王様の悩み事
次章の前に、これまでの王様視点というか。
短め?
仲間内の会話なので分かりにくいかと呼び名を先に明記しときます。
エル→エリオル(王様)
ミア→レイミア(王妃)
アド→アドア(宰相)
ハリー→ハーレイ(騎士団長)
リリー→リリエラ(侍女長)
私とミアの間に産まれた二番目の娘――ミリアが城に居ないことを知ったのは夕食を迎える時間になろうとしている頃だった。
「エルっ! 姫ちゃんが見当たらないのっ!」
城では侍女の纏め役をしている彼女、リリーが執務室に入るなり焦った様子でそう告げる。
リリーがミリアの不在を知ったのは昼前らしい。でもそれは珍しい事ではなかったし、夕食には帰ってくるだろうと思っていたから今まで告げてこなかったと言う。
普通は昼食時の不在で疑問に思いそうなものだが、城という狭い空間にいる反動と言うのかせめて外食気分を味わいたいと我儘を言われ、ミリアは昼は決まった場所や時間にとらないのだ。
習い事はサボるものの、それでも誰かを心配かけるほどのお転婆は最近はなりを潜めていたから油断していた。不自由な思いをさせていると思い多少は多目にみていたが、こうなるとこの考えは改めなければならないだろう。
しかし一体ミリアは何処へ行ったのか。書き置きすらなく、手がかりは何も無いという。
初めてではないものの、それでも外に奇行が知れ渡るのはよろしくないので内密に知己にのみ話を告げて捜索の知らせを待つ。
本来は普段から面倒を任せていて心当たりが思い当たりそうなアデイルに頼みたかった所だが、彼は今休暇という名の別任務。タイミングを考えろ、ばか娘。
そうして結局見つからぬまま、戻らないまま翌日を迎えることになってしまった。何も問われはしないが、そろそろ勤める者たちに勘づかれていてもおかしくない頃だろうと静かな城内を見て思う。
上の娘のリーナは随分と前にやむなく離別し、良くも悪くも城に活気を与えてくれていたミリアも不在。
もしもなにかあったら――と、むしろ自分の方が耐えられなくなり剣を手に動こうとしたが、そこは幼馴染み兼宰相のアドに先回りされていたようで王自ら動くなと執務室に閉じ込められていた。
そして知らせは思わぬ所から舞い込んでくる。
窓をカツカツと叩く音に振り返れば二羽の黒鳥の姿――私と妻のミアとで卵から育てて可愛がっている偵察鳥という魔鳥のククイットとシュレイアがいた。
伝書鳩の真似事が出来る程に賢いこの子達は、もう一人の娘リーナの件で別々に過ごすことにさせてしまったので来る度に共に居る姿を見かける。そしてこれは手紙が来たという分かりやすい合図でもあった。
窓を開ければ二羽は私の両肩にそれぞれ留まり、ミアの所で過ごすシュレイアが文を付けた脚を示して鳴く。広げたそれには《バカ来てるけど知ってるの?》という短い質問が綴られていた。
一瞬何の事かと思ったが、現状を思い出すとそれがミリアのことだと思い当たった。ミアの周囲でバカ呼ばわりされるのはミリアしかいなかったからだ。
一先ずミリアが見つかったことに安堵しつつ、その行動力には舌を巻く。ここから彼女の居るところまでは半日以上は掛かる森歩きなのだ。道らしい道もなければ目印を立てているわけでもなく危険も無いわけではなかっただろう工程に心配も過ったが、簡潔なミアの文面から語るまでのことではないのかもしれないとそれは一旦脇におく。そうして、王妃の静養先に乗り込んでいるので今ミリアは不在だということを臣下たちに打ち明けた。
……毎度のことながら、驚きに次いで呆れや同情の視線を向けられるのは居たたまれなかった。
ちなみに、静養先の場所を知る者は私達夫婦の知己の間柄の者のみだ。訪れがあっては静養にはならないからとか最もらしい理由で秘密にし続けている。
丁度と言うのか、そこにはアデイルが居るので帰りの心配などはもうしていない。此方に着くのは翌日の夕方頃にでもなるだろうか?
そう構えていると、また窓を叩いて知らせを持って来たシュレイアにより予定がかなり早まったことを知った。
先程とは違って両足に太く巻かれた文には、ミリアがとんでもない同行者を引っかけていたことや、その相手を黒い翼の原因追求の為の滞在させる旨が書かれていた。……既に決定事項なのは気にしたら負けである。
色々と段取りというものがあるのでククイットに到着を遅らせてくれる旨を書いた手紙を預け、私はその時を待った。
子供とはいえ魔物だという少年に内心身構えていたわけだが、話してみた彼はとても良い子に思えた。眠気に堪えるミリアに対し、今回の軽はずみな行動を私にしっかりと謝らせるその言動は好印象しか抱けない。
なんでも彼の身近にもミリアに似た言動をする存在が居るらしくその世話癖なのだそうだが……それを語る苦笑気味の顔に親近感も沸く。
更にはそれなりにククイット達と意志疎通が出来ていても改めて彼からの具体的な言伝に感激したのもあって、城の滞在は了承するどころかいつの間にか引き留める側に立っていた。
そこは我ながら現金だったとは思うが、敵意も害意も見られず至って普通に話を返す彼に警戒心はもう抱けようもなかった。というか、魔物姿を見ていないので魔物であることの方が信じられないというのが今一番の想いだろうか。
そして周りの彼に対する評価はというと森生活に慣れた森の民というミア考案によるやや怪しげな設定で招き入れたわけだが、他者に懐かないククイットが後ろを付いてまわる程に彼に懐いていたおかげでその信憑性が一気に上がったようだった。
その上、団長のハリーが騎士にと勧誘した事もあって――色々あって目利き団長とハリーは周囲から一目置かれているのだ――周囲の警戒心も和らぎ、最後のだめ押しは少年自身の人柄で、ほぼ初日で受け入れられたと言っても過言ではない。
彼は年上という括りはあっても上下関係は無しに真っ直ぐ接してくるから、相手を気楽にさせるのが上手いのかもしれないな。
そうして彼の滞在を特に何事もなく済ますことが出来てホッとしていたのだが、その日の夜はハリーから思いもよらない話を向けられることになった。
「エル、あの少年についてちょっと話があるんだが」
「話……? ひょっとしてあの騎士発言とかか?」
「おう、それ」
一日の仕事を終え、執務室で寛ぐ私とアドの所にそう言ってハリーは顔を出した。
その発言にアドは思い出したように顔をしかめる。
「毎度毎度ああいう発言を簡単にしないでもらえます? 貴方は団長なんですよ、この国の。得体の知れない者を勧誘して連れて来ては民たちを納得させるのにどれだけ苦労しているか。振り回される此方の身にもなって下さいよ」
「あーいや、その話なんだが……騎士発言は咄嗟に出てきただけで本当は違うんだよな。言いたかったことはそれじゃない」
「はい?」
「前にほら、言ったことあったろ。エルとミア嬢が一緒にいる所を見たときしっくりくるなってさ。あれと同じ感じで、俺にはあの子と姫さんが一緒にいるの見てたらなんかしっくりきたんだよな」
「それは、つまり――――結婚相手とか、そういうことを言いたいのか? あの少年がそうだと」
「さあなあ? いつものなんとな~くだからわからん。まあ取り敢えず、言いたかったことはそれだったんだ」
「…………」
ハリーの"なんとなく"発言には馬鹿に出来ないものがある。それを知っている私とアドは視線を交わして口を閉ざした。
旅をしていた最中はそれで危機を回避したことも一度や二度ではなかったし、今では就職口と誰かを連れて来ては実際に有能な人材に育っていく姿を見ているのでなにも言えなくなる。
結婚予知に関してはまだ今回で二回目なので何とも言い難いが――ハリーは元々が占い師を生業とする家系の生まれからか、先見の明とは言い切れずともそれに似た勘らしきものを発揮した時は考慮すべき事項なのだった。
「それがどうして騎士の勧誘になったんです?」
「だってあの子、ひとつ所に定住しない森の民とやらなんだろ? 引き留める何かがあった方がいいかもなって思ったんだよ。あと、わりと周りも見えてるみたいだから鍛えたら荒事にも対応出来そうだろう?」
「なるほど、そういうことでしたか……それにしても姫様のお相手とは。そうなると、ちゃんとした身の証を示せる物が必要になってきますね」
「……いいのか、アド?」
その言葉に俺は驚いた。何故なら頭脳担当、堅物イメージそのままのアドが簡単に余所者を受け入れるのは珍しいからだ。
「ハリーの発言の立証はこれまで体感してきたわけですからね。それにこういう話になるとは予想外でしたけれど、ただの子供ではないだろうとは思っていたので。そもそもが"シルヴァニアの姫"である姫様が連れてきた子ですし? 貴方も考えなしに招き入れたわけはないでしょうし。……一言の相談も説明もなかったのは不満ですけどね」
「……すまん」
向けられる信頼の擽ったさと、実は今だ明かすことの出来ない秘密を抱えているもどかしさに私はそう言って言葉を濁した。
「でもそーなるとどうするんだい? あれは」
「あれとは?」
「姫さんには先約がいるじゃないか」
「ああ……」
ハリーの言葉に今更ながらその存在を思い出す。旅のなかで知り合った王族の友人の、その子供。親同士での口約束ではあったものの、月一で訪れるくらいだから当人はわりと意識してそうだ。
さて、どうしたものだろう――。
次の章は魔物も少し増やして賑やかに出来たら良いなーと思っております。




