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お姫様と魔物少年  作者: あしあと
2章 賑やかな城生活
14/29

隣国の王子と暴露話、後編

コウ視点の話になりました。

 何がどうしてこうなったのか。

 団長さんの突撃後、俺たちは騎士とかいういわゆる国を守る人たちが鍛練する場所の一角に来ていた。

 それまで一緒にいたお姫様と王子様はもちろん、その場所に顔を出してすぐこちら側に寄ってきたアデイルお兄さんも加えて、今は目の前で繰り広げられている光景を眺めやる。そこでは団長さんと黄色さんの戦いが行われていた。


 これは人VS魔物という(てい)だけど、命をかけたやり取り等というものではなくてただの試合(手合わせ)だ。

 しかも悲鳴を聞きつけて駆けつけた城内の人ほぼ全ての人が遠巻きながらも観戦者になっていて、団長頑張れ、黄色いのも頑張れという声援まで飛び交ってるのでもう完全なる見世物状態である。

 人の世界ではスライムは危険という認識があったらしいのに、何故快く声援まで送られる状況になってるんだろう。たまにここの人たちの対応力にはついていけない……そもそものこうなったきっかけは団長さんだとは思うんだけど。


 初めのうちは城内での稀にみる魔物の侵入に加え、それがスライムだったことに集まってきていた人達はパニックになりかけていた。でも団長さんが「害意は感じられないから皆落ち着いて。スライムって普段は温厚なんだぞ。何もしなければ大丈夫だから」とスライムに理解のある対応で周りに言い聞かせていったんだ。

 団長さんってわりと発言力あるらしいんだよ。

 この件を見てて思い返してみれば、俺に騎士にならないかって言い出した辺りからの俺に対する周囲の視線とか態度とか、軟化してた気がするんだよね。

 で、それで事が収まってくれれば言うことはなかったんだけど、団長さん、何を思ったか黄色さんと俺が友好関係にあると気付いたら手合わせをお願いしてきたんだよ。一度は戦ってみたい相手だとか何とかって。

 俺はスライムは戦いには向いてない種族だからって断ろうとしたんだけど、黄色さんがすごく乗り気だったから止めるわけにも行かなくなってしまって。……団長さん、見直しかけたんだけどこういうとこが残念なんだよな~。


 そしてその現状は、終わらない試合と言っても過言ではなかった。

 まず黄色さんが飛びかかり、それを団長さんがそれに対応しようと剣を振るう。でも切られた端からくっついて再生した黄色さんがその剣を足場にしてより近距離から飛びかかり、団長さんは体勢を崩しながらもそれを避けて仕切り直し、というのが一試合の流れだ。避けられた黄色さんは勢いのままに彼方に飛んでいくので続けようがないとも言う。


「なかなか決着つかないね~」

「だね」


 隣で見ていたお姫様も少し飽きてきたらしく、焦れったそうに呟いた。

 最初は黄色さんの動きにいちいち反応してたけど、同じことが続けばまあ誰だって飽きるものだ。進展も無ければ、そもそも明確な勝敗が決まるのかどうかも怪しい試合だ。

 何故ならスライムは魔法と火以外なら防御は無敵と言ってもいい。だから団長さんがいくら頑張っても、剣では黄色さんに負けはないのだ。

 かと言って、黄色さんの勝ちもまた難しい話だった。

 スライムはまん丸な姿形からわかる通り、殺傷能力に乏しく体当たり一本なのである。当たらなければ意味はないし、そもそも当ててもそれで決定打になる程の威力があるとも思えず。

 具体的な決着方法も話し合ったわけではなかったから、このままお互いの体力が続く限り、この試合はたぶん終わらないんじゃないだろうか――。


 二桁をとうに越えた回数を重ねても代わり映えの無い、でも俺にはまだ少しやりようがあるんじゃないかと思える試合内容。

 当人同士の戦いなので黙っているけど、俺もあまり見守るだけってのは得意じゃないんだよなあ。お姫様じゃないけど焦れったくてしょうがない。他に気がかりなこともあるし、少しくらい離れてもいいだろうか。


「ちょっと抜けようと思うんだけど」

「えっ、どこ行くの?」

「侍女さんが驚いて壊した花瓶、この流れでまだそのままかもしれないでしょ?確認がてらその片付けをして来ようと思って。後々誰か転んだり躓いたりしたら危ないし」

「ああ、そう……」


 こういうことを言うと、毎度何故かお姫様には呆れられる。

 怪我しやすい人間にこそこういう配慮って大事なんじゃないかなあとは思うんだけど……まあ今はそれだけが目的じゃないので何も言わないでおく。花瓶というカリカリ食感の物を得られるチャンスなのだ。自分の住処(とこ)では入手困難な貴重品である人が作った食器類、是非とも欲しい。


 そうして歩き出した丁度その時、また団長さんの顔の脇を飛び抜けていた黄色さんが俺の進行方向に落ちてきた。二、三度跳ねた後こちらに気付いたようで、何やら慌てたように近寄ってくる。

 スライムたちは、団長さんが言ってたように皆一様に温厚で事なかれ主義というか、ふんわりした印象の種族だ。彼らは基本、言葉を覚えたての幼児みたいに文ではなくぽつぽつとした単語を話す。でも上位種の黄色さんともなると、我が出てきたと言うのか、ちゃんとした会話も出来るし喜怒哀楽も抱くらしい。


《ちょ、待て?どこ行くんだっ?まだ試合終わってないぞっ?》

「あー、誰も怪我しない試合なわけだし進展もまだしなさそうだから少しくらい離れててもいいかなーって思ったんだけど……だめ?」

《だめっ!お前が見てくれてなきゃ試合(これ)の意味ないんだっ!頼むから団長(やろー)をぶっ倒して俺が勝つとこ見ててくれよ!》


 黄色さんがすごいやる気を見せていた理由は俺に見せるため、だったらしい。何故見せたいのかはまた謎なんだけど。


「よくわからないけど、俺が見る意味あるの?」

《ある!お前いっつもあいつにいじめられてるじゃないか!王様にも殺ってこいって言われたし、ちゃんと見ててくれよな!》


 話からするに、どうやら団長さんとの日中の追いかけっこはいじめととられていたらしい。

 黄色さんと話すのは毎日ではないし、人が寝静まった夜とまた限られているのでそんな認識の違いが起きていたとは思わなかった。最近は双方合意の上での追いかけっこ――勧誘関連の話の続きってことで、でも負ける気は勿論無い――になっていたんだけど。


「んー、とりあえず黄色さんが団長さんに勝つ所を俺に見せたいんだっていうのはわかった……うーん、じゃあちょっと、今のままだとあれだから口出ししてもいい?」

《ん?》

「黄色さん、団長さんの剣すり抜けた後トドメとばかりに顔を狙ってるから、初撃で本命(それ)狙うのは黄色さんには難しいよって言いたかったんだよね。避けられた空中で方向転換なんて誰だってそうそう出来るもんじゃないから、わかってても避けられない場所――例えば体の中心とか、そこならちゃんと一発入れられるはずだからそれから次に繋げる感じのが黄色さんには良いと思うんだ」

《おーなるほどっ!よぉし、見てろ!次であいつをぶっとばしてやるからな!!》


 その結果、アドバイスは活かされ見事黄色さんの勝ちとなった。……若干、反則を否めなくもない勝ち方ではあったけど。

 黄色さんは俺と雷友達なだけあって雷を内包している。それを団長さんの胸当てに体当たりしたときに放ち、痺れて動きを止めた団長さんの顔側面をぺちんといい音を立てて殴り(体当たり?)倒して見せたのだった。


 その後は黄色さんが満足してしまったため試合終了となり、今度は俺が団長さんに絡まれるはめになった。自分にも必勝法(アドバイス)がほしいとかなんとかってね。

 スライムはそもそも攻撃タイプじゃないのでそんなことをしたらそれこそいじめである。なので黄色さんをいじめるなら俺が相手になると言ったら見事に矛先がこっちになったのさ……。

 言ったことに悔いはないけどあれは鬱陶しかったです。


 ちなみに花瓶の件は向かったときには既に遅かったらしく、誰かが片付けている途中なのか花瓶の残骸は無く、散らかった水だけがその場にあった。

 残念だけど、まあ無いものは仕方ない。

 もうすぐ夕食の手伝いの時間で、食器に触れられる時間だ。沢山のそれを拝めるだけでも良しとしなくては。



***


 夕食の後片付けも終われば後は明日まで自由時間となる。とは言え、一人で過ごすことはまずないんだけど。

 自分用に宛がわれている部屋へ戻ると、黄色さんの出迎えをうけつつ、やはり今日もそこにお姫様を見つけた。何故か王子様も一緒だ。

 ちなみに黄色さんは俺の連れ扱いとなって滞在許可がおりていた。王様、それでいいのか。そしてここのひとたちって本当、危機感とか警戒心とか無さすぎではないだろうか。


「それで、なんでまたここにいるかなお姫様は?今は王子様(そっちのひと)のお相手をするべきでしょ」

「皆でお友達やるために来たのよ。今まで年の近い遊び友達なんていなくてずーっと二人だったのよ?コウが加わって三人になれば絶っ対楽しくなるんだから、ヘンリーのためでもあるわ!ねっ!」

「どうなの王子様、嫌なら嫌って言わないとだよ?」

「いや俺は…俺も、話をしたいと思ってここにいる。お前が魔物だって聞いて、話をしてみたいなって思って」

「……は?」


 聞き間違いかと思ったが王子様の視線は真っ直ぐにこちらを見ている。

 どういうことかとお姫様を見やると「コウがすごいの自慢したかったし、手っ取り早く友達になるためには言った方が早いじゃない」と反省の欠片もなく軽~く言われた。

 相変わらずお姫様の思考は不可解である。

 そして王子様にも警戒の色がほとんど見られないのは何故だろう。


「ちょっといい、何をどんな風に言ったの?聞いたの?」

「えっとね――」



※※※


「スライムって人になつくんだなあ。なつく姿を見てると途端に愛らしく見える不思議だな」

「あー、あれはコウだからだよ。コウはすごいんだよ。ククイットもすぐなついちゃったんだから」

「えっ、あの伝書魔鳥が?へえ、すごいな~」

「すごいでしょお。ね、そんなコウとお友達になろうよ。コウは身分とか気にしない子だから対等って感じで一緒にいてすごく楽しいよ!」

「対等に?……そんなことがあり得るのか?」

「あるあるっ。だってコウは魔物なんだもの」

「は?」

「あ、これ知ってるのはお父様とアデイルだけだから気を付けてね?ここだけの内緒話だから」

「……はあっ!?」


※※※



 その場には黄色さんも居合わせていたらしいので確認すればその通りだと言う。もうため息も出てこない。


「こんな突拍子もない話、よく王子様信じたね」

「色々と理由はあるが、一番はミリアは誤魔化すのとか嘘が下手だから、そうじゃなかったら本気なのは確実だろうなって」

「あー…そういう捉え方もあるか。お姫様は考えたことがほぼまんま口に出るタイプだし」

「だろう」

「…なんか貶されてる気がするんだけど?」

「相手を欺くのが苦手ってことは純粋ってことじゃない。動物たち並みに純粋ってことで」

「それって誉めてないよね!」


 こちらとしては誉め言葉を言ったつもりだったんだけど、反ってお姫様には拗ねられる結果になった。相手を陥れるのが人間という生き物だと聞いていたから、ちょっと変わってるが動物たちみたいに真っ直ぐな性格してるお姫様は好感もてる――のはまあ、どうでもいいか。


「にしても王子様も魔物に嫌悪抱かない人なの?普通に俺と話してるけど」

「そこは事前にお前がどれだけいいやつかを語られてたからな。実際話してみてもまともな返しだったし。あとはなんというか……元々シルヴァニアの姫は変わり者だって有名な話があってさ、それと友人を続けるコツは広い心を持つことだって言われてて。これまでも色々とやられてきたから、何かあって驚きはしてももうそうか~って感じ?」


 苦笑いする姿に王子様もわりと苦労の人だったらしい事が判明した。その姿勢は共感してしまうものがある。

 でもだからこそ一つ言いたい。


「王子様、だからって何でもほいほい言うこと聞いてちゃ駄目だからね?ちゃんと止めるとこは止めないと。今回の場合は特に、俺が悪い魔物だったらどうするの。なにか起きてからじゃ遅いこともあるんだから」

「いい魔物じゃないか、そういうこと言うし」

「今はそうじゃなくて、止めるところは止めないとっていう話でね」

「わかった。気を付ける。だから俺とも仲良くしてくれ?」

「……あーもう、なんでそんな魔物相手にと仲良くとか簡単にさあ……そもそも俺ここに長居しないしなるだけ無駄じゃない?」

「そういえばそんなこと言ってたよな。ここにいるのって何か理由があったからなのか?」

「まあ。……王子様は口堅い方?この事は俺が魔物って話以上に不用意に話していいことじゃないから」

「あー……まあ、ミリアよりは堅い方だ」

「比べる相手が低すぎるし」

「ふは、言うよなお前っ!」


 吹き出した王子様は「二人とも酷くない?」とむくれるお姫様を余所にしばらく笑った後、気になるからやっぱり教えてほしいと言ってきた。まあ、王子様はお姫様よりはしっかりしてそうだから何故おおっぴらには話せないのかを指摘すれば大丈夫だろう、と判断して話をした。


「なるほどなあ、ミリアのお姉さんが生きてたのか……。それでわざわざ人の事情に首突っ込んでるのか?本当、お前いいやつだな~。やっぱ友達になってくれないか?」

「またそうなるの……」

「なんだよ、ミリアとはもう友達なんだろう?」

「まだだよー、全然首を縦に振ってくれないの」

「ふーん。よし決めた、俺はここにいる間お前とこの部屋で寝泊まりするからよろしくな!」

「あっずるーい!私も~!」


 そうして王様と掛け合ってくると言って部屋を出ていく王子様をお姫様も追い掛けていき、もう後半俺の抗議はあってないようなものになっていた。

 お姫様も変わっているが、他国から来た王子様も随分と友好的過ぎやしないかな。俺の中の王族お堅く見下し説がどんどん崩れていくんだけど何が正解なんだろうか。


「どう思う、黄色さん」

《嫌なら追い出してやるからいつでも言ってくれ》

「いやいや、物騒な事はやめようね」


 俺もなかなか相談相手に恵まれていないらしい。


 その後、いい笑顔の王子様が不満全開のお姫様を連れて戻ってきた。

 結果に想像がつくなと思っているとついでに明日の仕事も休みだと言い渡され、憩いの時間(厨房の話)が無くなったことに衝撃を受けた。




凹んだコウにニモ(動く鞄の魔物)からサプライズ!


真夜中の散歩中。

「コウ」

「どうしたのニモ」

「これやる」

ニモの手――肩掛け鞄の紐部分を指す――には壊れた花瓶の欠片。

「欲しがると思ったから全部回収しておいたぞ」

「ニモすごっ!ありがとう!」


一日一欠片大事に食べるそうです。

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