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お姫様と魔物少年  作者: あしあと
2章 賑やかな城生活
19/29

語り継がれる昔話と穏やかな今と

先月中にあげれなかったorz


コウ視点です

 昔々、彼方の話。リリシエールは一度、危機に瀕した。


 それは黒い災厄。絶望を形にしたかのような生き物とは到底思えない成りをし、禍々しい圧を纏う存在だった。

 山ほどもある黒い体躯は硬い皮膚に覆われて鉄壁の様、その背にある巨大な翼から起こる風は木々や家屋を凪ぎ払い、鋭い手足の鉤爪は容易く命を刈り取っていく。極めつけは何よりも異様な複数ある頭部、その口からは灼熱の炎が放たれ天をも焦がした。


 近寄ることは容易でなく、足掻いても大した傷は負わせられず。

 ある日前触れもなく現れたそれに人々は為す統べなく逃げ惑い、瞬く間に大陸のひとつが壊滅した。

 黒く焼け、ひび割れた大地。地表にあった山は砕かれ、燃えるものは全て炎に焼かれて塵と化し、果てまでを一望出来てしまう――。


 死の国を思わせるかの様な光景に、誰もが生きることを諦めかけたそんな時、また空から飛来するものがあった。

 それは様々な色彩・形状からなるドラゴンの群れ。

 ドラゴンたちは果敢にも黒い災厄へと立ち向かっていく。

 彼らは数の利を活かして少しずつ、けれど確実に黒い災厄に傷を負わせていった。


 激戦は五日五晩と続き、ドラゴンたちはついに黒の災厄を討ち倒した。

 目の前の脅威が消え、歓喜に沸く人々。

 もうこれ以上の吉報はない、そう思って人々はまた驚きの光景を目にした。

 なんと、ドラゴンたちは戦場となり生活するには絶望的であったこの地を癒し、また生ける大地へと蘇らせていったのだ。

 荒野に緑が芽吹く様はまさに奇跡――。


 その後しばらくの間ドラゴンたちは私たちを見守るかのようにこの地に留まり、大地の傷跡もおおよそ癒えた頃また空へと旅立っていった。



***


「――って感じの史実が元だっていう『黒い災厄とドラゴンの奇跡』って有名な話があってな。だからドラゴンってのは世界を救った救世主で、憧れの的なわけだ!」

「へえー」


 お兄さんはドラゴンがいかに素晴らしいのか、と紙芝居とやらを持ち出して情感を込めて語り、力説までしていた。相当お兄さんはこの話……というか竜好きらしい?


 この話は俺達も知っていた――日々を生きる魔物らが過去を後世に伝え行くのは稀な話だけど、むしろ俺はこれの当事者たちの末裔になるので――が、それとは違った内容でも人の中に残っていたというのは何とも不思議な感じだ。

 違いを上げれてみれば、竜の他にも一緒にやって来て戦った人間がいるし、地元民とも協力した上での勝利でもあるらしいのに竜だけで倒した話になってるとか、あとはその結末? こういうのも噂話みたいに尾びれ背鰭が付いたり、盛られたり抜けたりするんだろうか……まあお話は完結してくれた方が読みやすいだろうけど。


 なんにしてもこの話もいい土産話に出来そう。

 聞いたら皆どんな反応するかなあ。


「後、この話から派生した『空の騎士』っていう竜騎士の物語もあってな!これがまたいいんだよ~。ドラゴンと心を通わせて背に乗せてもらうとか、ライバルの騎士と武を競って友情を築いたりってそれはもうすごい燃える話なんだ!」

「へ~」


 どうやら人と竜の共闘話は別の形で語られてたらしい。後で探してみようと思いながら俺はふむふむと相槌をうった。


「でも、コウのあの姿ってなんていうかドラゴンって感じじゃないよね? なんか、ドラゴンって言えば蜥蜴っぽくて硬い鱗してるって話だったけど、コウは髪の毛みたいに全身がふさふさで、タリムくんみたいな獣っぽいというか」

「……確かに一般的な竜と比べると俺って違うね。でもまあ、月日が経てば進化なり退化なり色々とあるだろうから、そんな感じでこうなったんじゃないかな?」

「そうなんだ~」


 なんて、実は空から来た余所者の竜だから違って当然なんだけど……そこは言っていい話なのかどうかちょっとわからないのでお姫様の疑問にそれとない答えを返しておいた。


 お兄さんが語ってた昔話にあった『空から』という言い回しの部分は、本当に言葉通りの意味がある。

 ここからずっとずっと遠く、遥か彼方の空には大陸が浮いて存在している世界があるらしい。俺たちの祖はそこから逃した敵――今の話で言う黒い災厄――を倒すために追いかけてきたんだとか。

 それでなぜ空に帰らずまだここにいるのかと言えば、決着は封印という一時的なものだったから。様子見というか、次に備えてというか、まあそんな感じだろうね。

 だけど自分達はこの地にとって異質だろうからと、何かしらの影響も及ばない様に現地人をも避けて隠れ住んできたから人の目にはまず触れないわけで――この話は2000年くらいは前の話になるようだし、語り継がれてく上で竜を描こうと思えばお姫様の言うようなどうにかすれば会えるだろう実物竜の絵になってたとしてもおかしくない。


「はあ~まさかの憧れのドラゴンと知り合ってたとか、これって凄いことだよな。なんか姿は聞いてたのと違うし話せばこんなだからあまり実感は沸かないけど……まあ、初対面時を思えば確かに別格な空気だったもんなあ。色々そつなくこなす所もなんか納得だわ」


 お兄さんは何やらしみじみと呟いていたが、これは褒められてるのか落とされてるのか……別にどっちでもいいけども。


《ワシも坊とは二年ぶりくらいになるのかの~。人姿でも大きくなっておるし、元の姿もワシを乗せられるくらい大きくなったかの?》

「ん、うーん……まあタリムとお兄さんを乗せられたし、そろそろやれるかもしれないね」

《おお真か! では折りを見つけてよろしく頼むのぉ!》

「はいはい」


 歩ける木は空をも夢見る。

 狭い所にいるので自重してくれてるけど、それでも枝からいくつか葉っぱが舞い落ちるくらいのジィギのはしゃぎ様に思わず笑って応えた。

 ジィギとはちょーっと可笑しな出会いをしててね、その時自分が誰かに持ち上げられる、もしくは飛ぶといった経験をジィギはしたんだよ。

 またそれを体験したいそうで、身近にそれをやれるのは今は俺くらいなので大きくなるのを心待ちにされてたんだ。


「乗せるって、飛ぶって事だよな? ドラゴンなんだもんなあ……あーもう早く姿見たいっ! すっごく気になる! 除け者みたいで話がわかんなくて辛すぎるっ」

「格好いいよ~♪ あとがっしりしててね、触り心地も好きだなあ私」

「口開かなきゃ迫力や威厳もあって、あれぞ正にドラゴンって感じだったぞ~」

「くぅっ今夜は絶対見せてくれよっ? なっ!」

「まあいいけど……」


 王子様はお姫様とお兄さんの煽りとも自慢ともつかない言葉に我慢ならなかったようで、絶対だぞと約束させられた。

 寝るときは姿戻すし同じ部屋だし別に構わないけど……人が魔物を見たがるとか、なんとも変な事になってるような?


『なあ、話脱線してねえか。揃いのものを決めるって話し合いの場じゃなかったのかよ』

「あ」


 傍らでずっと黙っていた蛇のむすっとした呟きに我に返る。

 というか王子様は自分を除け者と言うけど、一番の除け者と言えばこのひとだよ。

 別れるのを渋られ、でもあのままアラウディさんのところに居残らせるも迷惑かとここに連れ込んじゃったけどこのひとはこれからどうするべきかなあ。


『でその話で俺ひとつ良い案思い付いたんだけどいいか?』

「え、考えてくれてたの?」

『他にすることもなかったからな。それで、もし良いと思えたら従魔の話考えてくれよ』

「ん、うーん……」


 除け者にしてたようなものなのに意見をくれるとはなんていいひと、なんて思うのは甘かった。

 このひとは人の言語も理解出来てるくらいには賢くて、あの手この手を考えてとなかなか諦めが悪い。

 次のあてもないらしく、能力に自信があっても一人旅は大変だろうと思えば邪険にするのも躊躇われた。

 でも俺じゃなくても良いと思うしなあ、主。


「そこはこうしない? 誰かいいひと見つかるまで一緒にいる、とか。もちろん探すのは手伝うよ? でも見ず知らずのひとをいきなり従魔にってのはやっぱりちょっと」

『見つかるまで――いや、わかった。(一先ず)それでよろしく頼む』

「こちらこそよろしくね。えっと……名前無いとやりにくいな」


 この蛇はまだ名前を持たない。

 魔物は基本、他種族と関わるまで名前の必要性は低く持たないのがほとんどだ。

 こういうときは本当困るなあ。


《何を悩むことがあるのじゃ? 名付ければ済む話ではないか》

「いや、軽々しく名付けってするもんじゃないんだよ。名付け主から何かしらの影響を受けるって話があるみたいだから」


 名付けが主従契約やら名付け主の力量に左右されるとかって話は、カーラさんの他にもニモが名を付けた後で言ってた――というか、魔法使って何やらはしゃいでたのにたまたま居合わせて知った――ので、真実はどうあれ控えるようにしないと。

 そうでなくても、タリムたちの以前に名付けたひとたちはわかりやすさも兼ねて安直に付けてた覚えがあるからちゃんとしたのを考えなきゃなのだ。

 軽い気持ちで呼び掛けたとしてそれを自認されてしまえば、それはもうそのひとの名前になる。

 名前は一生もの、責任重大。


《ほう、その様な話があったとは。坊からの影響のう……では将来ワシは戦う木に成れているやも知れんのかの?》

「戦う木……」


 走ってれば無自覚で無敵状態やってる怪走樹ランナーツリーが、話も出来るようになっただけでなく空にも憧れるだけでなく戦いにも加わると? またジィギは突拍子もないことを……いや、向上心に感心すべき?


《となると失敗したのぉ、マルファも坊に名付けてもらえば恩恵にあやかれたじゃろうに》


 マルファの名付け主はジィギだ。丸くてふわふわという見た目を名前に引用したという。

 見たまま、あるいは語呂のまま付けてたちっさい時の俺の悪影響がここに。

 爆兎ボムラビットはみんなそんな容姿だよジィギ……。当の本人はのんびり日向ぼっこしてて気にしてないみたいだけど。

 しかし恩恵とか俺何様なんだ。

 体感してるらしいのはニモだけど、そんな大したことが起きるものか――ああ、蛇が期待した目を向けてきてる。俺が名付けるのは決定なの?


 そうして彼の名前はハイドに決めました。――勿論俺が。

 お姫様やお兄さんが名付けを申し出て来たけど、なんか名前って感じじゃなかったからねぇ……。

 この名前はハイドの特技を聞いてて背後・・・を取るのが上手そうだなあと思ってたのをもじって付けてみた。

 喜んでたからほっとしたけど、名前って本当考えるの大変だよね。


 転地蛇ワープスネイクは基本二匹一組、親兄弟つがい等親しい相手と離れた地を繋ぎ道を作れる技能をもつ。

 でもハイドは一人歴が長いとかで何やら目覚め、短距離は難なく一人でやれるようになったらしい。不意打ち・イタズラ等攪乱役にどうだと言って自分を売りに来る辺り、そういう使い方には馴れてると思う。

 そもそものハイドがここにいる事情もイタズラ心(それ)が一因ぽいし。


 ハイドを最初見つけた時は、タリムの首に巻き付いていた状態だった。

 聞けば、タリムを脅かそうとして枝から飛び移ったとか。

 タリムはそれに驚き振り払おうと駆けて回っていた所、散歩で通りかかったジィギに競争相手としてロックオンされて追いかけられたらしいよ。……なんか改めて振り返ってみるとタリムが哀れ。

 でもまあ、カーラさんには黙ってきたみたいだし無事で済んだから教訓とでもしてもらおうかな。

 あ、タリムはしばらく反省してもらってる。ククイットにばっかじゃないのって頭やら耳をつつかれる善意の小言付きで。


『それで揃いのものにする案なんだが、マーキングはどうなんだ?』

「あ~」


 そして本題に戻るわけだけど、ハイドの案はとても良案に思えた。

 マーキングにも色々様々あるけども基本は香り付け、何かを身に付けて動きを煩わせる事や、傷痕を残すような何かをする必要はなくなる。


「って話だったんだけど」

「それは……見た目ですぐわかるようなもんじゃないとなあ、難しいんじゃないか?」


 それをお兄さんに伝えてみたが、残念ながら渋い返事が返ってきた。こういう所は人って本当、不便というか鈍……悪く言いたくは無いんだけど、ねえ。


「でもそうだな、染めるとかだったらいけるんじゃないか?」


 手詰まりになりかけた所にお兄さんが代替案を閃き、その後無事アラウディさんに許可を貰うことが出来た。

 お揃いの色に染める際、簡単に他者に真似られない工夫をすること。

 そんな条件が付いたけどそこも問題なしだ。伊達に小さい時から散歩してなかったけど、何かしら記念の品を集めてた何気ない収集癖が役立つ日がきちゃったよ。

 ちょっと面倒に思うけど、しかしこういう対応をしないと時に従魔を奪われることもあるんだとか。


 魔物が欲しいとか、ほんと、人ってよくわからないところがあるよね……。



***


 約束の魔物姿のお披露目をし、満足気な王子様を早々に寝かしつけて少し眠った深夜。


 夜警に立つわずかな人以外起きている人も居ない街中を、屋根や塀伝いにいつものように駆け回る。

 これは見回りと気分転換を兼ねた夜の散歩だ。

 若干後者の意味合いが強いけど。

 一人の時間はやっぱ欲しい。

 皆――魔物も含む――良い人たちだけど、だからって気を使わないわけではないから。


 一通り巡った後は、最後に眺めのいい城の尖塔に腰を落ち着けて散歩は終わり。

 しんとした空気に、時折吹く風が心地好く火照った体を冷ましていく。


 そうしてふと、日中の話を思い出し胸元にあるものにそっと手を当てた。

 人気のない今、防音対策に風を纏えば普通に話してても大丈夫だろう。


「昼間のあの話、聞こえてたよね。聞いててあまり良い気しなかったろうけど……だからってまた暴れたりしないよね?」


──その言い様、我は子供か。


 俺の問いかけに、あまり感情のこもらない答えが返される。

 脳に直接語られる感じの低い声。

 話の相手は昔話に出てきた黒い災厄として語られる本人、そのひとだ。

 名前は忌み名として口に出来ないから黒い災厄と俺も呼ぶべきか――なこのひとはあの話と違い、まだこうして生きていた。


 あれで言う倒されたの部分は多分、体のことを指すんだと思う。

 このひとは肉体が滅んでも魂のまま生きられる、空の世界での神みたいな存在だったから。

 体を失くした後の出てきた魂は分けて個々に魔石に封じられて、今話をしてるこのひとはその内のひとつ。

 一応無害です。魔力を貸さないとこうやって会話も出来ないくらいには無害、のはず。

 ちょっとした縁があって知り合い、それ以降自己責任で首にくくりつけて連れ回している。


──負けた話を語られたのは不快だが、他者から見た我はその様な事をしたということなのだろう?相当迷惑であったことは理解したぞ。


「んん、そう……(迷惑って言葉で済ませられると軽すぎると思うけど)それじゃあ、少しは反省したの?」


──反省というものはまだよくわからん。


「あ~」


 このひとは、分かりやすく言うと力に物を言わせて物事を押し進めてきた困った神様だったのだ。

 だから反乱を起こされる戦いにまで発展したのだけど――そもそもが神格化された存在、話し相手どころか誰かと間近で接することもないなら感情面が欠けてるのもなんか納得。

 その件は起こるべくして起きたというか……今の台詞を聞くに、相手を思いやるに至るまでもまだちょっと遠そうかなあ。


 俺が何故このひとを連れ回してるのか。

 それはまたこのひとが復活したとして、せめて世界を損う破壊活動は止めてもらえないかと訴える為だ。

 何もない景色はきっとこのひとだってつまらないはずだと、そう思って。


──最近はずっと服の中だな。出てもこうして物音たたぬ闇夜ばかり。いつまでこの煩わしいのは続くのだ?


「ごめんね、窮屈な思いさせて。まだもう少し……ここを出るまでもう少し待っててもらえる?」


 このひと、封印されてるけど眠ってるわけじゃなかったようで辺りの様子はわかってたらしいよ。

 だから暗くて静かな場所に厳重に保管――このひとが俺の手元にきた事を考えるに厳重と言えるのか余所の魔石管理体制も気になるところだけど――されていた事を思わせる現状は、難しい言い方して分かりにくいけど要するに嫌ってことだ。

 俺としても嫌な思いをさせるのは申し訳ないし、俺自身も人目を気にせずに気ままな散歩を再開したい気持ちはあるけど……出来ればこの件の結末を知れるまではここに居たい思いもある。あの暗い気配がどうなるかを知らないままいるのはもやもやしそうだし。


──ふん。動けぬ我のただの言だ、捨て置け。好きなようにすれば良い。お前の行く道が我の見る景色だ。


「ん……うん」


 俺のすることがこのひとの見る景色。

 わかってたつもりだけど、言われて改めて気付かされる。

 色んな所行きたいし見せたいとは考えてたけど、それでもあまり変な所に行くのは控えるべき、かなあ。


 ーーこの時の俺はそんな事を考え、これがこのひとなりの歩み寄りで気遣いの言葉だったと気付くのはまだまだ先の話。


幼少時のコウの命名由来


荷物→ニモ

おじいさん口調の木→ジィギ

存在している→イール


スライムの王様は言葉からもじります。


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