第34話 真相
「ママ! どういうこと! 説明して!
この『はなれ』は、いったいなんなの!?」
と、突如現れた浅野先生に、アンズ先生が尋ねると。
「『はなれ』は、いまは『高級老人ホーム』のようなものよ」
と、あっさりと教えてくれたのだった。
「ママ、ここって芸能人や闇勢力の御用達の建物で。
いかがわしいことをしている場所じゃなかったんだ……」
「違うわよ……。今はね」
「『今はね』って! どういうことよ!」
「昔は、『はなれ』を芸能人御用達の建物として使ってて、大物俳優が不倫旅行に使ったり、不祥事を起こしたタレントをかくまったりしていたけど。
まあ、景気のいいときは、政治家の先生や建設業界のお歴々の密談とかに使ってもらっていたのよ。
いまはもう、そういうのはないわ。
最近は、利用する人が高齢になりすぎてて。おまけにコロナ禍もあって、数が激減して困ってたんだけど……。
都心の高級老人ホームで、わがままが過ぎて追い出された、昔馴染みの芸能人に『はなれ』に住みたいって、頼られちゃってねー。
『それなら、気が済むまでウチに泊まってください』
ってことにして。
地元の病院から、お医者様や看護師さんにも来てもらうようにして。
お金持ちだけじゃなくて、昔お世話になった人で、今は訳ありな人の終活の面倒も見るようになったら。
続々とウチを老人ホーム替わりに使う人が増えちゃって。
うちもコロナ禍で経営が傾いて、大変なことになってたから、渡りに船で。
そういう方々をお世話することにしたのよ」
「お世話するって……。
そういう施設って、いろいろと許可を取ったりしないといけないんじゃないの?」
「そうよ。本当はちゃんと許可を取らないといけないんだけど。
そうすると『はなれ』を改装したり、いろいろルールを作ったり、お金をかけないといけなくてね。
それに、入居者の方も、自由に建物を出入りすることができなくなるし。
いまはお酒もタバコも自由で、ときどきは女性を呼んだりするし。
昔はやんちゃだった人も多くて、いろいろと窮屈になるから、役所に届出するわけにも行かなくてねー。
うちは、お代さえいただければ、自由にサービスを提供できるし、入居者同士のもめ事とかもないのよ」
「若い人が多いのは、ママの関係者なの? 変なことさせてない?」
「あの子たちは、俳優志望で、アサノ企画や泊まっている方が面倒を見ている子たちよ。若い子に『勉強のため』って、ここで修行してもらっているだけよ。
将来の金の卵に傷が付くようなことはさせてないわよ!
そういうことは、お金がかかっても、ちゃんとプロを呼んでいます!」
「あのさー。十分いかがわしい施設じゃない!
そんな施設を、私が芸能界を引退するように仕組んでまで継がせようとしてたの!
信じられない! ひどいよ、ママ!」
「仕組んだって、人聞きが悪いわ……。
この旅館は、いろいろと表に出せない事情があるから、家族じゃないと怖くて継がせられないから。
もし杏子の芸能活動がうまくいかないようだったら、継いでもらえたらいいなって準備しているだけよ」
「それを、仕組んだっていうのよー!」
とアンズ先生が叫んだ、そのとき。
「涼子、いったいなんの騒ぎだい?」
と言う声がして、奥の暗がりから、ゆっくりと一人の老婆が現れたのだった。
思わず『妖怪!?』と思った花森の横で。
アンズ先生が、「おばあさま……」とつぶやく。
『おばあさまっ!?
この旅館の女将で、浅野先生のお母さま?』
それを聞いた花森が驚いていると。
アンズ先生から「おばあさま」と呼ばれた、この旅館の女将が、口を開く。
「おや、アンちゃんじゃないか。
そうかい、やっとこの旅館を継ぐ気になってくれたのかい」
とうれしそうにアンズ先生に向かって言うので。
アンズ先生が、
「おばあさま。どこにいるかと思ったら、こっちにいたのね。
私は遊びに帰ってきただけよ。違うのよ!」
と返事をすると。
女将が残念そうに、
「じゃあ、やっぱり涼子が、私の後を継がないといけないさー」
と言う。
アンズ先生が、
「一体いつから、こんな施設があったのよ……。私の生まれる前からよね!
何十年も前から、よく維持できていたわね……」
と聞くと、浅野先生が答える。
「それは、まあ。
ママもお母さんも、いろんな人脈があるから。
地元の偉い方や市議会の方とか……」
「ヤクザの親分とかでしょ! 錦鯉のおじちゃんみたいな!
それって地元の企業や役所まで巻き込んで、みんなで癒着してたってことでしょ!
やっぱりヤバいこと、やってるじゃん!
そんな旅館を、私に継がせようとしていたの!?」
とアンズ先生が怒鳴りつけると、
「アンズ!」
と女将の目がキラッと光り、怒鳴り返した。
「ここは、この町は。江戸時代から代々続く、宿場町だったんだ。
ろくな産業もなかったこのあたりでは、飯炊き女が春を売る(売春する)しかなかったんだ。
私も涼子も、そんな女たちが稼いでくれたお金で、育ったんだ。
よそでヌクヌクと育ててもらったあんたが、ガタガタ抜かすんじゃないさー!」
と凄みを利かせてくる。
そして、女将が悔しそうな顔をして、
「あーあー、ついご贔屓の役者の勧めで、娘に芝居なんてさせたのがよくなかったさー。
それで火が付いた涼子が『女優になりたい』って言ったとき、最後まで反対すれば良かったんだー。
わたしは、涼子が女優になるのには反対だったのに。うちの女たちが、
『涼子ちゃんが、映画やテレビに出るのを見るのが、私たちの生きがいだ。
生きる希望なんだ』
なんて懇願するから、ついつい……。
アンズ、ここは戦前も戦後もろくな産業のない貧しい町で、きれいごとだけではやっていけなかったんだ。
いまもそうだ。この旅館の裏家業がなくなると、この町は死んでしまう。
それだけは、絶対に許されないんだ……。
っううう、ううう、ううう!」
と、勢いよく啖呵を切ったと思ったら、急に! 具合が悪そうに、その場に倒れたのだった。




