コウと多様な魔物たち、後編
「蛇殿の事はさておき、そちらのスライムは従魔登録なさいますか?」
コウが落ち着いた頃、アラウディさんは蛇さんを体内に取り込むように押さえ込んでいる黄色さんを眺めてコウに従魔の提案を持ちかけてきた。
「うーん?黄色さん、は……たぶん無理じゃないかなあ」
「そうなのですか?とても懐いていて好意もあるようですが……でもそうですね、名で呼ぶ程の間柄とまではいかないのですか。キイロサンは名前では無いのですよね?」
「うん、とりあえずの呼称。黄色いから黄色さん、て。他の色のも緑は緑さんだし、青いのは青さんで、赤いのは赤さんってみんな色呼びさせてもらってるんだ」
「……他のとも、この様に親しいのですか?」
「親しいというか、そもそもスライムってみんな友好的じゃない?散歩に出ては色々なスライムと会うけど、お気に入りの場所に連れてってくれたり、探し物手伝ってくれたりするよ。……まあ、多少は意志疎通出来るからってのもあるかもしれないけど」
「それもあるかとは思いますが……しかしそうなると名前呼びをしていないのがますます不思議でならないのですが、名前は付けられないのですか?」
「名前は、ねぇ……俺も不便かなと思って付けようとしたことはあったんだけど、お願いだからやめてくれって皆断るんだよね。黄色さん、黄色さんはどう?――ほら、ああいう風に怯えちゃうんだ」
コウはほら、と言うものの、黄色さんの様子は先程と大して変わらず反応に困る。あげられる違いは精々、蛇さんの方が悲鳴をあげ出したくらい。
にしても名前を付けようとしてなんで怯えられるんだろう。コウは何かしたのかな?実はネーミングセンスが悪い、とか?でもタリムくんとかは普通に聞ける名前だよね。
「その様に親しいのに命名を断られるとは初めて聞きます。何故なんでしょう……もう名前を付けられている、というわけではないのですよね?スライムも私達植物人族のように種族間でのやり取りが出来ると聞きますから、もしかすると一体だけで事足りるのかもしれませんよ?」
「いや、スライムで付けたのはいないよ。俺が名前付けたのは外にいるジィギと、あとタリムにカーラさん。それとニモに、あとはイール。この5人だけだから」
「そうなので……あ、あの、嘆いているように見えるのですがもしや忘れている可能性等は……?」
「え?」
嘆いていると言うアラウディさんの言葉にまた黄色さんに視線を向けてみると――なんと黄色さんは放電をしていた。蛇さんはもちろん黄色さんにまとわりつかれたままなのでとばっちり受けてます。放電が嘆き状態とか……うん、声が出ない分出来る主張でいけばそうなるのかな。でもそろそろ蛇さんを解放してあげないと、シャーという声が弱々しくなったような気がするんだけど……。一番止めに動きそうなコウも今は黄色さんの様子に考え込んじゃったからこのままになりそうな予感大だ。蛇さん、頑張れ。
「少年。考えるのも良いのですが、話を聞けそうなスライムが目の前に居られるのですからそちらに確かめられた方が宜しいのでは?」
「あっそうだよね。もし名付けて忘れてたとかだったらすっごい失礼な事だし、早く確かめるべきだよね」
戸惑うコウをアラウディさんが促せば、コウは慌てて黄色さんを持ち上げて視線を合わせた――ように私には見えた。
黄色さんは話さないので一方の内容しかわからなかったけど、そうして話し合った結果――やっぱり名付け済みだった事が判明したのでした。
相手は前に話に出てきてたスライムの王様。名付けられた相手がトップだったなら部下――なのかはわからないけど黄色さんたち他のスライムが名前を付けられるのは確かに困るかもしれないよね~。
それで話によると、二人が出会ったのはコウが一才に満たないぐらいの頃のことだったらしい。しかも会ったのはそれ一回きり。
それなら覚えてなくても仕方無い、ってなるはずなのにもう聞いて驚きだよ?その王様はコウが自分を見つけ出すまで再会は見送るとか言ったらしい。ついでに名前も思い出して呼んでくれると嬉しいなあとか要望も添えて……。
いくらコウが人じゃないって言っても、ちっちゃい頃の話だし相当無理があるんじゃないんだろうか。でもコウも頑張るって言ってたしどうなんだろう、よくわからない。……ジィギさんなら教えてくれそうだよね、あとで聞いてみよう。
「それでは従魔登録はここまでにして、次は魔法の適性を見ましょうか。君は魔力の流れが整っているようですからもう魔法は使えていますよね?」
「あ、はい」
「ではこちらの枝を持ってあちらの部屋の木の元へお向かい下さい」
色々話を聞いて納得して満足したらしいアラウディさんは魔法適正検査に移ることにしたらしい。緑と言うよりは黒に近い、そんな葉が大小合わせて七枚付いた子供が持つにはやや大きい枝をコウに渡すと、アラウディさんは屋内なのに外を思わせるような光が満ちる広々とした部屋へと私達を促す。
その室内は他の部屋と違って床は何も敷かれておらず雑草が所々繁るありのままの地面、天井もとても高くとられていて太陽の光も取り込めるようにか硝子張りで、四方を壁に囲まれているといっても家が二件くらい入るような広さの開放的な造りになっている。そこに一つだけぽつんと、でもがっしりとした幹で見上げるほどに大きな木が室内に枝葉を広げて存在を主張している。
「ここでする事はその木の枝を持って魔法を使い、それをこちらの木へ向けるだけです。攻撃・治癒・補助魔法なんでも構いません。放たれた魔法はこちらの音花の魔木が中和致しますのでご安心下さい」
コウが木の下にたどり着くとアラウディさんはこれからの説明を始める。私達は部屋に入ってすぐの辺りでそれを遠目に見守ります。
魔法の適性検査は魔法を扱えれば後は至って簡単。コウが今持たされているあの枝を持って魔法を使えばすぐに結果が出るのである。
あの木の枝は夜色の魔木と呼ばれる木のもので、日中は黒っぽい葉をしているが月夜の晩はその土地により異なって様々な属性の色に染まるらしい不思議な木。ここでの結果は一色だけど、本来の原木は二三色には染まってるらしいので幻想樹、なんて呼び方もあるらしい。この木は魔力の高い土地にしか無いらしく結構希少な木なんだとか。魔法の検査に用いる枝には大体5~7枚の葉がついていて、属性と、あと何枚染めたかで適正度合いを判断される仕組みになっている。
次いでアラウディさんの話に出てきた音花の魔木についてだけど、あの木には魔法を分解して無力化させる力があるらしい。魔力を受けると白い花を咲かせるんだけど、その際に音が鳴るのでそれが音花の魔木と呼ばれる由来になってるんだって。あの木は夜色の魔木程希少では無いけど花が咲かなければ見た目は普通の木なので絶対数は謎らしい。ちなみにこれで魔法使用者の魔力量も大体わかるとか。コウの事だからたくさん咲かせるんだろうなあ、というかもう満開を期待して私はその時を待った。
アラウディさんが離れていき、コウは枝を剣を持つように両手に構える。
「サンダー」
夜色の魔木の枝を掲げてコウが口したのは初級の雷魔法、攻撃魔法だった。葉を7枚全てくっきりと黄色に染め上げながら放たれた魔法は、けれどまるで歌うかのように、祝福でもしているかのように穏やかに柔らかく紡がれた呪文のままに、音花の魔木を直に撃つことは無くその周囲を戯れるように閃く。3本くらいの細い光が何度か交差し合ってかき消えたその瞬間、リリン、と優しい音色と共に白い花が咲き出した。
「わあ、きれい……」
予想していた満開の絵には程遠い五分咲きといったところだけど、満遍なく咲いたのでそこそこ見栄えのいい木になっていた。
「これはまた見事ですねぇ」
「上手いもんだな~」
アラウディさんも感嘆の声を上げ、アデイルも流石と感想を漏らす。
この反応が何故なのかというと、この魔木は魔力に触れた面だけ花が咲くので大抵は一部分が咲いて終わりなのだ。そもそもが咲かせようと思って魔法を使うわけでもないので全体が咲く姿は余程の魔力を当てなければまずお目にかかれない。
――ということはコウはあの魔木の事を知っててあんな魔法の使い方をしたのかな?それとも攻撃魔法をあの木に向けることを避けてああしたのかな。……なんにしても攻撃しない攻撃魔法なんてのは初めてで、私はなんだか不思議な気持ちになった。
そうして結果は稀に見る夜色の葉の全部染め、との事で個人証作りはもう少しかかることになった。アラウディさんがセカンドネームの記憶を掘り起こしてるのでそれ待ちです。
コウは今はまた蛇さんと向き合っている。熱くならないようにアデイルも交えての話合い中だ。
その前にちょっとコウと音花の魔木の結果について話したけど、満開にするかと思ったと言ったら、人目があるしと言う言葉に次いで、そもそも俺自身はあまり魔力のある方じゃ無いから満開はどうかなと謙虚な発言もされた。コウは雷が得意とは言ったものの自力はそこまででもなくて、誰かの力を増幅する方が多分一番の得意分野なんだって。自身の力よりも他者を伸ばすのが得意とか、なんだか力にもコウの性格らしい所が見えて思わず笑っちゃった。
「大変お待たせしました、それではこちらが貴方の個人証カードになります」
「あ、はい。ありがとうございます……何、お姫様?」
「うん、私も見たいから見せて欲しいなって」
アラウディさんから子供の手の平大のカードを受け取ったコウの手をすぐに引っ張ったので先のような呼び掛けだ。大体書かれてることは決まっているけど人の物ってなんか見たいし、セカンドネームも気になるし、つい?
そうして見た名前の欄はコウ・ヴォルトレイと書いてあり、職業欄には魔従士、連絡先はシルヴァニア国となっていた。書かれるのはその3項目だけで、それ以上の詳しい個人情報はアラウディさんたちプラティオン聖堂の職員を通さなければわからない様、こうやって個人証には残さない。ちなみに定住者は住んでる街町村名で、冒険者等主に旅をする人には最寄りのプラティオン聖堂が書かれるらしい。
表はそんな個人情報で、裏は鳥の羽を簡略化したようなシルヴァニア国の紋が描かれている。裏面のこれは国経由で登録した人の証で、普通の無地よりまた信用度が違うとか。コウはうちの国の子扱いになったんだねぇ。
「ん、魔従士……?んん?え、魔"獣"士じゃないのか?」
同じように覗き見ていたアデイルが何かに気付いたらしい。同じことを言ってるようにしか聞こえないので違いがわからないけど、どうやら職業についてアラウディさんに問いかけているらしかった。
「魔従士とは魔獣士の上位職に当たります。過去の例として4体以上を従える者は"魔従士"としているようです。蛇殿やスライム殿の事はともかく、まだ増えそうな予感が致しますので従魔4体は確定と考えて私の独断ではありますが変えさせていただきました」
「なるほど……」
アラウディさんの言葉を誰も否定することなく、ああ、と納得したのは言うまでもない。コウは結構動物たちに好かれやすいみたいだからあと一体なんてすぐっぽいもんね。
***
「しかしなんつーか、改めて見れば個性溢れる面々だよな。スライムはまだ置いておくとして、怪走樹に雪狼に爆兎だろ、あとコウが頷けば転地蛇も輪に加わるわけだが……統一性が欠片もないよな」
《そうじゃのぉ。色々な者を惹き付けるとは流石は坊じゃ》
「そこはまあ流石でもいーけどな、いーんだけど今はそれで話が纏まらないんだよ」
《まあなるようになるじゃろ。坊だしの》
アデイルはすっかりジィギさんと打ち解けたようで、気安い感じで話をしている。
今はコウの個人証も出来上がったのでプラティオン聖堂から戻ってきて、場所はまた城内の中庭だ。
城内の人達にぱぱっとコウの従魔として魔物たちのお披露目をし、私たち子供組と魔物たちとそれらと比較的打ち解けているアデイルを一応の監視役にと交えて皆でまったりしている。
一応、集まってる理由はあるけどね?コウの従魔登録の仕上げに主従や繋がりを証明する物証が必要とかで、皆で何のお揃いにするか案を出しあうと言った名目で。通常はプラティオン聖堂側で用意している焼き印が一般的で登録した際にするみたいだけど、でも体に傷を負わし残すような事はコウが猛反対したので今はアラウディさんに無理言って待ってもらっている状態なのだ。
――色々と特例を持ち出してくるアラウディさんだけど、様々な魔物が仲違いせず会するという光景に感激したとかで大目に見てくれてるらしいよ。
しかし身に付けられるお揃いのものを考えようにも種族も姿もバラバラ、しかもそれぞれの身動きの邪魔にもならないようにしたいってコウの配慮がまた話を難しくさせる。
ジィギさんは木だし、タリムくんは獣でまだやりようがあるけど、マルファさんは真ん丸の毛むくじゃらで装飾を付けられるかはあやしいし埋もれるだろうしで悩ましい。それに加えて蛇さんやらスライムの王様が~となればお手上げでしょう、何をお揃いにしろと言うの。というか当の魔物たちは日向ぼっこだのコウに甘えたりだのして真剣には考えてないっぽいのもどうかと思うの。そんな雰囲気で話が進むわけもない。
「そういえばさ、コウはどんな魔物なんだ?魔物にも様々あるみたいだしコウの種族にも何かしらの名称ってあるんだろ?」
あ、今は声は聞こえても話は聞き取れない程度のうっすらとした防音結界をコウが中庭に張ってくれてるから暴露話オッケーなんです。
「まあ、あることはあるよ。でも島から出歩かない閉鎖的なひとばかりだし誰かに名乗るのを聞いたことも無いからなあ……多分竜神族で合ってると思うけど、ちょっと自信ないかな」
「……りゅうじんぞく?」
「……えっ、りゅうって、あれかっ?ドラゴンっ?!」
ヘンリーの何気ない質問からもたらされた答えは私達を驚かすのに充分な内容だった。ドラゴンはこの国では――ううん、むしろ世界共通での認識だと思うけど、かつてこの世界を救った生き物とされ神聖視されているのだ。
サブタイの多様な魔物はコウも含む。
ちなみに爆兎はマルファのこと。蛇はもちろん転地蛇。
魔物たちの詳しい生体はいずれ人物紹介の時にしようと思います~
が、とりあえずニモが不在でどうしよう。どこいった。
そしてグリーンスライム=みどりんにしてたけど読み直したら緑さんと出してたのがあったのでそちらに修正。




