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第32話 秘密は「はなれ」に

 母親の浅野先生とのコラボ動画は、旅館の広間で、お茶、踊り、お花を、浅野先生から教えてもらうという内容だった。


 アンズ先生は、幼いころから浅野先生とお稽古していたそうで、二人で基本をおさらいしながら、日本の文化として紹介する動画を撮影した。

 撮影の終わり際に、浅野先生からアンズ先生に、

「私のいいつけどおり、ちゃんとお稽古を続けていたのね。

 ママ、うれしいわ」

とお褒めの言葉をいただく。


 同じ家に住んでいるのに、二人とも忙しくて、最近ほとんど会ってなかったそうで、話に花が咲く。

 アンズ先生が、新刊本が発売されたことやPRで忙しくしていること、ママの知り合いの大御所の俳優にバラエティーで会った話などをしていると。


「そうそう、杏子。

 『はなれ』にはくれぐれも行っちゃだめよ。

 あそこには、ママがとっても大切にしている方々が、長期でお泊りになっているから。

 なかには気難しい方も、いらしゃるからね、近づかないでね」

と改めて釘を刺される。


「はーい。わかってまーす!

 気難しいといえば、パパは元気?

 あーんな、めんどくさい人が、老人ホームなんかに入って大丈夫なの?

 ときどきは家に帰るって聞いてたけど、いつ家に戻ってくるの?」


とアンズ先生が、浅野先生に聞くと。


「それが意外と老人ホームが気に入ったらしくって。

 外出許可取って東京に行ってもいいって言われているのに、あまり帰りたい気にならないみたい」


「そうなんだ……。戻ってくる日がわかったら、教えてねー」


 こうして、配信用の撮影はすべて終了した。


 夜になり、お風呂をいただき、美味しい夕食をいただく。

 料理を用意してくれた中居が退席すると、さっそくアンズ先生が、話し出す。


「さっきも、『はなれに近づくな』って言われたんだけど。

 そもそもさー、イマドキ田舎の旅館を娘に継がせようとするとか、おかしくない?

 インバウンド需要とかで、この町に外国人観光客が殺到しているとかなら、わかるけど。

 この旅館に、そんな海外のお客さんとか、ほとんどいないし。

 今日も、お客さんはそんなに泊まっていない。

 コロナ禍のときから、つぶれずにやっていけているのが不思議だったのよ。

 この旅館には、やっぱり何か〝裏〟がある!

 今夜、みんなが寝たら、『はなれ』の様子を見にいくわよ!」


 こうして、アンズ先生の提案で「はなれ」の建物に近づいて、様子をうかがうことになった。

 メンバーは、アンズ先生と花森と、OCHAN.の三人。

 安島ほかのスタッフには、アンズ先生たちが部屋にいるかのように偽装してもらうことになった。


 深夜、少ない泊り客が、全員寝てしまったころ、アンズ先生と花森と、OCHAN.の三人がジャージ姿で行動を開始する。

 当然、起きている従業員や警備員がいるが、アンズ先生は昔、よく旅館を抜け出して街に遊びにいったいたので、簡単に抜け出せた。


 外は真っ暗で、満点の星。

 本館から国道を渡って、道を挟んで奥にある「はなれ」にそろそろと近づく。

 田舎の夜なので、道にはだれもいない。

 ただ、「はなれ」の入り口や駐車場にセコムとかあるかもしれないので、「これ以上近づくのは、危険じゃないか」と花森が思っていると。

 アンズ先生が、駐車場を突っ切って、建物の横手に向かってどんどん歩いていく。


「先生、ちょっとちょっと!

 まずいですよ! 見つかります!」

「大丈夫だから、任せて!

 あ、OCHAN.はストップ!ここで、待ってて。

 それで、誰か来ないか、見張ってて!

 もし誰か来たら、すぐスマホで知らせてね」

「わかりました!」

「行くよ、花森!」

と言うとドンドン進んでいく、アンズ先生。


 何か確信があるのか、と追いかけると横にある出入り口まで辿り着く。

 そこでアンズ先生がスマホに何か打つと、ドアがガチャっと開いた。

 やばい、誰か出てくる! 隠れなきゃ!

と花森が焦っていると。


 空いたドアから、若い警備員が半身を出すと、

「アンちゃん、こういうの困るよ!」

とアンズ先生に話しかけてきた。


「ケンジ!

 久しぶり! 大きくなったね!

 お母さんは元気にしてる?」

「いいから早く入りなよ!」

と、警備員がドアから手招きしてくる。


「はいはい、わかった、わかった!」

と言って、ドアから中に入っていった。

 あわてて、花森も続いた。

 中に入ると、花森より少し若そうな警備員が、アンズ先生と小さな声でなにかもめている。


「アンちゃん、もし見つかっても『そのへんから適当に侵入した』ってことにしてくれ!」

「あんたさー、いつから私にそんな生意気な子と言えるようになったの!」


「しー、静かに! 見つかっちまうよ!

 中を見たいんだっぺ? さっさと見てきてくれ。

 それでさー、俺もう少しで交代だから、飲もうよ。

 俺、酒強くなったんさー(笑)」

と言うケンジを無視して、先に進み出すアンズ先生と、それを追いかける花森。


「アンズ先生!

 中の警備員と話がついてて、建物の中にまで侵入するつもりだったんなら。

 先に言っといてくださいよ!」

「だって、それを言ったら、花森は反対するでしょ!

 だいたい、『様子を見にいく』って外観を見るだけじゃ、なにもわからないし!」

「それはそうですけど……」


 ちなみに、OCHAN.は事前に聞いていて、特に反対もしなかったそうだ。

「やっぱり、あの人、ちょっとどうかしてる」

と思う花森だった。


「今日しか調べる時間がないんだから、強行突破で証拠を見つけるわよ!」

「見つかったらどうするんですか!」

「大丈夫!

 私、この旅館の女将の孫よ!

 見つかってもなんとかなるって!

 それに、後ろめたいことがあるのは旅館のほうよ!

 これは、その証拠を握れるかどうかの勝負なのよ!」


 ということで、無事?「はなれ」に潜入した、アンズ先生と花森だった。

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