第7話 サバイバルうま飯???
サバイバルうま飯???
「そう! 私、死にかけて病院に入って、実感したの!
いま病院って患者がご老人ばかりで、看護師さんも大変!
あれは看護じゃなくて介護よ!
もう自分で食事できない人が、たくさん病院でお世話されていたのよ!
私、病院に入っている場合じゃなかったわ!」
と、新しいレシピ本の企画について、熱弁を始めるアンズ先生。
「そして、病院でボーっとテレビを見ていたら、物価上昇、円安! おまけに戦争!
もう日本の未来だって、いつどうなるかわからない!
こうなったら、いつでもどこでも、しっかり自分で食事を作って食べる!
そういう、人生をサバイバルできる料理!
そんな料理のレシピ本を作りたくなったの!」
とここで、一呼吸置くと、
「簡単でコスパも良くて、調理器具もできるだけ使わずに調理できて、健康的!
しかも、絶対おいしい!
それが、『サバイバルうま飯 』!
次の企画はこれよ!
この企画に乗ってくれる出版社とだけしか、今後は仕事しません!」
と宣言したのだった!
ええええ〜。そんなー!
アンズ先生、どうかしちゃったんじゃないか……。
という編集者全員の心の声を無視して、これで話は済んだとばかりに、アンズ先生のオフィスを追い出された4人だった。
ビルの出口を出たところで、お互いに牽制するように、 軽い立ち話になる。
「どう思います? 私は売れるとは思えませんが。
今のレシピ本の流行とは全く当ってない」
「キャンプ飯が、一時期よく売れましたが。
あれはレピシ本というより、キャンプをやってる芸人やインフルエンサーの人気です」
「トリッキーな企画すぎますね。うちはパスだ」
などと、 『サバイバルうま飯』 という企画について、口々に否定的な意見を口にする。
そんなマイナスな意見にうなづきつつも、「どうだろう?」と考える花森。
確かに、最近流行りのせいろや、かんたんレンチン、あるいはスローフード的なレシピ本の流行とはマッチしていない。
だけど、まだまだ、簡単で、格安で、節約できる自炊ご飯は、人気のジャンルだ。
レシピ本の市場はデカくて、細分化されている。
会社では「市場が狭い」と言われてしまったスイーツだって、他社から数十万部を超えるヒットだって出てる。
そう思いながら、花森がスマホに送られてきた企画書に再度、目を通す。
「サバイバル」って言っているから、過酷な環境でも作れる料理に限られていて、凝った料理は作れない。
キャンプ飯に近い手軽にできる料理で、せいろやレンチンはできないだろうけど、ようは「オシャレな飯ごう飯」?
人気のワンプレートご飯みたいなもので、いまのアンズ先生の話題性と人気なら、ワンチャンあるかも?
デザートはレシピ候補の中にないけど(涙)。
なんてことを考えながら、会社に戻ると、いそいで部長の山下と先輩の加藤に相談する花森だった。
だが、企画提案の結果と、「サバイバルうま飯」の話を聞いた二人からの反応は芳しくないものだった。
やはり二人からも、「この企画はどうだろう?」と否定的な意見しか出てこない。
そこで花森から、
「あの、おっしゃることはわかるんですが。
アンズ先生が、『今後はこの企画を出してくれた出版社とだけしか仕事をしない』とおっしゃっていて。
今後、ウチからアンズ先生の本が出せない可能性が……」
と補足すると、部長の山下が顔色を変えて、
「えっそうなの! それは困るよ!」
と叫ぶ。
「部長、私、思うんですけど。
キャンプ・ブームがあって、『キャンプ飯』はレシピ本の定番テーマになりました。
いまのアンズ先生の人気を考えれば、料理本というより、タレント本としてプッシュすれば、ヒットの可能性はあると思うんです」
と花森が言うと考え込む、山下。
しばらくして、部長の山下が力強く、
「よし!
花森、今日は残業できるか? 加藤も。
いまから社長の予定を押さえるから、今日中に説得して、この企画のGOサインをもらおう!」
とめずらしくやる気を出したので、いっしょに社長のもとに行く、花森だった。
そして後日、花森から塚本マネージャー宛てに送ったメールに対し、
「花森様、この度は企画検討のご連絡を、ありがとうございました。
前向きにご検討いただけるということで、アンズ先生に報告させていただきます。
この件は、他の出版社様からのご回答を踏まえて、改めて回答させていただきます」
という返信が、塚本マネージャーから花森宛てに届いたのだった。
後日、アンズ先生の事務所に再度、出版社の編集者が集められた。
けっきょく全出版社がアンズ先生の希望通りの企画で新刊を刊行することを、希望したようだ。
それで、集まった編集者4人を前にしたアンズ先生から、
「お声がけした全社から出版を希望していただき、たいへん光栄です。
それで、皆さんから出版条件をいただきましたが……。
正直言って、ちょっとだけ条件が良かったり、PR予算が違っているだけで、あまり違いがないというか……。
それで私、思いついたんです!!」
と、目を輝かせたアンズ先生に、花森が嫌な予感がした瞬間。
「私に毒を盛った犯人を見つけた出版社から、『サバイバルうま飯』を出そうって思って!」
という、とんでもない話が飛び出した!
は、犯人を見つける?
私たち、刑事でも探偵でもないんですけど!
と混乱する花森たちを置いてけぼりにして。
アンズ先生から、
「いい? 期間は1ヶ月間。
その間に犯人を見つけること!
一カ月で犯人を見つけられなかったら。
私、この話を他の出版社に持っていきます!」
とさらなる宣言がされたのであった!
『無茶苦茶だよ!』
と、あきれる4人の編集者を前にして、用事は済んだという顔で、「じゃあ、よろしく!」と言うと、会議室を後にするアンズ先生だった。




