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お姫様と魔物少年  作者: あしあと
2章 賑やかな城生活
17/29

コウと多様な魔物たち、前編

「ヘンリーどう?土って感覚掴めた?」

「……うーん」


 コウがアデイルに呼ばれたりタリムくんがやって来たという知らせでまた離れる中、私たちは地魔法を使うためのイメージ作りとして片手を土で埋めて、その感覚を覚えようと集中している最中だった。

 これは地属性に適正があるヘンリーが、地魔法の扱いがなかなか難しかったり、地味で授業受けが悪いことから取り上げられないという事情でコウに教えを求めたことから始まる。


 コウやその身内はそれぞれの属性に特化しているらしい。なので持ち属性以外を扱う機会がなく見たことがあるのだけ、との前置きの後実演してくれたのだけど、それは地面からいくつもの棘を作り出す地穿グラウンドピアサーだとか地面を揺らして足場を崩す地崩アースシェイカーという大人でもめちゃくちゃ難しそうな上級魔法しか出てこなかった。専門外とか言いつつも縮小版とか言って簡単にやってのける元が魔物なコウはともかく、子供の私たちにはまず無理だろう魔法だ。

 結局自分たちで編み出す方が早いかもとのコウの提案によって、土いじりをしても咎められなさそうな中庭の花壇へと移動し、私たちは土遊びを始めた。閃き第一号はやっぱりコウだけども、でもその地の魔法を目指して私たちは土に触れている。


「一先ず一回やってみない?危ない魔法じゃないし、先生(コウ)が居なくても大丈夫だよね?」

「まあ、そうだなあ」

「よし、じゃあ私から……地装アースコート


 一度土を払い、魔法を唱えて地面に向けて手を翳すとぼすっと土の塊が当たって落っこちた。ちょっと痛かったが一応の反応にはホッとする。でも思い描いていたのとは違うので、これは失敗だ。コウがやってみせた成功例は、茶色い手袋をしているかのように手を土で覆うものだったから。

 これの用途は素手での作業やら攻撃等の時、手を痛めずに済むんじゃないかって話。使うかどうかは置いといて、他を閃く前にコウもどっか行っちゃったからこれしかやれるものが無いのですよ。


「じゃあ次は俺だ。地装アースコート


 魔法を唱えたヘンリーの手に、ごつごつとした土が集まって形を成す。出来上がりは、相手を殴れそうな握りこぶしのようなものになった。


「すごい、これなら成功のうちじゃない?試しに何か殴ってみようよ」

「殴る、か。じゃあ地面にでも、せぇのっ……な、なんだっ?!」


 掛け声ひとつ、ヘンリーは地面に向けて勢いよく手を振り下ろしたが、ぶつかった衝撃で土は真っ二つに割れるとともに、なぜか地面が液状化というのかぬかるんだ感じになって手をのみ込んでいたのだ。


「お馬鹿なことやってんなー。思わず手ぇ出ちまったじゃねーか」

「だっ誰だっ!?」

「……えと、ひょっとして、ニモさん?」


 初めて聞く声だと思いつつ、辺りを見回せばここには本来ないはずの白い肩掛け鞄を私の傍らに発見する。喋る所は見たことがなくて自信ないけど、それ以外に近場に人影はいないし、何よりコウの連れなのだ。実は喋るとか言われても納得でしょう。


「ほー、よくおれっちだと思ったなー。てかまあ、おれっちしか周りいねぇしわかるか。だからおれっちもしゃべってるわけだが」


 正解、とニモさんは肩紐に当たる部分をひらひらさせて答えを返してくれた。今まで無言だっただけにクールなイメージを持ってたけど、口を開けばわりとフレンドリーぽかったニモさんはなんか不思議な感じがする。


「しっかし強度もわからないのに思いきりはねーぞお子様方。勝手して怪我してたら絶対あいつ怒るだろうこれ。弱い人間のその子供ってのは特に脆いって聞くし気を付けろよな。たまたま通りかかったから良かったものの」

「じゃあこの、これってニモさんが?」

「おうよ。本来は足止めって感じで足場を弛くするようなやつだが少しは衝撃殺せたろ」

「すごい、じゃあニモさん地魔法得意なの?」

「地魔法っつーか、まあそこそこ得意な方じゃねーかとは思うが」

「おお、いいね、地魔法の先生がこんな近場にいたよ。ヘンリー良かったね?これで色々教われるんじゃない……あれ、ヘンリー??」


 反応がないなとそちらをみれば、ヘンリーは手を地面に突っ込んだままぽかんとニモさんを見て固まっている。


「どうしたのよヘンリー」

「いや、だってミリア……これ生き物なのか?何で鞄が動いて、しかも喋るって?」

「王子さんはミミックって宝箱に化けた魔物って知らねーのか?あれみたいなもんだぜ、おれっち」

「へー、ミミックが何かは知らないけどニモさんやっぱ魔物だったんだね」

「というかミリアは何で普通に話してるんだよっ」

「え、なにかおかしい?」

「……いやー、よくよく考えてみればおれっちも王子さんの反応の方が正解なんじゃねーかと思うわ」


 普通は魔物は怖がるものだ、と言葉は違うが似たようなことを二人に言われるが、まあでもコウの連れだし、話も出来て通じるんだしいいんじゃないかと思うんだけどなぁ。



 ***


 所変わって今は移動中。

 ヘンリーがどうにか落ち着き、新たな地魔法の先生に教えを求めようとした頃、ハーレイが私たちを呼びに来た。なんでもコウの身分証を作る話になったらしくすぐに戻れなくなったから知らせに来たのだという。今はプラティオン聖堂に居るとのことで私はハーレイの付き添いのもと、ヘンリーとそこへ向かっているのだ。

 話によるとタリムくん以外のコウの知り合いの魔物もいるそうで、堂々と城に招き入れる様にするための措置だとか。スライムまではサイズ的に隠せていられても、流石に今回のはこっそり城に連れ込むのは無理な大きさらしい。あ、ニモさんは気が向いたら顔を出すと言って今は一緒にはいない。


 プラティオン聖堂とは、身分登録兼相談依頼斡旋所で、最低ひとつは国にある施設。

 まず、身分登録というのは自分はここに住んでいてこんな職に就いてますよという個人を特定出来る証明書を作ること。結構お金がかかるとのことで別に登録しなくても生きてはいけるんだけど、あった方が相手の信頼を得やすく、仕事や物の取り引きをしやすいという利点がある。

 これは定住者に限らず冒険者等の旅人の登録も可能で、そしてまた有料になるんだけど魔法の使い方及び適正と魔力量を教えてもらうことも出来る。それをした人にはセカンドネームが与えられ、身分とは違うが一種のステータス扱いになっているらしい。

 例えば私の名前、ミリア・ウィシュルム・シルヴァニアのウィシュルム(意味は風適正・中)や、ヘンリーのヘンリー・ジオール・ラグノイアのジオール(地適正・低)がそれに当たる。

 あともう一つ、相談依頼斡旋所というのについては国内や近隣の人達が仕事の人手が欲しいとか、魔物を倒して欲しいという色々な頼みごとを聞き、またそれを受けてくれる人を募集してその解決を手助けしてくれる事から。

 ちなみにこのプラティオン聖堂、個人情報等はその人の許可なく国にすらも流されることはない程の口の堅さというか秘密厳守も売りです。何故かというと、そこに勤めているのは元が人ではないので国や権力の蚊帳の外、しかもこれらは彼らの善意――長い時を生きる彼らの暇潰しでもあるらしい――でやってもらっている事なのだ。儲けた金はどこ行くのかと言うと一部は土地代として国に納め、後は貧しい人達や橋、門や柵等の建造・修繕費用にとばらまいてくれているとか。とてもいい人たちだよね~。


 やがて目的地である緑の建物が見えてきた。

 プラティオン聖堂は建物自体は石造りだけど、壁面から室内までどこもかしこも蔦が蔓延はびこっていて別名は緑の建物だ。そんな妙な所で働く人じゃない職員といえば、もう植物関係だろうって予想つくよね。

 そのひとたちは植物人族といって、植物の亜人種とかいうやつらしい。見た目は色々とあれなので人のローブを纏ってお勤めしてくれてます。元が植物だからか感情表現が乏しく淡々としてるけど、性格は温厚で真面目。

 彼らは植物ネットワークとやらで各地にいる仲間や植物たちと情報のやり取りが出来て色んな情報――やろうと思えば個人のひととなりまでも知れるらしい――を持ち、更に驚異の記憶力――例を上げれば名前と職業以外は記録に残さずに済む程――等、私たちを沢山の面で支えてくれている。


《ほー、このような物で人の街を歩けるようになるとはなかなか良いものがあるもんじゃ~》

「だからって堂々と歩くのは無しだぞ」


 目的の建物の、その裏手――王族とか今のコウみたいに魔物連れやその登録等、人目を避けれる用の別の入口がある――へと回っていた時、何やら変な声が耳に届いた。あと、アデイルの声も。


《何故じゃ、それではこれの意味が無いのではないか》

「これは主人が一緒という条件の元に認めてるものなんだ。放し飼い……おたくにこの言い方が当てはまるのかはまた疑問だが、魔物はあくまでも魔物、一般人に善し悪しなんてわかるわけないだろ?だからそれから目を離すというのは魔獣士として非常識とされてて、しかも問題を起こしたとなれば最悪街の出入りも禁止になったりするんだ。だから、そういう行動は主人の外聞を下げる事にも繋がるからなるべく控えた方がいい」

《ふむ、坊に迷惑をかけるのでは致し方ないの。困らせるのは本意ではないわい》


 話から察するに変な声はコウの知り合いの魔物で、それとアデイルが話をしているみたいだが、姿が見えるところまで来てもアデイルしか見当たらない。会話の相手は一体どこに。


「アデイル、今誰と話をしてたの?独り言じゃないもんね?」

「あ、姫様。ええ、今は目の前のこの木と話してたんですよ。ジィギといって、コウの知り合いなんだそうです」

「えっ、木、なの?」

「は、なんで木が喋るんだっ?」

「話に聞いていたが木が本当に話すとはなあ……色々旅してきたつもりだがまだまだ不思議は転がってるもんだ」


 私、ヘンリー、ハーレイの順にそれぞれが感想を言う。その間にアデイルが私たちのことをジィギさんに紹介していた。


《ワシはジィギ申すのじゃ。坊共々よろしく頼むの》


 ジィギさんは怪走樹ランナーツリーという動く木の魔物だという。お爺ちゃん口調で挨拶をくれるとわさわさと風ではない揺れ方で枝葉を揺らし、動いて見せる。木なのに動いて、しかも喋って、それがお年寄り口調とか……ニモさんと言い、なんだかコウの知り合いは一言では済まなそうな変なのが多そうだよね。


「それにしても、コウじゃなくて?」

《小さい頃に知り合っての。その頃からの呼び方じゃな》

「そうなんだ。小さい頃っていつぐらいからなの?」

《確か三歳と言うとったかの~。昔の坊はもう眩しいくらい可愛らしかったぞ。話してると心が洗われると言うかのぉ……あ、性格の話じゃぞ?あ、じゃが決して今がどうという話ではないからの?昔はそれが危なっかしかったのだから今くらいで丁度良いじゃろうて》

「へぇぇ~」


 コウの昔話が聞けるとはなんか楽しい。隣では「なんでまたミリアはすぐ受け入れられるんだよ…」とヘンリーに呆れられていたが、だってコウの知り合いだし怖がる必要は無いと思わない?


「ところでコウは?それになんでアデイルは外にいるの?」

「ジィギの旦那が屋内には入れないので付き合ってたんですよ。コウはまだ中で他の魔物の登録してると思います。なんか増えたんでまだ時間かかるんじゃないですかね」

「そういえばタリムくんが来てるんだっけ。じゃあカーラさんも来てるんだ?」

「あれ、そういえばいなかったな……え、なんであいつ一人なんだ?あっちで何かあった……いや、それならコウが何かしら動いてるはず」

「キュイッ!」


 アデイルの口振りからカーラさんは居なさそうと思ったとき最近よく聞くようになった良く通る鳴き声が聞こえてきた。見上げれば頭上を旋回する二羽の鳥――ククイットと恐らくはシュレイだろう鳥影。

 シュレイもいるということはお母様達の所から来たって事で、もしかするとカーラさんがらみ?なんて思っても向こうは一向に降りてこないので状況はまるでわからない。


《鳥っ子たちや、坊は今建物の中じゃよ》

「キュイッ!?」

《ワシはジィギと言うて坊の知人じゃ。坊に用があるんじゃろ、坊は中じゃ》

「キュククッ」

《むう、ワシの声は聞き取りにくいらしいの。代わりに伝えてやってくれんか?》


 確かに、ジィギさんの声は抑揚に欠けているのでちょっと聞き取りにくいかも。

 そうしてアデイルがククイットたちに話をし、ジィギがククイットたちの意をアデイルに伝えというやり取りでわかったことは、タリムくんが居なくてカーラさんが心配しているという事だった。これってコウのお説教コースなのでは。


「ぴぃ、ぴぃ!」


 不意にまた何やら鳴き声が聞こえ、辺りを見回せば建物からピンク色の真ん丸な生き物らしき何かがぽむぽむと弾んで出てきた。ジィギさんの傍までやって来ると、より一層ぽんぽんと跳ねて鳴いてと忙しない。あれは生き物、でいいのかな。近くで見てても毛玉にしか見えないから自信がもてない。


《ふむ、何やら坊が荒れておるようじゃの。アデイルといったか、お主。ちょいといって宥めてやってもらえんか》

「えっ、俺が?」

《ワシはこの建物に入れぬし、撫でる手も無いからの。お主には少なからず好感を抱いておるようだし頼まれてくれんか。なに、頭を撫でてやれば収まるじゃろう》

「好感……撫でるだけでいいのか?」

《坊もまだ子供だからかの、そうされるのは好きなようじゃよ。よろしく頼むぞ》


 離れるアデイルの代わりにジィギさんの側にはハーレイが代わりに残ることになり、私とヘンリーはアデイルと一緒にコウの様子を覗きに行くことにした。



***


「何度言ったって駄目。お断りです」

「シュルル!」

「役に立つどうのじゃないの。そんな力の基準で付き合う相手選んでないから。力の押し売りとか迷惑だから」


 目に入ったのは説教時とはまた違った怒れるコウと、恐らくただの蛇ではないだろう蛇との口論現場であった。そばに居たタリムくんもおろおろしていて、随分と険悪な様子。

 何がどうなっているのかと戸惑っていると、コウたちの様子を眺めていた植物人族――シルヴァニアのプラティオン聖堂に長ぁく勤めている古株のアラウディさんがこちらに気付いて説明をしてくれた。


 コウの従魔になるにあたり、タリムくん、ジィギさん、マルファ――ぽんぽん跳ねていたあのピンクの毛玉のことらしい――と主従登録していたら蛇さんも興味をもって自分も、といったのをコウが断った事から始まったらしい。

 蛇さんは断られたので自分はこういうことが出来るとアピールして再度交渉を試みるも、力量で友人を決めるかのような話に不快になったコウに突っぱねられ、蛇さんは力をも否定されたことで意地になり今に至るとのことだった。


「お兄さん、ろくに知りもしない相手と人の街を安全にうろつくためだけに主従契約とか普通無いよね、おかしいよね?力の有無どうこう以前の問題でしょ」

「あー、っと。まあまあ、ジィギが外で心配してるから一先ず落ち着け?」

「む」


 怒れるコウに話を向けられ怯んだものの、アデイルはジィギさんの教え通りにコウの頭撫でを強引に実行に移す。コウは不満そうなものの、ぽんぽんと宥めるように頭に置かれる手を振り払うことなくじっと見つめて大人しくされるがままになっていた。なんというか、初めてコウが年下だって思える一面を見れた気がする。私でもやったらああなるのかな。

 ――ちなみにコウを静めて随分辺りが静かになったと思ったら、蛇さんの方はいつの間にか来てたらしい黄色さんに潰されていたという。


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