、小馬鹿にされたような名前なのでもちろん却下である。
「じゃあローリングサンダーとかどうだ? 略してロリンダ」
「略名はまあありだと思うけど、元のそれなんか技名に聞こえて俺はどうかと思うけど。どう、黄色さんは――……略名がメスっぽくて嫌だって」
「えっ黄色さんオスだったの?」
「スライムに性別はないけど口調はオスかなあ」
ようは気持ちの問題だ。
「それって俺が付けるのは駄目なんだよな?」
「ん、いいの思い付いたの王子様?」
「良いかどうかは…キラってどうかなって思ったんだけど」
「二人に比べたらまともな名前だと思う」
同感である。だがしかし、
「王子様の所って黄色さん連れ込んでも大丈夫なの――って、ここでも騒ぎになったし無理だよね」
「あー、きっと無理だろうなあ」
「名付けたら一緒に居られないと駄目なの?」
「駄目なことはないけど、一緒に居たいって思わない?」
「――……居たいっ! 私だったら居たいっ!」
「確かに、思うかもなあ」
「一緒に居られたら…嬉しい、な」
そう呟いた王子はすがるような色が混じっていたように思えた。
こことは違う暮らしをする王子。あまり自分の住み処に頼れる者がいないのだろうか。
本来なら少年がもしかしたら後々も関わるかもしれないこの二人に名付けられた方が都合がいいんだが――この王子を見守ってみたいとも思う自分がいる。
少年程ではないが自分もやられにくい体質だし、立ち回りにも自信はある方だし、多少騒ぎになってもなんとかなるだろう。
そうして、オレはキラとして生きることを選んだ。
♭ 雨の日のひま?つぶし
「コウ、遊ぼうぜー」
「遊ぼー。暇でしょ~?」
昼食の片付け手伝いも終わったのを見計らい、私はヘンリーと一緒に図書室にいるというコウに突撃した。
「本、読んでますが」
「それは夜寝る前にでも読め。今は俺たちと遊んでくれ!」
ヘンリーはシルヴァニアに来てただぶらぶら遊んでいるわけじゃあない。私の普段受ける退屈な勉学を一緒に受ける同志だ。
つまり私と一緒で鬱憤が溜まるわけですね。勉強好きな人が信じられないよ……って、コウは好きな人の部類になりそう? 本読むの好きみたいだし。
「で、何して遊ぶの? 雨降ってるから剣の打ち合いは無しだよね?」
コウは読んでいた本を横に置くと私たちに付き合う姿勢を見せてくれた。
今日の空は薄暗く、雨もさあさあと降っているので絶好の読書タイムと思ったに違いないがありがたい。
「おう、だから室内で出来る遊び持ってきた。カードゲームしようぜ!」
「カードゲーム? なにそれ?」
初見の物にくいつきがいいのは知識欲か好奇心か。ヘンリーからカードの束を受け取ると、コウは一枚一枚じっくりと見ていく。
カードは1から15までの数字のふられた剣・盾・杖・とんがり帽子の四種類の柄がついた60枚と、地水火風の属性を描いたカードがそれぞれ2枚ずつの8枚、そして色々なゲームの決め手に使われるドラゴンの絵柄が1枚の計69枚となっている。
「これで何をどうする遊びになるの?」
「数字合わせって言って数字を合わせてって残ったドラゴン持ちの人が負けになるのとか、数を決めてそれに近い数字を出せた人が勝ちのジャストとかあるが、まあなんと言っても覇国だな!」
他にも遊び方はあるらしいけど、私たちがやってるのはこの三種類だ。覇国のルールを覚えるのがやっとでまだ他に手を伸ばせてないというのもあるけど。
「ふーん、王子様は覇国ってやつが好きなんだ?」
「おう、ちょっとしたバトル物だからな。やっぱ燃えるだろそういうの」
覇国とは、四人でやる誰が強いかなゲームだ。
このカードは本来、それ用のものでもある。
他者が出したカードを自分の手持ちでしのぎながら、最終局面まで強いカードを手元に残して最後に余力を比べて勝ち負けを決める、バトルを模したゲームである。
剣と杖のカードが攻撃で、盾ととんがり帽子が防御を意味するカードだ。
攻撃時は必ず攻撃カードを出し、相手はその数字より上の物を出さなければならない。
出した攻撃カードは以降は使えないが、防御カードは半分の数をもう一度防御に当てることが出来る。
けど、それと2枚で合わせて防御したとして、もう一枚新たに出すものは攻撃カードの半分以下の数は使えないというルールはある。ちなみに防御側は攻撃カードで対応することも可能だ。
あとは、剣は盾、杖はとんがり帽子でなら同じ数字でも防げるようになっている。
そして一番の盛り上がりどころ。
最終局面は各々攻撃して防いでの2巡後かな。
四人でなんて数える程しかしたことがなかったから曖昧だけど、たしかそう。
そこで属性のカードの出番だ。その時はドラゴンを除いた8枚から引くことになる。
風は剣を、地は盾を、火は杖を、水がとんがり帽子を強くする。簡単に言うと数字が2倍。
属性が合わずよわっちい手持ちしか残らない人もいるわけだけど、そこでもし手持ちを良い具合に揃えていられたらドラゴンを交えた残りのカードを引くことも出来る大逆転のチャンスもあったりする。ドラゴンは全柄のカードを強化する必勝カードになるのだ。
でもぞろ目4枚とか柄がおんなじやつで数字の階段を4枚とか、またはそれらを3枚で2組作らないとないとか、その条件はとても厳しい。まあなんたって逆転だしね。
あとはぞろ目3枚やそれらには得点ボーナスも付いたりなんかしてと最後の時の判定はまたちょっとややこしくなるけど、相手を打ち負かす力で勝つか、あるいは鉄壁の防御で守りきるかと、カードという名の自分の国力を競うのがこの覇国というゲームなのだった。
普段はヘンリーと二人でやってたから手持ちが多すぎて最終局面がなかなか遠かったし、相手の手持ちもわかっちゃうこともあって微妙だったが、コウも交えて三人となれば今よりはきっと楽しくなるに違いない。
そして、私たちはコウが夕食の準備で抜けるまで夢中になってやり続けた。
だってすごかったんだもん。コウが意外だったんだもん。
コウにそんな言葉を向ける日が来るとは正直思わなかった。
訓練所の癒し担当はタリムとマルファ、教官はジィギ(走り耐久監督)とハイド(不意討ち対応担当)です。
カード遊びネタやりたかったことなのにすっかり忘却してたので追加してみました。覇国はもちろん適当です。




