第31話 幼馴染
次の日は、部屋で美味しい朝食をいただき、旅館の調理場をお借りして、配信用の動画撮影がスタート!
まず最初の撮影では、アンズ先生が板長に料理をふるまい、採点してもらう。
メニューは、「ニジマスの塩焼き」だ。
まずは包丁を研ぎ、板長に見せて合格をもらうと、濡らした木綿でまな板を拭いてから、手際よくニジマスの鱗を撮ってさばいてはらわたを取ると。
「お嬢、包丁さばきが板につきましたね」とほめられる。
うれしそうな、アンズ先生。
さばいたニジマスをアンズ先生が山椒を隠し味に塩焼きにして、板長に味わってもらう。
板長が、一言「うまい。コメか酒が欲しいな」とほめて、一本目の撮影が和やかに終了した。
次の撮影では、本で紹介している料理を一品作って、板長に審査してもらう。
『アンズ先生のサバイバルうま飯』の「サバイバル」にかけて、旅館がある山で採れた「山菜」を使った、手軽な和食を調理する。
メニューは、地元の山菜を使った「炊き込みご飯」だ。
それに、糖質を気にしたメニューが多いアンズ先生にピッタリな、群馬の名産の一つである、こんにゃくを使って、食べ応えを足している。
まあ、コラボするために、いろいろ無理やりこじつけだだけだなんだけど(笑)、と撮影を見ながら苦笑いする、花森だった。
さらに、「板長に和食スイーツを習おう」というコンセプトで、群馬県の名産である「焼まんじゅう」を、抹茶風味でかつ低糖質の餡を用意して、共同作業!
これは、スイーツ本への布石でもある。
こうして取れ高たっぷりで、配信用の撮影を終了させると、昼食はアンズ先生が創った料理と、板長が用意してくれた料理を、みんなで存分に味わった。
午後の撮影までの休息時間中に、アンズ先生が「ツヨシ、ちょっといい?」と言って、板前の仁科に声をかけると部屋を出ていった。
それを見て、
「あの二人、怪しいですよねー!」
「私もそう思ってました!
あれは絶対、昔、なにかありましたよねー」
とキャッキャと盛り上がる、安島とOCAHN.たちを、あきれた様子で花森が見ていると。
「そういえば、花森さんは、どっちと付き合っているんですか!
鴻上さん? 黒川さん?
どっちも花森さんの命の恩人ですよねー♪」
と、OCAHN.がニヤニヤしながら、聞いてくる。
『この人、私を危険な目に会わせた張本人なのに、よくそんなことが聞けるわね
!』
と思いつつ、
「今は、アンズ先生の本のことが、最優先なんで!
誰かと付き合っている暇なんてありません!
みなさんも、午後の作業の準備をお願いします!」
とピシャっと言って、話を断ち切った。
旅館の裏手の下には川があり、アンズ先生と中川の二人で、その川べりに降りていった。
「ねー。休憩時間中にタバコ、吸わなくていいの? 私、気にしないよ?」
「お前なー、板前が煙草を吸うわけねーべ。
もうとっくの昔に辞めたさー」
「そーなの?
私が子供のころは、板長がタバコを吸ってたよ。
私、『タバコくさーい』っていつも言ってたもん」
「まじかー。
それ平成だろ? やべーべ」
「ツヨシ、それでさー。お願いしていた『はなれ』のことだけど。
なんか、わかった?」
「だからー。俺たちは、まったく関わらせてもらってないんだって。
なぜかわからないけど、本館と『はなれ』で、スタッフはまったく違ってて、交流もない。
おふくろに聞いても、なにも教えてくれないんだ」
「それって、ヤバくなーい!
怪しいことをやってるんじゃない?」
「従業員たちも内心は〝ヤバい〟とは思っている。
たまにヤバめな感じの連中が出入りしたり、妙に若くてビジュアルのいい男や女が出入りしていて、『なんか、やってんなー』って怪しんでいる」
「そうなんだ……」
「だけど、こんな田舎じゃ、ろくな就職先ないしな。
ここで雇ってもらえている俺たちは、いい方なんだ。
ほかに行き場所もないしさー」
と、アンズ先生が期待していたような旅館の情報は、手に入らなかった。
「アン、そういえば『ケンジ』のこと、覚えているか?
子どもの頃、アンが可愛がってた、うちで働いていた中居の子どもだった江原健司っていたべ。
ケンジは、いまはここを警備している『ニシキ警備』で働いているんだ」
「へー、あのケンジが。
なつかしいな……。最後に会ったのって、あいつがまだ大学生のころだったはず」
「あいつ、この辺で顔を見かけても、俺に挨拶しないで、コソコソしてて。
あいつに会ったら、『先輩に挨拶ぐらいしろ!』って言っといて。
……そういえば、川に流されたんだって? 大丈夫だったん?」
「昔はよく泳いでいたから、平気だったよ。
ツヨシと、川に泳ぎに行ってたのが、役に立ったわ(笑)」
なんて、川の近くで休憩時間の終わりまで、たわいのない話を続けた二人だった。
休憩が終わり、午後の撮影がスタートした。
アンズ先生のママである浅野涼子先生が、旅館に到着して、コラボ動画の撮影に合流する。




